キャサリン編 力になりたい
とにかく俺達は綺麗事だけでも実利だけでもなく『そうしたいと思う』からこそサディマがここで生きていけるように力になりたいと考えるんだ。
「取り敢えず一週間、防疫の観点からそちらの部屋で過ごしていただくことになりますが、何か要望があれば可能な範囲でお応えしたいと思います。なのでまずは申し出ていいただければ検討いたします」
俺が告げると、
「そうだね。今日はさすがにこのままゆっくりさせてもらって私なりに状況の整理をしたいと思う。でも同時に<新しいAI>の情報も確認できるようにしておいていただけると助かる。私は気持ちが乗った時に一気に仕事を進めたいタイプなんだ」
とのことだったので、
「承知しました。そちらの端末からも確認できるようにしておきます」
俺も快諾する。現状では<朋群製AIのアルゴリズム>は大部分がオープンソースになっていて誰でもアクセスできる状態だった。その上でそれぞれ受け持つ範囲を決めていただけだ。いずれはその辺りも考えないといけないものの今はまだまだ朧げな形にさえなっていないわけで。
加えて<人間との関わり方>に当たる部分については基本的に地球製AIのブラックボックスをそのまま利用しようと思ってる。あくまで、
『何をもって人間とするか?』
の部分を新規に作らなきゃいけないだけだな。ただそれで問題なく稼働できるかどうかはやってみないと分からない。その部分の違いが<地球製AIのブラックボックス>と噛み合ってくれるのか否か。そこの調整についてはやっぱり専門家でないと難しいだろうし。
しかし、だからといって急かすつもりもない。改めて言うが、最も重要なのは彼がここで平穏に生きていけることなんだ。それ以外はあくまで<余録>でしかない。
と、俺がそう自分自身に言い聞かせているところに不意に、
「ところで気になっていたんだが、せっかくだから確認させてもらいたいんだが、私が保護される時に見掛けた影がビアンカによく似ていた気がするんだ。あれも彼女と同じ<アラニーズ>なのかい?」
問い掛けてきた。これには俺も虚を突かれた形になって、
「ああ、彼女はビアンカの娘だよ。名はキャサリンだ」
そのまま答えてしまった。するとサディマも目を見開いて、
「ビアンカの娘!? ということは久利生との娘ということかい!? あれほど形質が違う者同士で妊娠が可能なんだ!?」
さすがに驚愕を隠しきれなかった。が、俺は慌てて、
「あ、いや、その辺りは色々複雑で、説明が難しいんだ。だから落ち着いてから説明しようと」
口にしたのだった。




