陽編 それも人生
『両親の評価を下げるようなことをしたくないから俺は普段の振る舞いにも気を付けるように心掛けることができてたと思う』
俺が露骨に攻撃的にならずにいられたのは、他者を蔑むような態度を取らずにいられたのは、なるべく迷惑を掛けないように気を付けていられたのは、結局はそういうことなんだろうな。ついつい感情的になってしまいそうになった時には両親の顔が頭をよぎったりしたしな。
両親が亡くなった後でも光莉の病気が進行するまでの間はそんな感じだった。その後はまあ、精神的に追い詰められていって両親のことまでは頭をよぎらなくなっていったりもしたが、代わりに今度は光莉のことを強く意識するようになったかな。俺が事件なんか起こそうものならあの子がどうなるか考えただけでもゾッとする。
まあ、もしそんなことがあっても今の地球人社会ならちゃんと保護はされたはずなんだ。治療費が払えなきゃ病院にはいられなかったにせよ、介護自体はメイトギアがいれば何とかなったはずだし。
いや、むしろ俺がいない方が手厚く保護してもらえたかもしれない。それについてあれこれ妬んでくる輩はいてももう人間としての意識も失った頃の彼女ならネットなんか見ることもなかったし、何を言われても理解もできなかっただろうし。
だから本当は俺自身もそこまで追い詰められる必要もなかったんだろうなと今なら感じるよ。だが人間ってのは状況の真っただ中にいる時にはえてして客観的なものの見方や思考ができなくてそれゆえ余計に追い詰められていく場合も多いんだろう。加えて当時の俺はメイトギアに対して強い嫌悪感も抱いていたからとにかく頼りたくなかったし。
でもそれが駄目だったんだろうな。その点でも『俺がいなければ』光莉の介護はメイトギアに任せることができてまだ何とかなってたのかもしれない。
俺だってこんなもんだ。あれこれ考えてても<正しい答>なんてものに辿り着けることの方が珍しい気もする。それでも、考えずにそれが成せるのなら誰も苦労はしないだろう。どのみち考えることでしか道は見付けられないんだと思うよ。俺みたいなタイプは特に。『考え過ぎてドツボにはまる』ことは避けるようにしなきゃいけないにしても、そこを気を付けていれば問題ないはずなんだ。本来は。
惑星ハンターなんかを始めてしまった頃はまさしく『考え過ぎてドツボにはまった』状態だったんだろうけどな。
でもまあ、『それも人生』ってもんだろうさ。




