閑話休題 未来の想い
未来はクロコディアである。久利生と來の間に生まれ、姿は地球人そのままであるものの水中への適性と身体能力はクロコディアに準じたそれを備えている。加えて肉体の成長は早く、実年齢はまだ十一歳であるにも拘らず外見上はもうすでに二十代の立派な青年のそれだった。つまりクロコディアとしては『成人している』と言っていい。
地球人の感覚では<十一歳>は、
<保護者の庇護下にあるべき子供>
なのだが、未来は狩りの腕も優れていて、外敵に対しても自力で対処できる、見た目通りの成体なのだ。そして彼は『成体として』ルコアに情を寄せている。『子供心に』じゃなく、一人前のクロコディアとして。
二十四歳のルコアと、(外見だけだが)二十代の未来。傍目には何の問題もないように見えるが、ルコア自身の気持ちとしては、悪からず想ってはいるもののやはり実年齢が十一歳の未来のことはそれこそ生まれた時から見てきたし、まさしく『世話をしてあげた』相手であり文字通り<年齢の離れた弟>のような存在なので、<恋愛対象>として見るにはそれなりにハードルがあるのだろう。
だが、未来の方は真剣だ。
「ルコア、俺のパートナーになってくれ!」
最近では面と向かってそんなことも口にし始めている。
元々ルコアに懐いていた彼だったが、彼女が自分を庇って怪我をしてからは<特別な感情>が芽生え始めていたようだ。とはいえ彼自身がその気持ちのなんたるかに気付くにはいささか時間を要したのだろう。そして今、自分の気持ちの正体に気付いたことでちゃんとそれを伝えようとしているわけだ。
この辺りは地球人よりもはるかに野生に近いだけあってストレートに表現してくる。『想ってるだけ』とか『相手の方から察してくれるのを期待する』とかはしない。ただ、ビアンカや灯や久利生を<親>として育ってきたからか、ただ自分の気持ちを一方的に押し付けるだけじゃなく、あくまでルコアの気持ちを慮ることもできていた。
精悍で顔立ちもそれなりに整っておりフィジカルも強くかつ相手を慮ることもできるなど、地球人社会であれば『モテない道理がない』彼ではあるものの未来自身はルコア以外に対して同じ気持ちを持つことはなかった。一緒に村で暮らしているのは仲間であり家族ではあるもののそれ以上ではない。彼にとって『それ以上』なのはルコアだけだった。
俗っぽい言い方をするならば、
<運命を感じる相手>
とでも例えるべきか。
彼は別に運命論者ではなかったが。




