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Zwei Rondo  作者: グゴム
六章 黒騎士の侵攻
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4. 太陽の行方

4



「キャスカに案内されて行ったミシラ空中庭園で、マインゴーシュを拾った」


 ドクロの質問に、ウドゥンは間髪いれずに答えた。


「マインゴーシュ? リズのか?」

「あぁ。キャスカ達が黒騎士に襲われた場所でだ。そしてミシラ空中庭園は昔、リズが黒騎士と戦った場所でもある。あいつはあの時、確かに黒騎士を倒したんだ」


 ウドゥンは言いながら、視線を上げて記憶を手繰るような仕草を見せる。彼はリズが黒騎士を倒した場面を直接目撃したわけではなかったが、その直後に本人から倒したという報告を受けていた。それは彼にとって、リズとの最後の会話だったが。

 

 ウドゥンの発言に対し、ヴォルが唸るような低い声で呟いた。


「そうなると……リズは黒騎士を倒したのに、今現在黒騎士に取り込まれているのか?」

「……わからない。ただあのファナを相手に、あんなにも簡単にインパクトガードを決める奴が、それほど居るとは思えないのは確かだ」


 ウドゥンが言葉を選びながら答えると、それを受けてセウイチが言った。


「そうなると、リズの中の人はどうなってるのかな?」

「そりゃあ……ファナやアクライ達と同じなんじゃない?」

「だがシオン。これまで意識不明者の話は全然なかったぞ。もしもリズが意識を奪い取られたのなら、それこそ半年前の出来事だ。少しくらい噂を聞いてもおかしくないだろう」


 ガルガンが腕を組みながら聞くと、シオンは両手を開きながら答えた。


「運営が隠蔽してたんだ。間違いないね」

「出たよ、陰謀論」


 セウイチがあきれた声で肩をすくませる。彼はシオンの意見には反対のようだ。


「俺は単純に、運営がプレイヤーが意識不明になった事を把握してなかったんだと思うけどね。ゲームのやり過ぎでぶっ倒れる奴とか、昔からいくらでもいただろうに」


 ゲームをプレイ中に倒れたり、死亡したりするという事件は、VR機に限らずいつの時代にも起きている。その原因は徹夜しすぎの睡眠不足であったり、長時間プレイによる疲労であったり、同じ姿勢のままプレイし続けていた為に体が不調が訴えたりと様々だ。

 しかしゲーム内で倒されたから、連動して現実世界で倒れるなどという話は、ナインスオンラインをプレイする以前から様々なゲームをプレイする彼らにも聞いたことが無かった。それはあまりにも、非現実的な話なのだ。


 しかし今回実際に、彼らの目の前でファナは黒騎士に負け、その直後に彼女は意識不明となってしまった。その一連の流れだけは、大量の目撃者を証人として、疑い無い事実となっていた。


『黒騎士にPKされると、現実世界でも死んでしまう』


 今回の事件は、まさにあの噂の現実化だった。



「……確かにヴォルが言う通り、勝ったのに意識を乗っ取られたっていうのは奇妙だな」


 ウドゥンが難しい顔で呟くと、ヴォルはイラついた様子で言う。


「負けたら記憶か意識を奪われるのに、勝っても取り込まれてしまうなら、一体どうしろっていうんだよ」


 ガルガンがぶんぶんと首を横に振った。


「戦うなってことだ。お前まさか、黒騎士をゲーム内で倒そうとでも考えていたのか」

「はっ、あたり前だろガルガン。ファナとアクライの仇をとらねーと――」

「やめとけやめとけ!」


 ガルガンは大きく身振りした。すでにアルコールによって顔が真っ赤にした彼は、すこし芝居がかった口調で言う。


「あれはまともな存在じゃない。異物というか、言ってしまえばただのバグだ。そんな奴とゲーム内で正々堂々戦うなんて、何の意味も無い。運営に任せておけ」

「自分のところに被害がないからって、ずいぶんとのんきだなガルガン」

「なんだと」


 ガルガンがすこしムッとして体を寄せるも、ヴォルはそっぽを向いてしまった。二人の間にセウイチが割って入る。


「まあまあ。どちらにせよこのサービス停止期間が終われば、何か動きはあるでしょ」

「でもサービス停止して、もう二週間だっけ? なんでこんなに手間取ってんだろうね」


 シオンの疑問に、ガルガンもその大きな身体を揺さぶらせた。


「自分たちの作ったゲームの不始末が処理できないとは、いったいどういう状況なのだ?」

「さあね。ただ俺はガルガン、あんたの意見には賛成だ。この事件は結局、運営が意識不明者が出る原因を見つけて、修正パッチをかけて終わりだよ。俺達ができる事はこうしてあーだこーだ展開を予想して楽しむことだけだね」


 セウイチが肩を開いて皮肉っぽく言うと、ヴォルが反発する。


「くそ、つまんねーな。俺に……いや、クリムゾンフレアに奴を討伐させろよ」

「だからヴォル、やめておけと言っているだろう。これがゲームか小説なら、ファナ達はゲームの中に捕らわれの身になっていて、それを助けに行く物語ストーリーなんだろうが、今はそんな状況か?」

「あはは! ありがちだなーそれ」


 なぜかセウイチはツボに入ったのか、ガルガンの話にげらげらと腹を抱えて笑っていた。しかし当のガルガン自身は表情を崩さず、真剣な調子で続ける。


「百歩譲って、黒騎士を倒せばファナ達が意識を取り戻すと仮定したとしてもだ、やはり現実に俺達みたいな普通のプレイヤーがどうこうできる話ではない。それくらい貴様にもわかっているはずだ、ヴォル」

「……」

「……運営に期待か。まあ現実的には、それしかないか」


 ウドゥンもまたぼそりと言う。実際、現状自分たちがどうしようとナインスオンラインにはログインできない。つまりゲームの中で黒騎士を見つけ、戦いを挑むということは、どうやっても無理なのだ。

 それならば運営に期待するしかない――ウドゥンもその意見に賛成せざるを得なかった。


「よし!」


 突然、セウイチがパンと手をたたいた。皆が視線を向けると、彼は糸目を細めて、楽しげな笑顔で言う。


「まあ、辛気臭い話はこれくらいにしようよ。せっかくこんなに懐かしい面子が集まってるんだから、昔話でもしようぜ。黒門事件って覚えてる?」

「それ、超懐かしいな」


 その単語にヴォルは上機嫌な笑顔で反応してきた。同じくすでにほろ酔い加減のガルガンが大きく身振りする。


「がはは! 懐かしいな。しかし黒門事件と言えば、キャスだろうが。おい! キャス!」

「はい?」


 リゼ達と会話していたキャスカを無理やり呼び寄せると、ガルガンは彼女に武勇伝を語るように迫った。しかしキャスカは困ったように頬に手を当ててしまう。


「そこまで面白い話ではないでしょうに……」

「なになに?」

「私の居ない時の話?」


 困った様子のキャスカを見て、リゼとコンスタンツも興味津々に食いついてきた。結局は話を渋るキャスカを見かねて、ガルガンは自慢げに自分で語り出してしまった。





 その後も、遅めの食事会も兼ねたオフ会を続け、ようやく18時をまわったところで、今回のオフ会はお開きということになった。清算を終えた後、皆で店の前に集まり、名残惜しそうに話を続けていた。


「ウドゥン。今日はこっちに泊まってくのか?」


 ガルガンが巨体を震わせて話しかけてきた。それに対し和人ウドゥンはこくりと頷く。


「この後、鎌倉まで行って一泊だ」

「鎌倉? なんだ。海に行くのか?」


 近くにいたヴォルが少しあきれたように言う。彼は年齢的にも、あまり海には興味が無いようだ。和人(かずと)もどちらかというとそのタイプなのだが、今回は少し事情があった。


「俺はあまり行きたくないんだが、約二名が海に行くって言って聞かないんだよ」

「あはは! お前だって乗り気だったじゃん。宿まで見つけてくるしさ―」

 

 下村が笑いながら言う。今回、和人かずとはある人物と会うために、この後鎌倉に行かなければならなかった。本当は東京で莉世(りせ)達と別れて一人で向かうつもりだったのだが、宿を探していることを下村に漏らしてしまうと、あっという間に莉世(りせ)翠佳(すいか)に伝わり、2人とも海に行きたいと言ってきたのだ。


「俺は用事があるからな」

「あーそうだったそうだった。まあそんな感じだよ旦那。明日遊んでから帰る」

「そうか。気を付けて行けよ。この時期はどこも混むからな」


 ガルガンが余裕げな表情で言う。深酒はしていないようだが、大きなしわが刻まれた年季の入った顔は、真っ赤と言っていいほどに染め上がっていた。ただ言動はしっかりしているので、顔に出る体質なのだろうと和人(かずと)は思った。

 ガルガンは最後にガハハと豪快に笑った後、名残惜しそうに話を続けるキャスカ達に声を掛ける。


「おい。お前達、さっさと帰るぞ。駅まで送ってやる」

「はいはーい。それじゃあねリゼ」

「うん。コンちゃん、キャス。またナインスオンラインで会おうね!」

「はい。みなさんお元気で。それとリゼ――」


 キャスカは莉世(りせ)の耳元に口を寄せ、吹きかけるようにつぶやいた。


「この後、頑張ってくださいね」

「ひぇ!?」


 莉世(りせ)は少し顔を紅潮させながら飛び退く。その様子を見て、キャスカはくすくすと笑っていた。


「それじゃあ、俺も駅まで一緒に行くわ。じゃあなウドゥン」

「セウイチも、また円形闘技場(コロセウム)でな」

「はいはーい。ヴォル、ドクロ、ベイロスもまたね」

「おう、またな」


 セウイチが手を振ると、インペリアルブルーの4人とヴォル、それにドクロが駅の方へと去っていった。

 翠佳(すいか)と下村がこの後の動きについて相談する間、和人(かずと)はオフ会の主催者であるシオンとニキータに挨拶に向かった。


「シオン。今回はお疲れだったな。楽しかったぜ」

「あはは! そりゃよかった。お前はこういうの苦手かと思ってたけどな」

「シオンさん。ニキータさん。ありがとうございました」

「来てくれてありがとうね、リゼ」


 トレードマークの猫耳の無いニキータだったが、彼女はゲーム内と変わらず優しい笑顔を振りまいていた。ふと和人(かずと)が思いついたように聞く。


「なんだ、お前らは歩きか?」

「そうだねー。俺たちはここが地元だから」

「え、ニキータさんも?」

「うん。なんか、実はこいつと同じ大学で、家も割と近くって事がわかってさ。びっくりだよねー」


 ニキータが呆れたように肩をすくめて言う。彼女の言っている、ゲーム内で出会った相手が実は結構近くに住んでいるという状況は、和人かずと莉世りせの2人も同じだった。


「アルザスサーバーに所属している奴は、基本的には北関東と都内がメインだからな。近いってこともあり得るだろ」

「お前のところはそうかもしれないが、都内はいろんなサーバーに散ってるからな、こっちだと、そこまでかぶらないもんなんだぜ?」

「そうなんですか」


 莉世(りせ)が感心したように頷いた。彼女はその様なサーバー事情を一切知らずにプレイを始めていた。親友であり、ナインスオンラインを誘ってくれた瑠璃るりからは特に何も言われていない。どうやら同じサーバーになることはわかっていたのだろう。そして和人(かずと)と同じサーバになることも。


「おーい。そろそろ行かないと、遅くなっちゃうよ」


 和人かずと莉世りせを呼ぶ下村の姿を見て、シオンとニキータは揃って手を振った。


「呼んでるぜ。まあ今度はナインスオンラインでな」

「それじゃあねー」


 2人に別れを告げ、和人かずと達はその場を後にした。

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