陽編 唯一絶対の権力者
しかしここではまだ<弱者を装った卑劣な輩>はいないからそんなことまで案じる必要もない。そもそも何をもって<強者><弱者>と区別するべきかも分からない。
単純な身体能力であれば俺やシモーヌや錬慈はそれこそ<弱者>だろうな。しかし<唯一の地球人>でありAIやロボットの支援を全面的に受けられる俺とその家族であるシモーヌや錬慈は<俺という後ろ盾>がいる時点で『立場的に』はまったく弱者じゃない。<弱い立場>でさえないんだよ。考えようによっては、
<独裁者の身内>
なわけだし。<独裁者としての権限>を私欲では使わないようにしてるだけで、あくまでも<唯一絶対の権力者>であることは間違いないんだよな。
しかしその一方でシモーヌと錬慈は<地球人>ではないから二人の立場自体は必ずしも<絶対>じゃない。あくまでも、
『俺の家族だからビアンカや久利生やルコアやシオやレックスやルイーゼよりは優位である』
だけだ。
その意味では光も同じで、しかし<パパニアンとしての身体能力>を待つがゆえに『強い』と言えるか。
まあそれでも地球人である俺を害そうとすればエレクシアは確実に止めるし、それこそ<危険な野生動物>と同じ扱いで、場合によっては命を奪うことも躊躇わないだろう。そんな事態になってほしくないから俺は自分の子供達に『他者を労る』『他者を慮る』『他者を気遣う』ことを自らの振る舞いで示すように心掛けてきた。AIやロボットが持つ基準では<地球人>とは認められなくても俺にとっては<血を分けた実の娘>だし、<愛したパートナーの忘れ形見>だからな。その彼女が『他者を害するようになる』なんてのが許せるわけがない。だったらそんなことをする必要がないようにしなきゃいけないだろ。俺は<親>なんだから。
そしてそれは陽や和にも受け継がれてる。俺の下で育った光が、俺がしたのと同じように子供達と接してくれてる。親としてこんなに嬉しいことはない。
もちろん、光が和を我が子として育て始めた時にも陽が生まれてからも日常的に手を貸したさ。取り敢えず手本を示し言葉で伝えただけで完璧に真似してもらえるとは考えてなかったしな。光自身の経験と併せて補足はさせてもらったんだ。これも親として。
『伝えるべきことは伝えた。それをちゃんと理解してるかどうかは本人次第』
と、なんとなく<カッコいいこと>を言ってる風でいて実は単に『面倒を嫌っているだけ』なセリフなんか吐くつもりはないんだ。まあ今までにそれっぽいことを口にしたこともあったかもしれないが、放り出すつもりもないんだよ。




