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閑話休題 ヒスイ・トーマ・バーンシュタイン

ヒスイ・トーマ・バーンシュタインは、ルイーゼと斗真(とうま)の間に生まれた女児である。


しかし、母親であるルイーゼからも父親である斗真(とうま)からも愛情を向けられることはなかった。そしてヒスイ自身、かつて<サイレントベビー>とも称された、


<感情表現にきわめて乏しい赤ん坊>


だった。ほとんど泣くことがないのだ。しかしだからといって『生きる力が著しく欠けている』という印象はまるでなく、むしろ乳はたっぷりと飲み排泄もしっかりし、<旺盛な生命活動>を覗わせる様子しかなかった。そして父親である斗真(とうま)のルプシアンとしての身体能力を受け継いだか、成長も早かった。生後一ヶ月で体重は二キロ近く増え、身長も倍近くになり、NICUから早々に出て彼女用に用意された部屋に移った。そこでアリニの世話を受けている形だ。


母乳だけは実母であるルイーゼからもらうため、二時間に一度くらいの割合で仕事中のルイーゼのところに行き、授乳を行う。


ただ、ルイーゼはヒスイが来ても視線すらロクに向けることがない。自身は机に向かったまま、時には顕微鏡を覗き込んだまま、アリニがルイーゼの上着をたくし上げ乳房を露出させ、乳首を消毒。アリニが支える形で授乳させるのである。


見た目にも不安になる無理のある姿勢ではあるもののそれはロボットであるアリニには何の関係もない。何しろ四本のマニピュレータで安全に確実にヒスイを支えているのでむしろ生身の人間が抱きかかえるよりはよほど安全だとも言えるだろう。しかもロボットであるアリニは『疲れる』ことがない。何十分でも何時間でも同じ姿勢を維持することができる。電力が続く限りは。そして今のアリニは無給電で二日間は動き続けることもできる。これは、ルイーゼの功績だ。


ルイーゼが発見した大量の高純度なHiシリコンにより<スーパーキャパシタ(仮)>が実用化され、アリニにも搭載されたからである。以前はそれまでに発見された材料を用いて作られたリチウムイオンバッテリーをメインの電源として搭載していたのだがこちらは給電なしでは数時間しかもたないものだった。ライフラインとしての無線給電網が整備されているので事実上問題はなかったものの、万が一無線給電網が機能を失うようなことがあれば極めて深刻な事態になりかねないというリスクは常に潜んでいた。それが大幅な余裕を確保できたのだから実にありがたい話だと言えるだろう。


地球人は自分の娘に愛情を見せないルイーゼについて批判的なものの見方をする者も多いだろうが、そんなことはここではなんの問題にもならない。



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