未来編 イザベラ
地球人は、
『野生の生き物は本能に忠実で人間のように自然に反した生き方はしない』
と思ってることが多いようだが、実はそれは地球人側のただの思い込みに過ぎないんだよな。地球に生息していた野生の動物でも、同性同士で番ったり、時には異種族に対して求愛行動を取ったりもする。地球人が考えてるほど『常に正しい振る舞いをしてる』わけでも『本能に忠実に従ってる』わけでもないんだよ。例外的な振る舞いをする個体は必ずいる。
だからこそ地球人よりはずっと野生に近いはずのキャサリンでも、ロボットであるドーベルマンMPM十六号機をまるでパートナーのようにして共に行動するなんてこともあるんだ。
一方、キャサリンとよく似て野生に限りなく近いメンタリティを有しているイザベラは<血の繋がりはない兄>である未来に対してかなり好意を抱いてるようだった。これもいわば<異種族への好意>と言えるかもしれないが、彼女はあくまで<朋群人>であり<人間>なんだ。だから同じ人間である未来をパートナーに選ぼうというのならこれといって問題はないだろう。実はキャサリンもイザベラも<地球人そっくりの部分の臓器>はそれなりに機能していて、特に<生殖器>については母親のビアンカと同じく問題なく機能しているのが確認されている。
実にセンシティブな話ではあるものの学術的な見地からは重要な点だからな。ビアンカが久利生との子である黎明を産めたのと同じくイザベラも未来の子を産める可能性は高いんだ。黎明は未来の<異母妹>なので遺伝子的に<肉親>であるものの、イザベラはビアンカが自家受精したことで生まれた子だから血縁はまったくない。ゆえにパートナーになる上で医学的には何も問題はないだろう。
で、当人はそれを知ってか知らずか、
「ミライ……!」
ルコアと未来と黎明が朝食をとっているところに押し掛けてきて、
「ワタシトツガエ!」
いきなりそう口にした。実年齢ではまだ九歳にも拘わらず見た目にはすっかり<大人>でありアラニーズとしても実際<成体>と言っていいだけにストレートだった。ちなみに服は着ていない。まだ着ようとはしてくれない。その点でも実にセンシティブだ。
でもまあ、ノリが未来とそっくりなのは彼を見てきたからだろうな。
そこに、
「イザベラ、そういうのはご飯の後でね」
母親であるビアンカも現れて彼女を諫めた。いくら見た目には成体と言ってもまだ九歳のイザベラにはまだ早いと思ってるんだ。これには俺も基本的には賛同する。陽や和はそれぞれもう十代半ばだったから肉体的にも十分に成熟してたし本人達の気持ちも確かだったがゆえにパートナーになるのを認めたものの、さすがに九歳だとなあ。




