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02.魔法




「もしかして、これが魔法なの……?」


思わず、私の口からは言葉が漏れる。


乙女ゲームの設定でも、そして先ほどのヘンリーの言葉からも、オリビアは魔法が使えない令嬢だった。性格の悪さもそうだが、そのコンプレックスも相まって、ヒロインを虐めてしまう。


しかし現在は、本当にそのゲーム設定で合っていたのか……疑問が大きくなっているのだが。


それよりも、今、目にした摩訶不思議な現象は……現代社会で生きて来た前世では見たことのないものだ。


ゲームでは、なんとなくで認知していた魔法が――こうして実際に起こせたことに驚きでいっぱいになる。


いや、そもそも私……オリビアが魔法を使えるようになったこと。その事実が、一番重要なのではないのか。


(もしかして魔法が使えれば、さっきのお父様の態度も変わる……?)


もちろん先ほどのあんまりな態度については、理解しがたいが――この事実を前に、「父親に愛されたい、認められたい」というオリビアの長年の気持ちが、胸の中で大きくなっていく。


前世ではあくまで傍観者としての立場だったが、こうして当事者の感情や現象を目の当たりにすると――オリビアとしての期待が生まれてしまう。


(そうよね…! さすがにさっきの話はあんまりすぎたわ…! こうして魔法が使えないことを、なじるために心無いことを、お父様は言っていたのよ。そうだとしても、ひどすぎるけれど……。でも、こうして魔法が使えるようになれば、家族との関係も改善して――悪役令嬢になんてならずに済むわ!)


甘い期待に、すがる希望を見てしまう。


しかし実際に、ゲーム設定では起きなかった現実によって「もしかして」が生まれる可能性だってあるのだ。きっとそうに、違いない。


頭の中では、私を残念がる――先ほどのヘンリーの顔が思い浮かぶ。


もしお父様が、この事実を知ったら認識が変わるはずで。


だからこそ、すぐにでもお父様に伝えなければ――。


そう思った私は、部屋の扉から廊下へ出ていく。監禁ではないため、部屋の扉に鍵はかけられていなかった。


きょろきょろを周りを見渡していれば、玄関先が騒がしくなっていること、父親の笑い声に気が付く。


嫌な未来から抜け出せられる、ようやっと家族として関係を築いていける――そう思って、駆け足に玄関先に行けば。


「おお! よく来た……! リアーナ、馬車は大変ではなかったか?」

「はい……! お兄様がエスコートしてくださったので!」

(リアーナ……?)


私は、足を止めて――目の前の光景に目が釘付けになった。


リアーナという名前はよく知っている。それは――前世で、何度も目にした乙女ゲームの主人公の名前。


玄関先にいるヘンリーとミシェルは私に気が付いていないようで、楽し気な雰囲気で“リアーナ”と話に花を咲かせていた。


視界に入れたリアーナは、よく知っている金髪に青い瞳の女性だった。


「まったく、父上は心配性なのですから……」

「それもそうだろう、可愛い娘がようやっと…我が家に来てくれたのだから」

「確かに、そうですね」


彼らの会話を聞くと、私は前世で見たあるシーンが頭をよぎる。


それは、ゲーム序盤のシーンであり、乙女ゲームの物語の始まりの合図。


孤児院で育てられたリアーナは、生まれに引け目を感じながらも、温かい伯爵家の家族に迎え入れられた…そう書いてあった。文章で読んだだけだったのに、いざこうして、詳細をまざまざと目に入れると。


ツキンと心が痛んだ。


ヘンリーとミシェルに迎え入れられたリアーナもまた、嬉しそうに会話を弾ませている。


「私のために…何年も孤児院に通ってくださって……本当に嬉しかったんです!」

「そんなことは……伯爵家当主として当然の行動だ。すぐに迎え入れては……リアーナが戸惑ってしまうだろう?」

「ああ、そうだ。僕たちは、リアーナの居心地のよさが一番だから」

「お父様…、お兄様…ありがとうございますっ」

「妻の髪色によく似て……それに、心根も優しい。本当に我が家の娘だな」


私には見せたことがなかったヘンリーとミシェルの甘い声に、吐き気が生まれてくる。


(何よ、これ……)


ゲーム内では、伯爵家の父と兄がリアーナの孤児院に通っていたなんて書いてなかった。


プレイヤー目線では、あくまで始まりに過ぎず――詳細に描かれていなかったのだろう。


リアーナにとっては、とても温かいシーンだが――オリビア……私にとっては裏切りも同然の事実。


実の娘ではなく――養子の……赤の他人を優先されていたなんて。


ずっとその場で動けずに立っていれば、リアーナが私に気が付いたのか――声をあげた。


「あら…? あそこにいるのは…?」


そう声をかけられて、私はハッとなり顔をあげた。そうだ、ここに来たのは目的があったのだ。


「あ…、お父様! その…私も魔法が…」

「! おい! なぜお前がここに来たんだ! 部屋で反省しろと言っただろう!」

「え……?」


私の声をかき消すように、お父様は大声を出す。そしてお兄様も続けて、声をあげて。


「…いい加減にしろ」

「おにい、様……?」

「この家の荷物のくせに。でしゃばるなよ」

「ミシェルの言う通りだな。反省の一つもできんとは……伯爵家にふさわしくない」


私の意見など聞く気もない――二人分の冷たい目がそこにあった。


私の中で、家族という希望がバラバラと崩れ落ちる。


そうか――彼らは家族ではなく……ただのヘンリーという人間と、ミシェルなのだ。


ヘンリーは苛立ったように、使用人たちに声をかけた。


「早く、こいつを連れていけ!」


そしてヘンリーの命令を受けた使用人たちは、私を両側から拘束して――自室へ引きずるようにつれて行くのであった。



◆◇◆



(私の気持ちなのか、オリビアの気持ちなのか…まぜこぜになって…涙が止まらないわ)


使用人たちに強制的に自室へと戻された私は、床で脱力しながら座り込んでいた。


オリビアの生い立ちや彼女の想いが……ひしひしと胸の中で感じ取れた。


ゲーム内のオリビアはずっと、この孤独感と戦ってきたのだと理解する。リアーナを虐めてしまうのは良くないが、こんな劣悪な環境だったことには複雑な気持ちになる。


(でももう、ゲームの設定を知っているから…処刑される未来なんてならないように、穏便に生きて…機を待ってこの家からも…)


前世で愛用していたゲームに、複雑な気持ちを抱きつつも――今の自分の現状を再確認する。


リアーナは家族のこととは別に、無実なのだから……虐めたり、邪魔したりするべきではないだろう。


そう、今後の自分の身の振り方について、考えていれば――。


――ガチャッ!


突然、乱雑に自室のドアが開け放たれた。


「ちょっとぉ~! 本当に邪魔なゴミね、あんた!」


先ほど、私にバケツで冷水をぶっかけてきた侍女がそこにいた。しかもその侍女の片手には、見覚えのあるバケツがあった。


「物覚えが悪いゴミには、躾が必要ですよねぇ」

「……ゴミ?」

「ええ! 伯爵家に認められない不必要なゴミ! しかも魔法も使えないなんて、救いようもないわ」


私は侍女の言葉を聞いて、ふつふつと湧き上がる怒りを感じる。


(これからは穏便に生きようとは思うけれど…それはこんな虐めに耐え忍ぶことではないわ)


自分の胸の中で、一つの想いが生まれていた。


もう決して、いいように扱われたくないと――こうして虐げられ続けるのは勘弁なのだと。


侍女にキッと睨みを向けて、私は口を開く。


「そのバケツをどうするつもり?」

「はぁ? 何、質問してんの? あんたに答える必要はないでしょ?」


私の言葉に対して、反抗的な声色で返す侍女。


そののち、にやにやと侍女は意地の悪い笑みを浮かべながら、バケツを持ってこちらに近づく。


しかも追い詰めるように、「あら? ベッドがもう乾いたようで…もっと寒くしないとっ!」と意地悪なことを言う。


そんな彼女の態度を見て、私はその場に立ち上がって――彼女と相対する。自然と口からは、低い声が出ていた。


「…あなた何様?」

「はい?」

「ただの使用人のくせに、よくそんな大層な口が利けるわね?」

「なっ!」


侍女は持っていたバケツを持ち上げて、私に水をかけようとしてくる。


しかし私は、彼女が動くよりも早く――侍女の方に手を向けた。


すると、侍女の予想に反して、バケツを傾けても水が出ない……どころか。


「!?」


侍女は驚きを露わにして、バケツの中を凝視していた。バケツの中に入っていた水は――凍っていたのだ。




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