陽編 一日の長
パトロールに出掛けた陽と和と麗だったが、今回は<敵>も現れなかった。当然だ。いくら外敵だらけの環境とはいえ、そうそう毎日毎日遭遇するわけじゃない。
それもあってほとんどピクニックのようなノリだった。
「この前のあの実、見た目はむちゃくちゃ美味そうだったのにびっくりだったよな」
「ほんと。あんなことあるんだね。思いっきり騙されちゃった」
そんな感じで<談笑>しながら密林の中を歩く。麗はそんな二人の頭上を、木の枝を伝ってついてくる。本当に、陽と和が<防刃防弾機能を持たせた戦闘服的な服>を着ていなければそれこそただのピクニックにも見えてしまうだろう。
しかし朗らかで楽しげな様子にも見えながら、二人はしっかりと周囲を警戒してくれている。自然とそれができるんだ。危険なのは決してマンティアンや猪竜だけじゃない。チップ竜のような一見可愛げもある小動物だってうっかりすれば指を嚙み千切られることすらある。そんな環境に育ったから、自身を守るために警戒するのは当たり前なんだ。
地球人はそういう部分も大きく衰えてしまっているからこそ、道具によって補っている。これも別に『地球人が劣っている』のを意味しない。もちろん肉体や危機察知能力の面では『劣っている』とも言えるかもしれないが、そこを補って余りある<力>を持っているのも事実なんだ。正直、今の時点じゃ朋群人が地球人に戦いを挑んでも勝てる気がしない。いくら身体能力が高かろうが銃器を使いこなそうが、<武器を用いた闘争の歴史>は比べるまでもない。<武器を念頭に置いた戦略>であれば地球人の側に<一日の長>どころじゃないアドバンテージがあるからな。
それこそ久利生なら二人を簡単に拘束だってできそうだ。もちろん<道具>と<戦略>を用いてだが。
ああでも、実際に身体能力の点で彼をはるかに上回る素戔嗚も、武装した久利生には歯が立たなかったんだよな。<武装>と言っても衝撃を吸収するプロテクターとスタンロッドだが。
久利生は<技>ももちろんすごいのもありつつ、同時に<読み>と<誘導>も巧みなんだよ。だから素戔嗚の威力のある攻撃は逸らされ、力が入らない姿勢や動きを誘導されて打ち伏せられる。
ちなみにただの打撃用の警棒じゃ頑健かつ痛みに耐性が高い素戔嗚には何の意味もないので、多少の衝撃は与えられるスタンロッドを使うんだ。
もっともさすがの久利生も最初から対処できてたわけじゃなく、ビアンカやドーベルマンMPMに挑み続ける様子を見ているうちに<対処法>を編み出してしまったらしい。
それだけでもとんでもない話だ。




