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Zwei Rondo  作者: グゴム
六章 黒騎士の侵攻
91/121

2. オフ会にて

2



「始まるの何時からだっけ」

「14時からよ」

「そっか。それなら、まだ余裕だな」


 無事東京にたどり着き、会場近くのパーキングに車を止めると、和人かずと達は案内メールにあった店を目指して歩いていた。当初の予定よりも到着が遅れたが、それでも早めに出発していたことが幸いし、集合時刻には余裕がある。


「他の人たちも車で来てるんですか?」


 莉世りせが質問すると、下村は首を横に振って答えた。


「いや、だいたい電車みたい。都内に住んでるやつが多いらしいよ」

「アルザスサーバーってのは、基本的に都内と北関東に住んでる奴がメインだからな」

「えっ? そうなの?」


 和人かずとの説明に、莉世りせは少し驚いてしまった。なんとなく、アルザスサーバーには色んな地域の人が集まっているというイメージだったが、実はそうでもないらしい。

 ナインスオンラインには九つのサーバーがあるが、各サーバーの所属は地域毎に振り分けられる。これはナインスオンラインが体験型のVRゲームである故、プレイヤー同士の方言や地域文化に違和感を持たせない為の工夫だった。

 勿論所属サーバーの変更は可能であるが、基本的にアルザスサーバーには都内、そして北関東の一部のプレイヤーが多く所属していることが知られていた。


「そういう事情もあって、東京でオフ会を開けばみんな参加しやすいんだよ」

「へぇー。知らなかった」


 莉世りせが感心して頷く。彼女はここまで来ても、これから現実世界でゲーム内のフレンド達に会うことに実感が無かった。その上でアルザスサーバーの皆が、実は結構近くに住んでいると聞き、とても不思議な気分になってしまった。フレンド達が現実に何処にいるのかなど、考えたことも無かったからだ。

 なんとなく、自分は現実とゲームの区別がついていないのかなと莉世りせは思った。


「あぁそうだ。もう一度注意しておくけど」


 突然下村が、思い出したように言う。


「今回のオフ会、基本的にキャラクターネームで呼び合うことになってるから、それだけは注意してね」

「あっ、そっか」


 莉世りせが少し不安げな表情を見せた。和人かずと達トリニティは、現実世界でも知り合いであるため、当然ながら現実では本名で呼び合っている。しかし今回のオフ会ではそれをしていけないというのだ。

 このルールを守れるかどうか、4人の中でもっとも怪しいのが莉世りせだった。和人かずとが皮肉めいた口調で言う。


「お前は俺達に話しかけるな。キャスカとかと話しておけば、言い間違えることは無いだろうからな」

「あはは! まあニキータとコンスタンツも来るはずだし、女子率は結構高いから話し相手には苦労しないだろうね」

「ねぇねぇ。あれじゃない?」


 パネルを見ながら先頭を歩いていた翠佳すいかが、ある建物を指差した。看板を確認すると、確かにそれは目的の店だ。その店の前には、細身の女性が日傘をさしながら、暑さに耐えながらノートとにらめっこしていた。

 下村が翠佳すいかの前に出ると、その女性に声をかけた。


「よう、ニキータか?」

「お、セウ!」


 下村セウイチが笑顔で話しかけると、女性もまた嬉しげに笑って応えた。


「よく私がニキータってわかったね」

「まあ、店の前で立ってたらな。それより、お前のほうこそ何でわかったの?」

「あはは! 雰囲気同じだから丸わかりだよ、セウ。それに……」


 細身の体に明るい茶髪をしたニキータが、下村(セウイチ)の背後に目を向けると、彼女は後ろの三人に明るく手を振った。


「セリス、ウドゥン君、それにリゼ。おひさー」

「やっほー」

「あぁ」

「ニキータさん、こんにちは」


 莉世リゼがニキータの前に近づいて行き、丁寧に挨拶をした。ニキータはそんな莉世リゼの頭をなでた後、店の中にもう数人やってきていると教えてくれ、中に入っておくように言った。


 和人ウドゥン達が言われたとおりに店の中に入ると、すぐに眼鏡をかけた小柄な男とすれ違う。


「お、トリニティの登場だ!」

「よう、シオン」


 和人ウドゥンがにやりと笑って手を振る。下村セウイチもまた、楽しげにで笑った。


「あはは! シオン、全然違わないんだね」

「お前もな、セウ。セリスとリゼも、今日は来てくれてありがとう」

「はい! よろしくお願いします!」


 リゼが元気良く挨拶をする。セリスもまた微笑んでシオンに応えていた。


「もうインペリアルブルー組はきてるよ」

「本当ですか?」


 シオンは店の奥にある座敷を指差すと、残りの参加者を待つために外に出て行った。和人ウドゥン達が座敷に入ると、そこにはすでに三人の男女が座っていた。


「あ、トリニティだ」


 足を投げ出しただらし無い格好で座っていたオーバーオールの少女が、すぐに声を上げた。和人ウドゥンは随分と小柄な身体と、生意気そうな態度から、すぐにコンスタンツだと直感した。


「……だから、なんでわかるんだよ、コンスタンツ」

「きゃはは! お前だって私らを見た瞬間わかったでしょ? ナインスオンラインは見た目そんなに変えられないから、全然雰囲気が変わらないよね」

「よーウドゥン。セウイチも、まあ座れよ」


 コンスタンツに代わって、明るい感じの青年が手招きをする。彼はすぐにベイロスだと名乗った。見た目には彼は、下村セウイチと同じ大学生くらいのようだ。

 そして2人の間から、黒のロングヘヤーの女性がゆっくりと立ちあがった。


「みなさま、はじめまして。私は……プレイヤー名で名乗るルールでしたね。私はキャスカ、こちらがコンスタンツで、こっちがベイロスです。私もさっきお会いしたのですが」

「あんたも思った通りだな、キャスカ」


 和人(ウドゥン)がニヤニヤと笑みを浮かべながら返すと、莉世(リゼ)が彼を押しのけて前に出る。


「キャス! あのあの、私、リゼです!」

「はい。よろしくお願いしますね。リゼ」


 慌てた様子で自己紹介をしたリゼを、キャスカは優しく微笑んで隣に招いた。リゼは嬉しそうにキャスカのそばに行くと、すぐにコンスタンツも加え、女子三人がきゃいきゃいと騒ぎ始めてしまう。

 代わりに追い出される形となったベイロスが、ぽりぽりと頭を掻きながらやって来た。


「やれやれ。まだガルガンの野郎が来ていないから、居づらかったんだ。助かったぜ」

「インペリアルブルーは結構女子率高いからな」

「んー。どっちかっと言うと、2人がこんなに若いなんて思ってなかったってほうがな」


 ベイロスはそう言って苦笑いをする。彼は水道関係の会社勤めで、この時期は仕事も少なく暇をしているそうだ。そしてキャスカはまだ大学2年生、つまり下村セウイチ坂本セリスの一つ上でしかなく、コンスタンツに至ってはまだ中学生らしい。


「中学生って、大丈夫なのかそれ」

「大丈夫大丈夫。今日はキャスが保護者だから」


 和人ウドゥンの言葉が耳に入ったらしい。コンスタンツがケラケラと笑いながら言った。今回のオフ会、シオンは酒もOKだと言っていた事を思い出し、和人ウドゥンは少し眉をひそめてしまった。

 その時、翠佳セリスが立ち上がり 、キャスカ達の側に移動しようとした。


「まあ大丈夫でしょ。キャスカもいるし、私もちゃんと見ておくから」

「あぁ。よろしくな……セリス」


 危うく本名を言いかけてしまった所を、慌ててキャラクターネームに言い直す。キャスカ達は元々本名を知らないから問題ないが、確かに下村セウイチ達は気を抜くと間違えてしまいそうだった。

 莉世リゼを笑えないなと和人ウドゥンは自嘲した。


「お、もう集まってるな!」


 でかい声だった。座敷の入り口が勢いよく開き、巨漢と言っていい大きさの壮年の男性が入ってきたのだ。プロレスラーか何かと勘違いしてしまいそうに立派なガタイに、和人ウドゥン達は思わず呆気に取られてしまう。


「分かってはいたが、やはり子供ばかりだな。ま、おっさんなんて俺くらいだろうよ。がはは!」


 固まってしまった皆の姿を見渡し、そのまま豪快に笑う姿を見て、和人ウドゥンはようやく気がついた。


「ガルガンか……あんた、そんな歳だったのかよ」


 思わずそんな感想を漏らしてしまった。なにせ彼は白髪交じりの頭髪に、掘り込んだようにしわくちゃな顔と肌をしており、どうみても自分達よりも明らかに一回りも二回りも年上なのだ。聞けば年齢は還暦手前だという。それを聞いて実際一番驚いていたのは、インペリアルブルーの面々だった。


「早めに引退して、息子に仕事をゆずったんだ。まあ楽しい老後って奴だよ。実際、暇具合で言えばおそらく貴様らよりも上だぞ!」


 余りにも驚いた表情を見せる皆に向け、ガルガンは冗談っぽく言った。ゲーム内では確かに声のでかいおっさんだなと思っていたウドゥンだったが、現実に壮年の人物だった事実に何とも言えない気分に陥ってしまった。


「なんだ。もう始まってんのか?」

「おう、こりゃ結構いるな」


 そんな少し硬くなった雰囲気の中、軽薄そうな茶髪の男と、少し太り気味の中年の男性が姿を表した。1人はヴォル、もう一人はドクロを名乗る。彼らが参加者の中で最後の登場だった

 彼らがやってきたことでようやく、キャスカ達インペリアルブルーの面々が思い出したように自己紹介をし始めた。


 和人ウドゥンが自己紹介を聞きながらメンバーを見渡す。今回、大規模ギルドであるインペリアルブルーからは4人が参加しているが、同じく大規模ギルドであるクリムゾンフレアはヴォル一人しか参加していない。その理由を皆知ってはいるが、今のところそれに触れずにいた。

 しかし、和人ウドゥンとしては触れないわけにはいかなかった。


 やがて一通り自己紹介を終えた頃に、外で参加者の確認をしていたシオンとニキータが戻ってきた。


「これで全部みたい。それじゃあさっさと始めようか。料理と飲み物がくるまで適当に自己紹介でもしてて」

「もう終わってるよ。さっさと始めろー」


 下村が軽い調子で野次ると、皆がけらけらと笑った。やがて持ってこられた飲み物をそれぞれ手にすると、今回のオフ会の主催であるシオンが皆の前に立つ。


「えー、このたびは皆さん、ナインスオンライン・アルザスサーバーの……何の集まりだ?」

「愉快な仲間たちでいいじゃん?」

「古参の会だな」


 コンスタンツやヴォルが好き好きに言うの笑い飛ばして、シオンは続けた。


「まあいいや。今回は皆さん、お集まりいただきありがとうございます。大体はまあ近場ですが、トリニティの連中は結構遠くから来てくれました」

「お、そうなのか。どこなんだ?」


 ガルガンが興味深げに和人(ウドゥン)のほうに顔を向けたが、とりあえず返事は肩をすくめるだけにしておき、シオンの乾杯のあいさつが終わるのを待った。


「今はナインスオンラインがサービス停止中で、特にクリムゾンフレアは大変な状況になっており、本当はこんな時にオフ会を開くのもどうかと思ったのですが」


 そう言ってシオンはヴォルに目線を送る。他の皆も注目したが、彼は両手を軽く開くだけでそれを受け流した。


「まあぶっちゃけ皆、結構ひましていると思ったので、こうして集まってもらいました。話すことは色々とあるとは思いますが、とにかく今日は久しぶりの再会と初めてのオフ会を頑張りましょう。んじゃ乾杯」

「乾杯ー」


 皆がグラスを手に声をあげ、乾杯する。多くのメンバーはソフトドリンクであったが、ガルガンやドクロの熟年組はビールの入ったジョッキを自慢げに掲げていた。



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