陽編 平穏な人生の障害
その点、今の俺達の世界では、確かに野生の猛獣がすぐ傍にいて命の危険と隣り合わせなのは事実でありつつも生きていく上でそこまで切羽詰まった状態じゃないのも事実なんだ。能力の高い低いに拘わらずここじゃ誰も阻害されたりもしない。生きていくことを<同じ人間>に邪魔されたりもしない。
現在の地球人社会じゃ野生の猛獣に襲われるなんてことは普通に暮らしてるだけじゃまずない。人間と野生の生き物の生存圏はしっかりと分けられていて、意図的に踏み込もうとしない限りは<猛獣のテリトリー>になんか入ることさえできないしな。
それよりも結局は<同じ人間から受ける有形無形の害意>の方がよっぽど生きる上でのリスクになってた。
<他人を見下す人間>
<他人を虐げる人間>
<他人を蔑む人間>
<他人を疎む人間>
そういうのこそが<平穏な人生の障害>になっているんじゃないのか?
その手の人間はきっとルイーゼや斗真を<攻撃>するだろう。だが、俺はルイーゼや斗真のしたことを是認はしないが、しかしそれはヒスイには関係ない。ヒスイの人生には関係ない。俺達はヒスイを本気で歓迎し受け入れている。どんな生まれの人間だろうが、
<人間としてまっとうに生きる機会>
はあって当然なんだ。そうじゃなきゃ<人間という種>そのものが破綻する。
ここでさえ、光はまだ二人、灯に至っては一人しか子供を生んでいない。意図的に避妊しているわけでもないのに次々と生まれるわけじゃないんだ。生物的には地球人よりもはるかに強靭で生命力にも溢れてるのにな。これはおそらく、<種族の違い>が影響してるんだろうと推察される。
純粋なパパニアンである順と、パパニアンの密と地球人の俺との間に生まれた光。
地球人を正確に再現した久利生と、アクシーズの鷹と地球人の俺との間に生まれた灯。
『妊娠は可能』でありたまたま妊娠もできたが、実際には確率は決して高くないということなんだろう。これは久利生とビアンカの間でも同じ。黎明や蒼穹が生まれたのは、『運が良かった』とさえ言えてしまうくらいのものだったわけだ。
だからぽんぽん人間が増えるわけでもない状態なんだよ。その点では地球人社会とも通ずる状態でもある。今の地球人社会は<少子>だから、生まれてきた子供を手厚くケアしないと見る間に萎んでしまうだろうと言われてる。実際、地球人の人口は『緩やかな増加傾向にある』とされているもののそれは極めて危ういバランスの上での話だそうだし。




