取捨選択(全滅を避けることを考えなきゃいけないのか)
正直、『エレクシアさえいればだいたい何とかなる』と思い込んでいたことは否めない。事実、単純な戦闘力なら、ボクサー竜など物の数じゃない。千匹だろうが一万匹だろうが、時間さえかければ間違いなくエレクシアが勝つ。
その事実が、俺にとっては油断になってしまったのかもしれない。だが、いくらエレクシアが強くても、彼女は一人しかいないのだ。
今のメイフェアXN12Aは、たとえ充電を行いながらでも全力稼働できるのは精々十五分くらいだろう。充電なしならそれこそ十分もつかどうかだ。だからエレクシアのサポートが関の山だった。それでも、普通なら何の問題もなかった筈なのだ。奴らが普通のボクサー竜なら。
奴らが普通じゃないということなんて以前から分かっていた。分かっていたのに俺は、エレクシアやメイフェアXN12Aの存在を過信して、奴らのことを過小評価していたのだ。これは、俺自身が招いてしまった事態だ。
奴らは、圧倒的な数でもって一気に押し切るつもりなのだろう。いわゆる<飽和攻撃>ってやつだ。そして奴らは、その為の十分な用意をしてきたということだ。こちらの監視をかいくぐって。思えばその予兆はあったのに、俺はそれを見逃してしまった。
くそっ! くそうっ!!
自分の間抜けさを呪いつつも、しかしそんなことを悔やんでる暇もない。エレクシアは、少なくとも俺だけは守り切るだろう。守る対象を俺一人に絞れば、彼女の迎撃力を生身の生き物が上回るには、それこそアリのような微小な攻撃者が数万というレベルで一気に襲い掛かるしかないし、俺一人を守ればいいのならそもそも宇宙船に隔離してしまえばいい。完全気密の宇宙船には、アリはおろか細菌でさえ侵入できない。だから彼女は間違いなくそうする。
そうやって、俺一人が生き延びるのか…? 家族なんてまた作ればいいといって……
いや、たぶん、生き延びるだけなら何人かは生き延びてくれるだろう。木の上に逃げてしまえばボクサー竜は追っては来れない。
……筈だ。筈だが、その『〇〇の筈だ』という甘い読みがこれを招いたんじゃないのか!? この期に及んで俺はまだそんな希望的観測で自分を甘やかすのか!? これだけの非常識な真似をしてくる奴ら相手に、木の上なら絶対に大丈夫と本当に言えるのか!?
ダメだ…! 思考が散漫になってしまって考えがまとまらない。追い詰められているというプレッシャーが頭の働きを低下させる。
このまま押し切られるのをただ待つのか、エレクシアが俺と一緒に一度に保護できる家族だけを連れて宇宙船に逃げ込むかの選択を迫られている気がしていたのだった。




