パフォーマンス(果たして通用するのか?)
ドーベルマンDK-a零号機は容易く破壊され、ステータス画面には<機能停止>の表示が出ていた。
普通の動物なら、たとえオオカミ竜が相手でも十分に対抗できる能力は持っていたはずだった。確かにヒト蛇とオオカミ竜との戦いで圧倒的な戦闘力があるのは分かってたが、まさかタングステン並みの強度をもった鱗を備えてるとか、そこまでは考えていなかった。
「って、いや、おかしいぞ…? 以前、オオカミ竜を相手にしてた時には、胴体にだってオオカミ竜は食らいついてたはずだ。タングステン並みの強度を持つ鱗なんかに、普通の猛獣でしかないあいつらの牙が通る筈がない」
その俺の言葉には、エレクシアが答える。容赦なく、淡々と。
「おそらく、その際のダメージで、さらに自らを強化する必要があると、変化させたのではないでしょうか?」
「へ、変化…? あの短期間で、自分をさらに強くしたってことか? 状況に合わせて?」
エレクシアの推測を受け入れることができない俺に、シモーヌが追い打ちをかける。
「でも、確かにそういう生物もいます。あのヒト蛇もそうだったということでしょう」
「無茶苦茶だ……」
言葉を失う俺の耳に、さらに声が届いてくる。
「こちらイレーネ。ヒト蛇を視認。次の指示を」
実際の戦闘を想定した行動などについては、ロボットであるセシリアは、人間の身体生命によほど切迫した危険が迫ってるような事態でないと指示が出せない。でも、走や凱達は彼女達の認識では人間じゃない。だからイレーネは俺に指示を仰いできたんだ。
恐らく、ドーベルマンDK-a零号機では相手にもならなかったヒト蛇でも、戦闘モードのイレーネだったら何とかなるだろう。駆除することだって難しくない筈だ。
だが、俺には不安しかなかった。あくまで試作品のようなものだったドーベルマンDK-a零号機はともかく、イレーネでも勝てなかったりしたら……
しかしそんな逡巡をヒト蛇は許してくれなかった。
「戦闘モード! ヒト蛇を駆除しろ!!」
イレーネにまで襲い掛かる動きを見せたヒト蛇の姿に、俺は咄嗟に叫んでいた。
「承知いたしました」
緊迫した状況には不釣り合いなくらいに淡々としたそれで、イレーネが応える。そして彼女の戦闘モードが起動したことを報せる表示が、タブレットに映し出される。
しかも、ドーベルマンDK-a零号機との戦闘で見せたヒト蛇のパフォーマンスに、手加減していてはジリ貧になると判断したのだろう。残り稼働時間が十三分を切っていた。つまり、イレーネは今、全力稼働を行っているということだ。
出し惜しみして状況を悪くするのは確かに悪手だと俺も思う。しかし本当に今のイレーネで勝てる相手なのか…?
万全のコンディションならそれを疑う余地はなくても、右腕と右脚を失っている今のイレーネに……




