閑話休題 ルコア・ルバーン・ドルセント
ルコア・ルバーン・ドルセントは、<サーペンティアン>である。地球における空想上の生物<ラミア>を思わせる姿をしているがゆえにその種族名が与えられたが、サーペンティアンと分類される存在は現時点ではルコアただ一人だった。
これは<不定形生物>と仮称される存在が落雷などの強い衝撃を受けることで変質したがゆえに誕生した形であるため、同種が現れる可能性が低いためだろう。対して、見た目だけは似ているようにも思えるもののその体の構造そのものはまるで別物であるヒト蛇は、ヒト蛇として誕生したものが不定形生物に取り込まれることで<そういう種>としてデータが残るのか、ヒト蛇としての形質を持つ存在が何度か確認されている。
しかしルコアはもちろんこれまでそのようなことがなく無事でいられたためか、今の時点ではヒト蛇のように何度も顕現してはいなかった。もしかすると他にも同様の事例はあるのかもしれないが、確認はされていない。
そして、以前はビアンカも同じだった。アラニーズであるビアンカも、ヒト蜘蛛と称される種族と形態こそほぼ同じだが形質という点ではまるで異なっており『まったく別の種』であったため、ビアンカ一人だけがアラニーズだった。しかしその後、<自家受精>という形で、
<アラニーズとしての形質を持ったビアンカの子>
が三人誕生したことにより、<種としてのアラニーズ>は四個体となった。これは、ビアンカと同じく<不定形生物が変質した個体>であるルコアにも同じことが起こる可能性を示唆している。
<既に存在している種をほぼ完全に再現した個体>の場合は元の種を『ほぼ完全に』再現しているからか自家受精は生じないと見られているものの、
<それまで存在しなかった種として顕現した個体>
の場合はその体に複数の遺伝子を備えており、しかも<複数の遺伝子を基に発生した卵細胞>と<複数の遺伝子を基に発生した精細胞>を作り出すことからそれらが<自家受精>という形で受精し<子>を生す可能性があったのだ。
ルコアの場合は現時点ではその兆候は見られないが、すでに便宜上の年齢では二十四歳となった彼女でもビアンカと同様に『自家受精によって子を生す』ことも十分に有り得た。
このことは本人にもすでに伝えられており、あらかじめそれに備えた意識作りも行ってもらっている。<地球人>の場合はそのようなことは基本的に『起こり得ない』がゆえに心構えを持つことなどおよそ現実的ではないが、母や姉のような存在だったビアンカを見てきたルコアにとっては<身近な話>であった。




