都合が悪いから(なんてのは無理だよな)
俺達の<縄張り>に隣接して縄張りを持つようになったものの、駿達はこれといって敵対的な様子は見られなかった。俺達が厄介で危険な獣だということを向こうは向こうで認識してるんだろう。
必ずしも友好的ではなくても、馴れ合うことはできなくても、隣り合って生きることはできる。『厄介なのはお互い様』と考えることができればな。
そうだ。俺はどうしても考えすぎる性分だから、自分の置かれてる状況を理解しようとして難しく考えてしまっていた。
何度も自分でも考えていたはずだが、ただそこにいることを受け入れてしまえばいいだけの話なんだよな。
もっとも、その『受け入れる』ってことが難しいんだが。
人間ってのはどうしても、自分に都合の悪いものは遠ざけたい、見たくない、知りたくない、関わりたくないって考えがちだし。
とは言ってもなあ。都合が悪いからって『まったく関わらずに生きる』ってことがまずできない。部屋に引きこもって誰にも会わないようにしようとしても、実は一番関わり合いたくないであろう家族と関わらないと引きこもってさえいられない。
それが現実だもんなあ。
だから結局、現実ってのはきちんと向き合わないといつまで経っても苦しみ続けることになるってことなんだろうな。向き合った上で、どうしようもないものについては敢えてスルーするとかってのが必要なんだろう。
とかなんとか、やっぱり考えすぎてるな。
そんな自分に苦笑いを浮かべながらも、今日も駿の群れが密林の中を走り回ってるのがたまに見えたりするのに俺はホッとしてるのを感じてた。元気そうで何よりだ。
しかも、駿達の姿が見えるのは、必ず陸号機がいる辺りだ。陸号機が自分達を守ってくれると認識してるのかもしれない。
「しっかりと野生に戻りつつ、自分の経験を活かしてますね。それなりに知能もありそうです」
とは、シモーヌの弁。
むしろそうならありがたいよ。無駄に敵対してこないのならこっちも手を出さずに済む。
それにこっちは今、ベビーラッシュで大変なんだ。そこまで気を遣っていられない。
深の交と環。
鷹と俺の子の彗。
誉のところの保と翠。
翔のところの凌凌。
明と角の子、鋭。
凱のところの円と妍はもうすでにやんちゃ盛りだ。
ちなみに、あまり触れてこなかったが、力と悠の息子の晃はまだ三歳にもなってないってのにもう体もかなり大きくなって、勝手に川を下って本流の方に行ったりもしてるらしい。姉の來以上にたくましいやつだ。
でもその代わりか、光とは遊ばなくなってしまった。実年齢は九歳となり見た目にはハイティーンという感じながら絵本とかを読むのが好きな光とは、遊び方が合わないんだろう。
それに光には今、イレーネがいるからな。さみしくはないようだ。




