陽編 些細な失敗を理由に誰かを
そうだな。人間の人生なんてのは『たまたま上手くいった』ことの連続だと思う。<意図して上手くいったこと>なんてのはそれこそ数えるほどしかないと思うんだよ。だって、
『いい会社に入ろうとしていい学校に入学した』
のは意図してできるかもしれないが、そこから入れた会社が果たして自分にとって<いい会社>だったのかどうかは、実際に入ってみて実際に働いてみないと分からないわけで。
それは今の地球人社会においても大きくは違わない。そこでもし『期待してたのと違った』となっても『また探せばいいや』と気持ちを切り替えやすい社会になれてるってだけだ。
『一度失敗しただけで人生が終わるなんてことはない』
ってのがはっきりしてる社会ってだけだ。何度も言うように『たまたま上手くいっただけ』の連続が人生ってもんなんだから狙って上手くいかせられることの方がずっと少ない。となれば『失敗だった』と感じた時には気軽にやり直せた方がいいだろう?
ここでの<失敗>はそれこそ命に関わるものであることが多いし。ゆえにその失敗が致命的にならないようにするセーフティネットとしてロボットが存在する。ロボットを何機犠牲にしても人間の命だけは守り切る。<やり直し>ができるように。
陽も和も、何度も何度も失敗してきた。子供の頃には特に。結婚してからも何度か命の危険に曝されたこともある。あくまで深刻な事態になる前にロボットによってフォローしてきただけだ。これは光や灯だって同じ。きちんと準備が整っていない状態で危険な外敵に鉢合わせる危険が高くなったのを、ロボットの方に引き付けて回避したこともあったんだよ。
どんなに気を付けてるつもりだってそんなもんだ。
だからこそ些細な失敗を理由に誰かを排除することを俺達はしない。その必要がないようにする。誰かを犠牲にすることでしか自分達を守れないならそれはロボットに負担してもらう。
それこそ行ったら決して生きて帰れないような危険なミッションが必要になった時にはロボットが行く。人間にできることはほぼすべてロボットにもできるようになったんだからそうなって当然だ。
<人柱>
なんてのが地球の歴史の中には存在したが、ただのオカルトとしてならそれこそ論外だし、物理的な意味で<人の手>が必要でそれが生きて帰れないものであっても、ロボットで代わりができないものなんてもう何もないんだ。
それこそ三千年もの長きに亘って惑星ハイシャインの観測を続けている<あさぎ2788TOS>のように。




