キャサリン編 丸投げするのは
その<変わり映えしない日常>として、今日もキャサリンはドウを伴って自宅から出ていく。
キャサリンの<自宅>はビクキアテグ村を取り囲む柵のすぐ脇にあり、誰とも顔を合わさずに出入りができるようになっている。柵の扉については、キャサリン自身が鍵の開け締めをするようになってくれている。
もちろん幼い頃はその必要性が理解できず力尽くで開けようとしたり開けっ放しで出て行ったりもしたが、ドウがひたすら淡々と示してくれた<手本>を見てきたことでいつしか真似をするようになり、今では何をどうすればどうなるかも分かっているようだった。
ただし、なぜ鍵を掛ける必要があるのかはよく分かっていないらしい。彼女にしてみれば、
『敵の襲撃があればその度にただ撃退すればいい』
だけだろうから、
『柵を作り扉に鍵を掛けることで外敵の襲撃を予防する』
というのがよく分からないんだろうな。だけどその辺りについてはロボットがフォローすればいいだけだしそんなに大きな問題じゃない。必要であれば村の外に出入りするための扉すべてにロボットを常駐させて<ドアマン>よろしく開け閉めを完全に任せてしまえばいい。
しかしそれだと『柵を作り扉に鍵を掛けることで外敵の襲撃を予防する』という認識が育ちにくいと考えてあくまで自分の手でそうすることを学んでもらいたいんだ。キャサリンには理解できなくても他の子供達が理解してくれれば十分。だからこそさっきも言ったようにロボットはあくまでフォローに徹するだけ。ロボットに頼りきった生き方をするつもりもさせるつもりもない。生身の人間だとついついミスをしたりサボってしまったりする部分を補ってもらうだけなんだよ。まあそれが行き過ぎて、
『ロボットに頼りきってしまう』
という状態になったりするんだろうが。その辺りについても自らを客観視できればほどほどに抑えられるんだろうな。
『扉と鍵の開け閉め』
たったこれだけのことですらあれこれ話すべき点はある。考えなきゃいけない点はある。それが『人間社会を作る』なんて規模の話になればそれこそ無数に考えるべきことが出てきてしまう。今の地球人社会はその辺りのフォローについてAIを利用している形なんだ。人間だけでそんなことを考えていたら時間がいくらあっても足りないし、人間の場合はどうしてもそれぞれ考え方や捉え方が違うから見解を統一させるだけでも並大抵のことじゃない。
『人間として生きる』というのは本当に大変だとしみじみ思うよ。考えなきゃいけないことが多すぎる。そしてそれをどこかの誰かに丸投げするのは危険だと。




