さすがに抜け目ない(やはり野生か)
イレーネに持ち帰ってもらった蛟の体組織については、当然、分析機にかけてみた。
すると、人間と、ヘビに似た動物と、全く未知の生物のキメラだったことが分かった。
「遺伝子上も近い生物がまったくいない、完全に未知の生物ですね。この惑星に元々存在したものかどうかすら、現在までに集められた遺伝子パターンからでは判別できません。
ただ、これと似たような生態を持つ生物は、他の惑星でも極めて稀な存在ながら確認された事例はあります。蛟も、そういう生物の一種だったということなんでしょうね」
と、生物学の分野では専門家の一人でもあるシモーヌがそう答えてくれた。
俺は、正直、その手の話については素人だから『へえ、そうなんだ?』としか答えられない。
しかし、あの不定形生物には、一体どれだけの生物の情報が蓄えられているんだろうな。そもそも、あの不定形生物そのものがはたしてこの惑星で発生したものなのかどうかすら現時点では判然としない。あれはいったい、何なんだろう。
調べれば調べるほど意味が分からない、不可解な<何か>ということしか分からなくなる。
本音を言えば、後顧の憂いを絶つということできれいさっぱり駆除したかったというのもある。だが、有効な対処法もなく、撃退法もない上に、あの中ではコーネリアス号の乗員達が生きてるとなればこっちの都合で全て駆除する訳にもいかない。
だからもう、あれは『そういうもの』としてそこに存在する事実を受け入れるしかないんだろうな。その上で、こっちとしても身を守る手段は考えるということで。
実際、こうしてる間にも、この惑星のどこかでまた蛟のようなとんでもない獣が生まれてるかもしれないが、現実問題として俺達にはどうすることもできないんだ。
『危険が迫った時に適宜考える』
それが結論だな。
あれの謎を俺達が解明することもないだろう。もし、人間の技術がさらに進んで夢色星団のあの地獄のような宙域を安全に超えられるようになれば、事故や遭難という形でここに降り立つんじゃなくて、徹底した調査も行われるかもしれない。
まあ、俺達が生きてる間にそんなことがあるとも思えないが。
だから俺達は、ここで、自分達が置かれた状況を受け入れて何とかお気楽にのんびりと生きていくように工夫するしかないんだろうな。
あ、そうそう、凱と旋があの時、蛟のところに現れたのは、やはり狩りの途中に偶然ってことだったようだ。ただし、見付けたのは割と早い段階で、離れたところから様子を窺っていたらしい。で、イレーネが弱らしたところに乱入と、凱達を見守ってたドローンの記録で判明した。
さすがに抜け目ないなあ。




