閑話休題 命の残り時間
誉が亡くなったことで<錬是の子>は、光、灯、錬慈、焔、凱、彩、彗を残すだけとなった。
単純に数だけで見ればまだ半分が生きているとも言えるわけだが、光と灯と錬慈は地球人としての形質が前面に出ていることでそもそもの寿命が<獣人>達よりもずっと長いと推測されていた。
それは、治療カプセルを用いた<人間ドック>でも確認されており、病や事故でもなければこの三人が錬是よりは長く生きるであろうことはほぼ確実だった。
一方で、焔と凱と彩と彗については一見しただけでも相当な高齢であることは明白であり、もってあと数年、それどころかこの瞬間にも命の幕を下ろしたとしても何ら不思議ではなかった。
事実、そういう形ではっきりした予兆もなく亡くなった者も少なくない。これはより野生に近い生き方をしていることで自身が弱っているのを周りに悟られないように振る舞っているのが影響している可能性があるだろう。群れで暮らす者の場合は<足手まとい>と見做されるからかもしれないし、単独で暮らす者の場合は天敵に狙われやすくなるからかもしれない。
いずれにせよ地球人社会で暮らす地球人の場合は弱っていることを周囲に悟られたとしてもすぐさま命の危機に曝されるわけじゃないことでそれを隠す必要がなくなったのとは大きく違っているのは事実だろうと思われる。
だからこそ、焔と凱と彩と彗に残された時間も極めて限られているのが分かってしまう。
極力隠そうとしているにも拘らず見た目に衰えてきているのが分かってしまうからだ。『もう隠しきれなくなってきている』とも言えるだろうか。
まあ、その四人の中では彗が最も若く<衰え>についても他の三人ほどの印象はなかったりするが。これは彗が<捕食者>としての生き方を貫いているのが影響しているのかもしれない。捕食者の場合は衰えて<狩り>ができなくなればそれが死に直結するがゆえに。
その意味では彩も種族自体はレオンなので捕食者側ではあるものの、パートナーである焔がパパニアンだったことでそちらの生態に合わせたらしく、姿こそレオンだがその暮らしぶりはパパニアンそのものだった。
遺伝子の基本が地球人のそれであったがために、レオンであってもパパニアンと同じ雑食でも十分に肉体を維持できたのも幸いしたのかもしれない。なので事実上<パパニアン>として彩は生きてきたということだ。
野生の動物の場合はなかなかそうはいかないかもしれないが、本来はクマの一種であるはずのジャイアントパンダが笹を主食にするようになったような事例は他にもあるのだろうと思われる。




