キャサリン編 アラニーズとしての知覚能力
ドウを伴って村を出たキャサリンは、目の前に広がる草原を前にしばらく立ち尽くしていた。が、それが単なるセンチメンタリズムのようなものではないことを俺は知っている。彼女は自身の五感をフル活用して今日の獲物を得るための勘を働かせているんだ。視覚や嗅覚や聴覚は当然として、アラニーズの体に生えている<産毛>に感じる空気の流れの中からも何かを感じ取っていることはビアンカの証言からも確認されている。
「言葉で上手く説明するのは難しいけど、無理に何かに当てはめるのなら<匂い>が近いかなと思う。空気に混じった何かの成分を感じ取ってるような気がするんだよね」
レックスやシオが<アラニーズの生理機能>について詳細に調べようとしていた時に彼女がそう語っていたそうだ。
「産毛が匂いそのものを知覚していると言うよりは匂い成分としての微小な物質の存在を感知しているんだろうね」
レックスもそう推測している。これにより遠方の獲物の存在を検知する感じかもしれない。
そのためにキャサリンは神経を研ぎ澄ませているんだろうな。その様子が<アラニーズとしての知覚能力>を持たない俺達には、ただ遠くを見つめているようにしか思えないと。
それどころか何かセンチメンタリズムに浸ってるようにすら見えてしまったりもする。
そういえば地球のネコなんかも、
『何もない空間をじっと見つめていたりする』
ことがあるらしいが、それも人間(地球人)には知覚できない何かに意識を向けているだけらしい。ネコには実際に何かが『見えて』いるんだろうなあ。なのに人間(地球人)はそれをオカルトに結びつけようとしてしまう。実に困った<習性>だ。そんなことをしているから事実を正確に認知することができなくなったりするんだろうに。
『自分が見たいものを見ようとする』
これまた<人間(地球人)の悪癖>か。
とはいえそれをただ否定しているだけでも<人間という生き物>の理解が難しくなると思う。そういう部分も含めたすべての要素が人間という生き物を構成してるわけで。それを認めないのも<自分が見たいものを見ようとする悪癖>になってしまうだろうし。
俺はキャサリンのことを理解したいと思う。<朋群人>として。どれほど野生の獣としか思えないような振る舞いをして見せても彼女は<ビアンカから生まれた人間>なんだ。その事実を認められないような狭量な人間ではいたくない。
俺自身の存在を他人から認めてもらうためにも。




