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Zwei Rondo  作者: グゴム
五章 深紅の戦乙女
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9. 組み合わせ

9 


 ウドゥンのメッセージボックスに、フレンドである予想屋ドクロからのメッセージが届いていた。すぐにウドゥンが内容を確認すると、そこには明日のA級トーナメントの組合せ表が添付されていた。

 先ほどからギルドホームの庭園で手合わせを続けるセウイチとリゼに、ウドゥンが声をかける。


「組み合わせが来たぞ」

「え、本当!?」


 2人はプラクティスマッチを中断し、ウドゥンの傍に駆け寄ってきた。彼はトーナメント表を眺めながら簡単にコメントする。


「ファナと当たるのは準決勝だな」

「準決勝かー。遠いなー」

「一回戦はカスケードだね。あいつも上がってたのか」


 セウイチもトーナメント表を覗き込みながら言った。リゼが意外そうに言う。


「え、カスケードさんってレイディラックの?」

「だな。あいつもこの前B級ソロに優勝したばっかりだから、今回が初かな」

「そっかー。楽しみだなー」


 以前、大規模戦闘(インベイジョン)が発生した時、リゼはカスケードによくしてもらっていた。一回戦に知った名前と戦う事に、彼女は少し安堵する。


「二回戦はおそらくクリムゾンフレアの【朱雀】だな。ランカーランク30台の棒使いだ。準々決勝は微妙だが……オーンブルのエスタっぽいか。こいつはクロスボウとナイフの二刀流っていう変わったスタイルの女だ」

「へぇー」


 リゼは感心した様子で頷く。そのままトーナメント表の全体を眺めていると、よく知った名前を二つ見つけた。


「あ、アクライちゃんとヴォルさんもいる! 反対側だけど」

「おー。ヴォルが出るって事は、向こうはヴォルが本命だね」


 戦闘ギルド・クリムゾンフレアの中でもトップランカーであるヴォルは、アルザスサーバーで最も有名な戦闘プレイヤーの一人である。現在アルザスサーバーで圧倒的な強さを誇るファナに対抗できるプレイヤーとして、その名が真っ先に挙がるのも彼だった。

 ファナとヴォルは同時に出場する事が少ない為、今回のトーナメントはこの2人による決勝戦がメインイベントとして期待されるだろう。


「まあヴォルも問題だが、とにかくリゼとファナとが同じ側なのはでかい。準決勝で倒しちまえばおそらく、ヴォル・リゼの組み合わせの複勝クィネラで倍率数十倍は間違いないな」

「それはアツイなー。ファナ戦も楽しそうだし、俺も久々に賭けにいくかー」


 おもむろに賭け金の皮算用を始めた2人を、セリスが頬を膨らませてたしなめる。


「二人とも、リゼの応援をちゃんとするのよ。まったくお金の事ばっかり」

「そうだよー」


 リゼも同意して言うと、ウドゥンとセウイチがばつの悪そうに髪を掻いていた。

 その後しばらく談笑して休憩した後、ウドゥンが気を取り直して言う。


「それじゃあファナ戦の特訓は切り上げて、残りは順に想定戦をしていくか。一回戦はカスケードだったな」

「んじゃあカットラスか。あったかなーあんなマニアックな装備」


 セウイチがパネルを操作してインベントリをあさる。やがて「あったあった」と呟きながら大きく曲がった刀身を持つカットラスを実体化していた。リゼが感心した様子で言う。


「セウさんって、本当にどんな武器でも使えるんですね」

「ん? まあねー。凄いでしょ」

「飽きっぽいだけだろ。同じ武器をメインにして一週間持ったこと無いもんな」


 ウドゥンが冷たく言うと、セウイチがゲラゲラと笑いながら答えた。


「あはは! まあねー。でも色んな戦いができるから面白いんだよ」

「私もエストック以外にチャレンジしてみようかな……セリスさんの武器はなんなんですか?」

「私? 私は戦闘スキル持ってないよ」

「え、そうなんですか?」


 セリスが微笑みながら答えた。彼女はみなが食い散らかしたテラスの上をのんびりと片付けていた。


「うん。戦闘なんて興味ないからねー。何が楽しいのか全然わかんない」

「前から言ってるけど、ナインスオンラインで戦闘しないなんて絶対損してるぜー」


 セウイチが呆れた声で言うも、セリスはふんふんと鼻歌交じりに答えた。


「楽しみ方は自由でしょ。私は料理して酒場のウェイトレスをしてれば楽しいもん」


 リゼはその言葉から、先日ウドゥンが言っていた事を思い出した。『お前がやりたい事をやればいい』――セリスは自分のやりたい事をやっている。それは自分がどうこう言えるものではない、彼女はそう思った。

 強く拳を握り、リゼは自分に言い聞かせるように呟く。


「私、明日のA級トーナメント頑張る」

「あん? なんだよいきなり」


 ウドゥンが不思議そうな表情を向けてくる。リゼは彼を無言でみつめ返した。彼の腑に落ちないといった表情が、リゼにはなぜか少し可愛らしく思えた。


「はいはい。そんなに時間ないんだから、さっさとやるよー」

「あ、はい!」


 セウイチが呼びかけると、リゼはエストックを実体化させながら、慌てて芝生の上に駆けていった。





7/10



 最後のテスト科目は物理だった。先日の莉世りせとの勉強会によってある程度対策をしていた和人かずとは、開始早々に赤点は回避できそうだと見通しを立てた。

 昨日勉強した箇所がちょこちょこ当たっていたのだ。この分だと一緒に勉強していた莉世りせも大丈夫そうだなと、試験の途中に考える余裕さえあった。


「はい終わり。後ろから集めてきてー」


 監督の教師が声を張り上げると同時に、テストから開放されたクラスメイト達のざわめきが広がった。3日間続いたテストも終わり、後は夏休みに向けてテスト返しを含めたゆるい授業があるだけだ。

 和人かずともまた徹夜で疲れた体を大きく伸ばしながら、テストを終えた開放感を味わっていた。


柳楽なぎら君」

「あぁ……お疲れ」


 後ろから声をかけてきた莉世りせが、回り込んで和人かずとの机の前で腰をかがめた。


「昨日勉強した所が出たよね。結構出来た気がするよ」

「ヤマ勘が当たったな。運が良い」

「ううん。柳楽なぎら君が教えてくれたお陰だよ。これで夏休みに補習いかなくても大丈夫そう」


 彼女は安心したように息を吐きながら言った。桜実高校では期末テストの結果次第では夏休みの補習に狩りだされてしまう。和人かずと莉世りせもそれだけは避けようと連日必死に勉強をしていたのだ。


「これでオフ会にもいけそうだよ。よかったー」

「まだ日程、決まって無いだろ」

「うん。でも決まってから、その日補習とかだったら絶対嫌だもん」


 そう言って口を尖らせる莉世りせに対し、和人かずとは興味なさげにパネルを開いた。


「まあそんな先の話より、今夜のトーナメントの心配でもしとけ」

「う、やめてよ緊張しちゃうから」


 莉世りせが出場予定のA級トーナメントは、今夜20:00から開催される予定だった。昨日の内に発表された組み合わせを元に、事前に賭けを行う事ができる。和人かずとはそれを確認する為に、携帯パネルからナインスオンラインの外部操作をしていた。


「もうオッズが出始めてるな。お前は……って――」

「どうしたの?」


 和人かずとがパネルを凝視して眉をひそめたのをみて、莉世りせが画面を覗き込んできた。そこにはA級トーナメントにおけるオッズ表に数字が羅列されいたが、初めて見た莉世りせは首を傾げてしまう。


「なにこれ、どうやって見るの?」

「人気が出てるとは思ってたが、ここまでとはな……」


 和人かずとは表のある列を指差しながら、皮肉っぽく言った。


「良かったな。お前は今回のトーナメント、単勝ウィンで3番人気だ」

「え、えぇぇ!?」


 莉世りせがあげた驚きの声は、クラスメイトから不思議そうな視線を集めてしまっていた。


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