ルイーゼ編 なにをやってるんだか
そうやって穏当に牙斬の監視と言うか観察を続けられているということは、少なくとも牙斬相手なら十分な距離さえ確保すればこうやって共存も可能だという何よりの証拠だな。
地球人はとにかく自分達だけを優先してちょっとばかり都合の悪い相手については<殲滅>さえ厭わず排除しようとする悪癖がある。野生の猛獣の被害が出るとすぐに殺そうとしたり。
なんだかんだとそういう対応に反対する意見もあるが、それはそれで逆に人間の命よりも動物の命を優先するかのような理屈を展開してたりで結果として空回りするのをよく見たよ。
俺としては、自分達の安全を守るために戦うのはむしろ当然だと思ってる。人間である以上はあくまで同じ人間の命を優先するべきだとも。しかし同時に、
『猛獣のテリトリーに勝手に足を踏み込んでおいて被害者面するのもどうなんだ?』
とも思うんだよ。だからこそ今の地球では、人口が二十億人に抑えられていることも活かして、野生生物との棲み分けを徹底している。人間の居住地は徹底的に管理された人工環境によって快適性と安全を担保しつつ、野生生物が生息する地域には許可なく立ち入れなくなってるんだ。立ち入りを許可する場合にも、それこそ、
『何があっても自己責任』
というのをしつこく確認してくるし。もっとも、本当に命まで見捨てたりはしないけどな。AIやロボットは人間を見捨てることができないから、万が一の場合には保護して一目散に離脱してくる。これ自体が『何があっても自己責任』の範疇だから、
『勝手に連れ帰られた!』
などとゴネても通らないそうだ。まあそんなことでゴネるような輩の主張なんてそもそも聞いてもらえないが。
ちなみにルイーゼ達が惑星探査に出た三十八世紀頃は植民惑星への移住が本格化する前だったのもあって地球の人口は五十億だか六十億だかだったそうだ。加えて、俺が地球人社会で暮らしていた六十世紀よりは野生生物との棲み分けもまだ十分に徹底されておらず、野生の猛獣による事故も発生していたとか。
とは言え、すでに野生生物への干渉は禁止されていたから、それをちゃんと守らない人間がそういう事故に遭う感じだったとも。二十一世紀頃までは日常生活の中にも野生生物が紛れ込んでくるくらい、境界が曖昧だったらしいな。まあそれは人間の方が一方的に踏み込んでたゆえのものだとは聞く。
そうやって人間の方からわざわざ危険なところに生活圏を広げていってそれで被害に遭ってるんだから『なにをやってるんだか』とは思ってしまうな。




