ルイーゼ編 間違った使い方をして自滅した
ルイーゼが何一つ変わることなく淡々と鉱物を眺めている一方で、焔と彩の<症状>は急速に悪化していった。
こうして絡めて話をしていれば普通のフィクションならルイーゼが何か<特効薬>の材料にでもなりそうなものを発見してくれたりするのかもしれないが、残念ながらそんな都合のいい展開は存在しなかった。あくまでもそれぞれの人生が同時進行しているだけで実際に交わることはないんだ。俺の妹の光莉が病気のせいで怪物のようになってしまっていても世の中には普通に毎日を笑って過ごせている人間もいたのと同じで。
そうだな。現実はそんなもんだ。だからこそ、
『現実なんてクソ!』
とか言うのがいるんだろうが、しかしそうやって憤ったところで状況が改善するわけじゃない。必要なのはあくまで<具体的かつ効果的な対処>だ。だが、現状では認知症の症状を無理なく完全に改善できる方法は見付かっていない。ある程度の薬効を持つものは見付かっているし実際に認知症に対してある程度の効果も期待できる薬も作れているものの<副反応>を考慮すると積極的に使えるようなものじゃなかった。認知症の症状は緩和されても別の疾患を誘引していたんじゃ意味がない。
まあ、『どちらを取るか?』という話でもあるが、認知症の症状が出たのも結局は今の環境を望んだのが原因の一つなんだから、正直、このままフォローするだけで済ました方がいいとも感じるんだよな。
もちろん<苦痛>については極力緩和してやりたいから、強い副反応が出ない程度には薬も食事に混ぜていたりはする。するが、不思議と薬が混ぜられたものには手を付けなかったりするんだよな。野生の本能で異物を察知してしまうのかも。<薬>ってのは実は<毒を薄めたもの>的な一面もあるからなあ。だからこそ『用法容量は正しくお守りください』みたいな注意喚起もされるわけで。要するに用法容量を守らなければ途端に<毒>に変わるってことだ。
これは薬に限らず多くのものに当てはまる話か。道具だって正しく使わなきゃ事故を招くし。薬でも道具でも『正しく使う』のは、結局は『自分を守るため』でもある。それをわきまえずただ自分の目先の感情を優先して間違った使い方をして自滅した人間(地球人)なんて珍しくもなかったよな。
<薬のオーバードーズ>もそうだし、<自動車などの無謀運転>もそうだ。なのに人間(地球人)はそれを奇禍として活かさず同じようなことをするのも多かったなあ。




