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Zwei Rondo  作者: グゴム
三章 喪心の銀ギルド
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15. 援軍と反撃

15



 その後は圧巻だった。無秩序に攻撃を加えるクリムゾンフレアの面々は、皆楽しそうに、しかし圧倒的な戦闘力をもって、無慈悲なる者グラングラン・ザ・ルースレスを数分足らずで撃破してしまったのだ。

 最強の戦闘ギルドと名高いクリムゾンフレアの実力に、周囲のプレイヤーは皆歓声を上げて熱狂していた。


 8thリージョンクラスの強力なNMを倒し、一仕事終えたクリムゾンフレアのギルド員達の中から、赤毛の男がウドゥンに近づいてくる。


「ようウドゥン。間に合ったみたいだな」

「あぁ。クリムゾンフレアの援軍、礼を言うぜ。ヴォル」


 ウドゥンが無愛想に返すと、【破壊者ブレイカー】ヴォルは皮肉っぽく笑った。


「くはは! 気にするな。見ての通りいきなり無慈悲なる者グラングラン・ザ・ルースレスなんかと戦えて、テンション上がりまくりだからよ」

「アクライを寄こしてくれたのも助かったぜ。あいつとセウが居なかったら、たぶん全滅してた」

「あぁ。【殺戮兵器キリングウェポン】も出張ってんのか」


 ヴォルがセウイチに目を向ける。彼は手を上げてそれに応えた。


「やっほ【破壊者ブレイカー】。噂は聞いてるよ。No.3に落ちたんだってね」

「お前は、二ヶ月も前の話を掘り返すんじゃねーよ」


 ヴォルが忌々しげに苦笑する。セウイチも久しぶりの再会に嬉しげだ。

 話していると、アクライを始めとするクリムゾンフレアの連中がヴォルの周りに集ってきた。数十人しかいなかったが、ランク持ちと呼ばれる上級者ばかりを厳選して連れてきたようで、トーナメントでよく見かける顔ばかりだった。


「まあいい、それよりガルガンはまだなのか?」


 ヴォルが周囲を見渡しながら言うと、ウドゥンは少し首をかしげる。


「いや、インペリアルブルーも防衛は終わってるから来てるはずだ……恐らく大通りから向かったんだろ」

「なるほどね。ま、俺達もファナがこっちに大物の気配を感じてなければ、先に大通りから行くつもりだったしな」


 そうしてヴォルとウドゥン達が話していると、がちゃがちゃと金属音をかき鳴らしながら、深い蒼色の装備で身を固めた一団が流れ込んできた。彼らはパーティ単位に分かれ、数人毎に素早く右通りに広がっていく。


「噂をすればご到着みたいだね」


 それを見てセウイチが呟く。同時に隣のヴォルは少しげんなりとした表情をした。一団の中に、一際目立つ巨体を見つけたからだ。


「いよう! ウドゥン! ヴォル! お、セウイチも久しぶりだな!」


 インペリアルブルーのエリアリーダーであるガルガンが本隊から離れ、周囲のプレイヤーを蹴散らしながらやってきた。


「少し遅れたが、32番街全域にインペリアルブルーを配置した。残り時間から考えて、これで負けはなくなっただろう」

「あぁ。戦闘の指揮はしなくて良いのか?」

「キャスに任せてきたから問題ない」


 本来であれば当然ギルドリーダーがすべきギルドの統率を、ガルガンはサブリーダーのキャスカに丸投げし、身一つでここにやってきたようだった。

 呆れたようにヴォルが言う。


「あんた、そういうところは昔から変わらないよな」

「がはは! まあ気にするな。それより、これからメインイベントだろ?」


 ガルガンが笑いながらウドゥンに顔を向けると、彼は静かに頷いた。


「あぁ。総大将を狩るぞ」


 その言葉に鼻息を荒くして食いついてきたプレイヤーがいた。ヴォルの後ろに隠れるようにしていた、【戦乙女ヴァルキリー】ファナだ。

 真っ赤な瞳と深雪ような白髪が印象的な、妖艶な美人だった。


「おい黒髪! 本当に9thリージョンの敵が来てるんだろうな?」

「そうだ。それがいないと、今回我らが援軍に来た意味が無いぞ」


 ガルガンもそれに同調する。2人が息巻くのは当然だった。というのもウドゥンはヴォルとガルガンに『9thリージョンのモンスターと戦える』という条件で援軍を頼んでいたのだ。

 クリムゾンフレアは単純に強敵と戦えることを、インペリアルブルーは9thリージョンの敵という未知の情報を得ることをそれぞれ目的として、彼らはこの場に来ていた。


「さっきセウ達には報告しようとしてたんだが、総大将の正体が分かった」

「ってことはやっぱり……」


 セウイチの言葉に、ウドゥンは小さく頷く。

 ウドゥンは先程、使い魔のフリーを打ち出しておいた。そしてそのスキルである【情報吸収データドレイン】を使い、入り口に現れるはずの敵総大将の情報を集めていたのだ。

 実際フリーを放ってすぐに総大将は現れた。そしてそれはウドゥンにとって、予想通りの敵だった。


「総大将はトラウ。トロール族の黒個体だ」

「……黒個体?」


 その言葉はリゼからのものだった。すぐに初心者の自分がでしゃばってしまったと思い、はっとして両手で口を塞ぐ。

 しかし恐る恐る周囲を見渡すと、以外なことに他のプレイヤー達もみな首をかしげていた。


「黒個体?」

「何だそれは。聞いたことがないが」


 ヴォルとガルガンが共に怪訝な顔をしている。ファナにいたっては眉間にしわがよりすぎて、整った顔が台無しだ。

 セウイチがウドゥンに目配せをする。するとウドゥンはコクリと頷き、説明を始めた。


「9thリージョンの情報はこれまで秘匿にしていたわけだが、今回はそれも公開する。9thリージョンは唯一つのエリア『ナインスキャッスル』によって構成されているのは知っているか?」

「まあ、公式情報だからな」


 ヴォルが皆を代表して答えると、ウドゥンは続ける。


「そう、ここまでは公式で発表されている。で、このナインスキャッスルってエリアなんだが、雑魚(モブ)がいないんだ」

「へ?」

「は?」


 一同の頭に疑問符が付く。雑魚(モブ)がいないエリアなど、街エリア以外聞いた事が無かったからだ。

 ある男がウドゥン達に歩み寄りながら発言する。


「要するに、ボスラッシュか」

「その通りだ。早かったな、カスケード」


 ウドゥン達が円陣を組んで話している場所に、ド派手な装備を着込んだ【海賊パイレーツ】カスケードが到着していた。左通りの指揮を担当していた彼は、インペリアルブルーの援軍を確認してこちらにやってきたようだ。


「急いで来たからな。そうそうたるメンバーで緊張するけど、俺も参加させてくれよ。レイディラックのカスケードだ」

「がはは! 名前は聞いてるぞ。よろしくな」


 ガルガンが豪快に歓迎すると、カスケードが会話の一端に加わった。ウドゥンが説明を続ける。


「いまカスケードが言った通り、ナインスキャッスルはボスラッシュ・エリアだ。1stから9thまでの九つの城で構成されていて、それぞれの城にボスがいるだけ。全身を漆黒に染めた、不気味なボスがな」

「つまり今回の総大将はそいつらの中の一匹か」


 ヴォルが納得して頷くと、隣にいたアクライが質問してくる。


「トリニティはその黒個体を何体倒したんだ?」


 その問いにウドゥンは皮肉っぽく笑った。


「最初の塔にいたのがトラウだったが、奴にすら勝利していない。要するに俺達トリニティは黒個体を一体も倒せなかった」

「なっ……」

「あの【太陽ザ・ハーツ】がいたのにか?」


 皆が一様に衝撃を受ける。

 ここにいるほとんどのプレイヤーは、トリニティとそのリーダーだった【太陽ザ・ハーツ】リズの圧倒的な強さを知っていたからだ。

 動揺する面々に向け、ウドゥンが続ける。


「まあ実際、トラウと戦ったのは一度きりだがな」

「回数制限でもあるのか?」


 ヴォルが質問すると、ウドゥンは小さく首を振って否定する。


「単純に勝てる要素が無かったからだ。俺とセウは、トラウと対峙して10秒持たずに死んだ」

「……ウドゥンはともかく、お前がか? セウイチ」


 ガルガンが声を押し殺し聞くと、セウイチは頷き、昔を思い出すように視線を上げた。


「まあねー。ウドゥンは一発で即死。俺は2,3発受け流したけど、受け切れなくなってすぐにやられたってところかな。あの時は本当にショックで、しばらく立ち直れなかったよ」

「リズは?」


 真剣な調子で投げかけられたをその言葉は、ファナからのものだった。セウイチが彼女の方に顔を向け答える。


「俺達が死に戻って、30分後くらいに戻ってきたよ。もちろん死亡デッドしてね」


 一同が言葉を失う。しかしすぐに、甲高い笑い声が響いた。


「ふふふ! あのリズが……勝てなかった相手だと!? あはははは!」


 不気味なほど嬉しげに、ファナは高らかに笑っていた。


「駄目だ、待ちきれない! さっさと行くぞ――ぐげっ」


 ファナはそう言って1人駆け出そうとする。しかしヴォルに首根っこを掴まれてしまい、カエルがつぶれたような声を出していた。


「ヴォル! 放せ!」


 今にも切りかかりそうな剣幕のファナをぶら下げながら、ヴォルもまた高揚した様子で言う。


「くはは! そんな奴とやれるとは、面白くなってきたな。それでこれからどうするんだ?」

「そうだ。今回俺達は援軍――ただの助っ人なんだからな。32番街の連合の指示に従うぞ」


 ガルガンも空気を震わせるような大声で同調した。続けてカスケードが興味なさげに言う。


「ドカティは中央に残るってよ。で、俺は指示を出すのはあまり得意じゃない。セウさんは?」

「俺? 俺が指示するような人間に見える? あはは!」


 ゲラゲラと笑うセウイチ。そしてみなの目は、一人の男に集中した。

 黙って話し合いの流れを見守っていたリゼも、皆の視線の意味にはっと気が付き、隣に立つ男を仰ぎ見る。その先にいたウドゥンは髪を一掻きすると、観念したように息を吐いた。


「俺かよ」 

「頼むぜー【智嚢ウィズダム】。その二つ名に恥じない指示をよろしく」


 ヴォルが茶化すように言うと、ウドゥンは迷惑そうに眉をひそめた。


「別に、状況を考えればやることなんか一つだろ。残り時間は30分を切ってる。防衛線はインペリアルブルーの援軍で磐石だ。負ける要素はもはや存在しない。だから――」


 周りを見渡しながら、ウドゥンは珍しく語気を強めて言った。


「総大将の居場所まで全員で突撃だ。楽しもうぜ」


 その言葉を引き金に、爆発したように歓声が上がった。中心で話していた者達以外にも、次々と突撃命令が伝播していく。

 そして口火を切ったのは、勿論この女だった。


「ふふ! 行くぜ! 皆、私について来い。遅れる者は切り捨ててやる!」

「あ、まってよ姉様!」


 【戦乙女ヴァルキリー】ファナが皆を鼓舞するように叫ぶと、先陣を切って走り出した。それを追うアクライを始めとするクリムゾンフレアの面々、生き残った右通りのプレイヤー、9thリージョンの総大将を狩ると聞いて集ってきた野次馬達が、みな一斉に駆け出していく。


「さて、俺達も行こうか。カスケード、一緒に行こう」

「あぁ。よろしくなセウさん」

「旦那も一緒にくるかい」


 セウイチが言うと、ガルガンが声を上げて笑った。


「がはは! そのためにわざわざ指揮をほっぽり出してきたんだからな」

「そういえば、なんで1人なの? キャスカは指揮代行だから来れないにしても、ベイロスやコンスタンツは?」


 セウイチがインペリアルブルーの幹部達の名前を上げると、ガルガンは首を横に振りながら答えた。


「奴等は奇襲部隊の対応のために待機させている。まだ高ランクリージョンの敵が現れるだろうからな」

「あーそういえばそうだね」

「それとこの先の戦闘、生き残るだけなら俺1人の方が確実だ」

「あはは! 確かに」


 セウイチが頷くと、続けてカスケードが落ち着かない様子で言った。


「クリムゾンフレアとインペリアルブルーのトップ連中と共闘ってのは……さすがに緊張するな」

「お前と一緒に戦えるのも楽しみだぞ、カスケード。よろしくな!」


 ガルガンがカスケードの体をガシガシと叩く。セウイチがそれを見て、愉快げに笑っていた。


「ウドゥン……」


 多くのプレイヤーが敵軍勢に向かう中、リゼはおずおずとウドゥンに声をかけた。


「私も、一緒に行っても良いかな」

「なに言ってんだ?」


 彼は首をかしげ、いつものぶっきらぼうな様子で言う。


「お前もトリニティのメンバーだろうが。変なこと言ってないで、さっさと行くぞ。遅れても助けないからな」

「あっ……うん!」


 そうしてウドゥン達も駆け出した。インベイジョンは最終局面に入っていた。


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