未来編 自分だけがよければいいと
まあそれはさておき、ケインが基本的に未来達とは積極的に関わるような様子はなかった。だがビアンカも久利生もそれを咎めることはしない。関わらせようとして圧を掛けることもしない。それは俺も同じ。
『他者と穏当に関わる』
のは、
『人間として生きていく』
には必要不可欠なことだ。特に人間(地球人)の場合は<人間が生きていくために必要なインフラが整えられた環境>でなければほぼ生きていけないわけで。『人里離れた原野で自給自足で生きる』にしたってそのために必要な資材を手に入れるには結局のところ<人間のために用意されたインフラ>頼みだし、そもそも<自給自足を行うために必要な知識>さえ<他の誰かから得たもの>だし。
対して<朋群人>の多くはまだ<野生回帰能力>を失っていないから地球人ほどはインフラが必須ではないにしても、ケインの場合は一人で生きていくのはたぶん難しいだろうなという印象がある。それはただの印象に過ぎないとしても俺達が彼を見捨てないでいるには十分以上の動機ではある。
『家族や仲間を見捨てないという姿勢を実際に示す』
には必要なものだ。加えてケイン自身にとっても<自分が見捨てられないという安心感>は必要だし。
精神の安定を得るにはそれが重要だと分かっているだろうに地球人の中にはそれを疎かにするのが多くいて本当に不思議ではある。まあ自分自身が十分なそれを得られていないから実感がないのかもしれない。にしてもなあ。
『自分だけがよければいいと考えてる奴が多過ぎる』
みたいな発言もよく目にしたが、そうやって他人を罵っている人間こそが『自分だけがよければいいと考えてる』だろうに。
だってそうだろう? 自分の鬱憤を晴らしたいがために、自分の苛立ちを発散したいがために、他人を口汚く罵るわけだから。<それによって他人が不快になることもあるという事実>には目を瞑ってるだけだし。これが『自分だけがよければいいと考えてる』以外の何だと言うのか。
未来達はそんな言い方はしないんだ。する必要を感じていないだろうから。それぞれが十分に<自分が見捨てられないという実感>を得ているだろうし。それを得られる状況にできているというのを大人として誇りに思う。無論それは俺一人の力で成し遂げられてることじゃない。そもそも未来達の親であるビアンカや久利生が自らそれを成していなければ赤の他人でしかない俺にはそれこそ容易なことじゃないし。
それを認めなきゃな。




