キャサリン編 防疫室
＜治療カプセルを用いたメディカルチェック＞も、＜医療用ナノマシン＞が物理的限界を迎えることでストックが徐々に減っていってるから永久的に行えることじゃない。だから二十二世紀頃程度のレベルのそれは行えるように準備は進めている。
＜マイクロMRI＞や＜マイクロCT＞についてはすでに試作品がコーネリアス号内に設置されて試験運用が始まってる。主に＜食用として捕らえた獣＞を用いて。ただ今の時点だと検査結果に＜無視できないブレ＞が生じるから精度の点で実用化には至っていない。
それでもMRIやCTが実用化された二十一世紀初頭頃のそれに比べれば十分に＜同等品＞なんだが、どうしても＜医療用ナノマシンの精度＞と比べると＜話にならないレベルの差＞があるからなあ。
対して＜超音波エコー＞の類についてはもう十分に問題ないレベルの完成度には至っている。超音波エコー自体が＜枯れた技術＞だから今の時点でもほぼ限界の精度は出せるんだよ。それ以上を求めるならもう別の技術に移るしかない。
とまあそれは余談なのでさて置くとして、サディマの健康状態については、
『多少の衰弱と栄養失調及び軽い脱水症状こそ見られるものの生命維持には今すぐ支障がある状態にはない』
のが確認された。この結果に俺もホッとする。そして当然、シモーヌやビアンカや久利生やシオやレックスもだ。
念の為、コーネリアス号の格納庫脇の＜隔離室＞で当面の間は過ごしてもらうことになるものの画面越しでは＜かつての仲間達＞と対面してもらうことになっている。
とは言え＜オリジナルの記憶＞が戻ってない状態ではそれはあくまで儀礼的な意味しかないかもしれないが。と同時に、それが記憶を取り戻す切っ掛けになる可能性もあるわけで。
ちなみに＜隔離室＞については内部に区切りを設けて、
＜医学的に隔離しつつも人間を歓待する機能を持った部屋＞
にしてある。これはビアンカやルコアを迎えた時に始めたのをさらに洗練させたものだ。だから今では＜まあまあ上等なホテル＞と言っても差し支えない程度の設備にはなっている。
が、サディマ本人には、
「疫学的な観点から当面の間、防疫室で滞在してもらうことになるのでご容赦願いたい」
と告げてある。これについても彼は、
「ああ、記憶は戻ってないが何となく分かるよ」
と承諾してくれた。この辺りも本当にありがたい。基本的にそういう考え方ができる人間を採用したんだと分かる。それでも極限状態に追い込まれた時にはさすがに難しかったみたいではある。
