陽編 家庭内の犯罪
地球人社会ではメイトギアが実用化されたことでそれまでは見えにくかった<家庭内の犯罪>が可視化されるようになった。
『家庭内のことだから』
と公権力がなかなか踏み込めなかった部分も、家庭内で運用されているメイトギアであれば映像や音声という形で記録が残される。もろんプライバシーの問題もあるから安易にそれを確認することはできないものの被害者が訴え出て裁判所の許可が下りればメイトギアが記録した映像や音声やバイタルサイン等のデータが抽出され<証拠>として機能するんだ。
これにより<DV>なども客観的に検証できるようになった。それまでは被害者側と加害者側の証言のどちらに信憑性があるかを第三者が判断しなければいけなかったからなかなか難しい面があったと聞く。被害者とされる側の証言が実はまったくの虚偽だったりしてもそれを見抜けずに<DV事案>として扱われたりな。<離婚協議>を有利に進めるためにDVをでっち上げるなんてのもあったんだとか。
その一方で、パートナーの暴力を恐れて正確な証言ができなかったり、それこそ幼い子供だと証言そのものが難しかったりする案件についても<動かぬ証拠>を得ることができて事実が暴かれたというのももちろんあったそうだ。
ただ、そうやって『駄目なものは駄目』となっていけば、そんな形でしか鬱憤を解消できないタイプの人間はさらに追い詰められてある日突然爆発し事件を起こすようになったらしい。
<キレる五十代>とか<キレる六十代>とかなんて言葉も生まれたくらいに五十代六十代くらいの<大人>が、しかもそれなりに地位も立場もある層の人間による事件が相次いだ時期もあったって話だ。
だからこそ、<生身の人間を相手にしてはできない種類の鬱憤晴らし>をするためのロボットの需要が高まったってことだな。
<小児性愛>や<相手の身体生命に危険のある特殊プレイ>もそのカテゴリに含まれるとのこと。だからこそ、
<ラブドールと呼ばれるロボットの役目>
となった感じか。
『そんなことをしてたらいずれ生身の人間に矛先が向くだろ!』
という意見も根強いが、そこはメイトギアをはじめとしたロボットが身を挺して阻止してくれるんだよ。加えて<不同意性交>は終身刑も有り得る重罪になってる。<代償行為のためのあれこれ>がちゃんと用意されてるんだから、それでもなお実際に人間相手にやらかそうなんて奴には厳しいんだ。
『抑え付けるだけじゃ駄目』
なのは分かってるしな。




