メイフェア編 防疫施設
コーネリアス号では、レックスとシオが竜生を出迎えてくれた。その上で、カーゴルームの隣にある<隔離室>にストレッチャーに乗せられた遺体を運び込んだ。かつては保護されたルコアが一時期過ごした場所でもあるそこは、入手した<資料>を調べるための設備も充実していた。<解剖>も含むな。
そんな隔離室に竜生の遺体を安置して、レックスとシオは、『宇宙服と違って<気圧>をほとんど考慮しなくても済む』というだけでそれ以外については宇宙服に限りなく近い性能を持つ<防疫服>を身に着けて臨む。ナイフどころか三十八口径程度の拳銃弾なら余裕で防ぐ高性能なやつだ。しかも<手術>なんかにも対応できるくらい繊細な動きも可能な優れモノだな。
まともな防疫施設でなら当然のように備えられているものだが。
ちなみに<防刃防弾性能>については、検疫対象に鋭利な部分があったりした場合に備えてのものだけじゃなく、検疫のために収容された人間や動物が暴れたりした場合も想定しているというわけだ。
実際、収容された人間や動物が暴れて検疫担当者に襲いかかったなんてこともあったそうだし。もちろんそのためにロボットも配置されているそうだが、念には念をということだ。
とはいえ今回の場合、万が一竜生が蘇生して暴れたりしたらまったく心許ないのもまた事実。ここまでに判明している力から考えるに。
だからアンデルセンと鈴夏、さらにはイレーネも助手を兼ねて配置する。イレーネについてはメンテナンスの予定を少し繰り上げて回転翼機で向かわせたんだ。回転翼機の方は物資輸送の定期便のを利用した。
この辺りの融通が利くのは社会の仕組みはまだ完全には決まってないことの皮肉な強みだな。バッチリ決まっていると変更の手続きに手間を取られるわけで。まあ、<物資輸送目的の便>にイレーネを乗せるのは彼女がロボットだからこそ別に問題もないが。これが<人間>の場合だと<物資>扱いにはできないからまず許可が下りない。わざわざ<臨時のチャーター便>を手配することになるだろう。
<臨機応変>を是とする人間には不興でも、あまりルーズにしていては秩序も保てなくなる。だからそれぞれの事例において個別に慎重に勘案する必要があるんだよ。
人間社会において秩序は非常に重要なものだ。秩序がなければ命を守ることすらままならない。無論、秩序を守るために命を蔑ろにしていては本末転倒ではあるものの、だからこそ慎重な対応が求められるというのも間違いなくある。




