陽編 搬入作業
とにかく、あれこれ背景はあるが陽も和も飛び出してきた<子供役のホビットMk-Ⅱ>に対して過剰にキレる理由がなかった。そういうことも有り得るとあらかじめ想定していたし、自動車を運転する者として必要な心掛けであることも理解していたし、なにより結果としてどちらにも被害はなかったのだからそれで終わった話なんだ。ちゃんと<謝罪>もしてもらえたわけで。
だからそのまま倉庫に向かったってことだ。
倉庫でオリコンに入った物資をホビットMk-Ⅱに渡し、代わりに木箱に入れられた物資を受け取る。中に入っているのは加工された肉や果実などだ。ロボットであるホビットMk-Ⅱには必要ないが、自分達を維持していくためにはF-1やF-2で製造されている諸々の物資が必要だから<物々交換という体>でこうして<取引>するようにしてるんだよ。
木箱は全部で三箱。一辺が一メートル三十センチほどあって重量も百キロを大きく超えるから<リーチタイプフォークリフト型のロボット>を使ってローバーの荷室に搬入していく。このロボットもF-1で作ったのを回転翼機で届けたものだ。ちなみに定格荷重は五百キロと、フォークリフトとしてはかなり小型だが現時点ではこれで十分間に合ってたりする。なにしろドライツェンシリーズのパワーとちょうど同じくらいだし。しかし今の段階で普通に入手できる材料を用いてこの出力の実現とそれに耐えられる機体にするために重量はドライツェンシリーズの約五倍で機能も荷役作業に限定されてたりする。一応は汎用マニピュレータも備えてるもののあくまで補助用だ。マニピュレータで五百キロの荷物は持ち上げられない。代わりにちゃんと整備された倉庫などの特定の環境でのみの運用を想定している一般的なリーチタイプフォークリフトと違って不整地でも運用できる。
ホビットMk-Ⅱ自体はこれまでにも何度も説明したように『生身の人間よりはちょっと強い』程度の力しか持たないからな。もちろん工夫すれば百キロを大きく超える程度の荷物であればローバーの荷室に積み込むこともできるだろうが、<リーチタイプフォークリフト型のロボット>自体の運用試験も兼ねてるしこれでいい。
ちなみに『不整地でも運用できる』とは言ったものの十分な耐荷重を確保するために脚部の可動範囲は限定的かつ動きもゆっくりだから、ホビットMk-Ⅱのように不整地でも自在に動き回るということはできない。それぞれの用途に合わせて使い分けるのが前提だな。




