未来編 生じる事象の一つ
『改めて言うが俺がこれまで語ってきたことのすべては俺自身が人間として生きるために必要なものなんだ』
本当にこれに尽きる。他人からはどんなにつまらないものであっても、読むのが苦痛なものであっても、無価値なものであっても、俺にとっては必要なんだ。俺が人間として人間と関わって生きていく上で。
<フィクションのキャラクター>には必要のないものなんだろう。そのキャラクターの考えを延々と描写するなんて、そんなものに金を出そうと考える人間はほとんどいないんだろう。それはそれで構わない。他人がどういう考えを持って生きていても俺にとっては大した問題じゃない。
俺は生きた人間だ。独立した一つの人格を持つ。その事実だけが大事だし、それ以外はすべて付随してるだけのものだ。
そして俺自身にとってはそうであるように、俺以外の人間も当然そうなんだ。もし自分がシュミレーション内の<データ人間>でしかなかったとしても、
<そこに存在する自分>
というものは確かに存在する。だからこそ自分を大切にしなきゃならない。自分以外の人間も同じ。この事実と向き合えばこそ自分以外の人間を疎かにすることは翻って自分自身を疎かにするのと同じなんだ。『自分を大切にする』のと『自分以外の人間を大切にする』のは同義なんだよ。
その中で生きるために全力を尽くした結果としてどちらかの命が失われることがあっても『疎かにした』ということにはならないと思う。
互いに『生きるために全力を尽くした』のなら。
『自分が生きるためには他の命を奪うしかない』
この事実についてもそう考えれば矛盾は生じないと俺は感じる。それを矛盾だと感じる人間もいるにしてもそのこと自体に俺が異を唱える必要も感じない。
人間はなまじ高い知能を得てしまったことで野生であった頃には考えなくてもできていたことに<意味>を求めずにはいられなくなってしまった。だがそれを嘆いていても仕方がない。
『人間というのはそういう生き物なんだ』
からな。だったら俺も自分が人間であることと正面から向き合うだけだ。受け入れるだけだ。<人間という生き物が得た能力>をフル活用して。俺がこれまで手記としてしたためてきたすべてが、
<人間として生きているがゆえに生じてきたもの>
なんだよ。そこに商業的な価値があろうがなかろうがそんなのは瑣末な問題でしかない。<経済活動>は人間が生きる上で生じる事象の一つでしかない。経済活動なんていう概念すらなかった頃でさえ人間は生きていたんだ。




