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14.意を決して




(王家が嫌がらせをしてくる――ですって……?)


その言葉を聞いて、私は目を見開く。


一方で彼らは私に気づかずに、ため息をつきながら話し続けていた。


「本当だよ! 俺たちの仕事は、あくまで貴族間のトラブルや……民間における刑罰に関わることだろう? なのに、どうして――手が回らないからって、魔法におけるトラブル解決までも担わなきゃならないんだ!?」

「確かにな。王家が言うには……公爵家として矜持を示すべき、ゆえに災害が起きた地域の復興を手伝え――だったか?」

「そうだ! 王家が率先してやるべきなのに、ずっと室内ばかりの仕事なんて――他の貴族たちに示しがつかないから……あてがってやるなんて……」

「復興については、手助けできるもんなら……という気持ちはあるが……内容がな……」

「ああ、異常気象によって溶けてしまった雪山の修復なんて……無茶だ!」


(雪山の修復……!?)


私はその言葉を聞いて、さらに目を見開く。


だって、雪山の修復というのは、既存の物語にもあった話で……しかしこの話はリアーナに関するイベントの話だった。


(王太子・シューベルトに誘われて……リアーナが赴いて……彼に魔力を渡して乗り越える展開だったはずで、どうして公爵家に……)


そう、そのはずだった。


しかし司法院の騎士たちの話を聞くに、その仕事は司法院に押し付けられてしまったようだ。顔見知りの彼は、憤りが止まらないようで。


「魔法使い……十人は必要なレベルに、魔法が使える人材に特化していない司法院にそれを押し付けるっていうのは……無茶すぎるっ!」

「ああ、そうだな……。つまりは――公爵様への負担を増す形、だろうな」

「そうさ! 司法院での業務がありながら――こんな魔法に特化したトラブルは、公爵様しかご対応できない! それを公爵様宛じゃなくて、俺たちに先に厳命させるのも意地が悪い!」

「だが、もとから王家はそんな奴らだろう?」


どうやら、王家のそうした嫌がらせは――結構あるようだ。


今回は、公爵家ではなく司法院に王家の命令が向かって……彼らがその命令を目にしてしまった。


「はぁ……俺はこれを公爵様に伝えたくない……。ご自身の結婚後も仕事にかかりきりで……今日もきっと、執務室で書類の精査をしてらっしゃるだろう?」

「……そうだろうな……この厳命より前は、先月だったか――国王自ら、貴族間の契約トラブルをたくさん明るみにしたかと思えば……司法院へ持って来たことへの対応がまだ残っていらっしゃるな……」


二人の騎士は、互いに眉根に力を入れながら「はぁ」と再びため息をついたのち。


「それでも、公爵様へ伝えなければ……またトラブルの発展になってしまうからな……」

「行くか……」

「“俺”じゃなく、“私”スイッチを入れて……丁寧に話さなきゃ……話せるかな……?」


どこか重い身体を引きずるように、屋敷の中へ向かっていった。


その言葉を聞いた私は、胸の中がザワザワと嫌な感覚に襲われる。


正直、既存の物語の展開が変わったことへの驚きはいっぱいだ。


ただ、これによって未来も変わっていく予兆としてなのであれば――まだ分かる。


けれどその予兆のせいで……レインがさらに忙しくなり、苦労している。


しかも私には迷惑をかけないように、そうした状況から遠ざけてくれている。


(レイン様がお忙しいのは……王家からの嫌がらせが苛烈になったから。それはよくない)


頭の中には、全ての物事を余裕な雰囲気を持って――対応するレインの姿。


しかしそんな彼の背後には、ただならぬ忙しさや重い責務があって。


(王家からの動きで――レイン様が潰されたら、私の平穏が終わってしまう危機感も、ある……けれどそれ以上に……)


先ほど聞いた騎士たちの話が本当ならば、彼は私と結婚したのちに――そのことを祝福ではなくさらに重たい仕打ちとして、王家からの嫌がらせをこれから聞くことになる。


彼自身が望んだものではなく、強制されることの不快感。


レインは、私ではないが――その不快感は嫌というほど、オリビアの記憶に、身体にしみついている。


(それが嫌で、あの家から出ていったのに……レイン様が犠牲になるなんて……)


気づけば、私は立ち上がって――自分の部屋へ戻った。


無言で帰って来た私に、侍女のエマが心配そうに声をかけてくる。


「オリビア様、ど、どうかされましたか? 今日はお庭でゆっくりと過ごされると……」

「……ええ、十二分に休められたわ」

「え?」

「確か、ここ最近は……お義母様のためにお医者様が常駐してらっしゃったわよね? 今から、私が会うことはできるかしら?」

「え、ええっと……はい、会うことは全く問題ないと思います。なんなら、公爵様からはオリビア様の不調のためにも備えていると聞いておりますから……」


エマからそう聞いた私は、自分の両手にキュッと力を入れる。


現在私は、レインから二か月後の魔力の受け渡しのために「休養」が必要だと言われている。


しかし、自分自身では全く体調の問題は見られない。


だから私ができることは――。


「では、お医者様にお会いしたいわ。案内してくれるかしら?」

「は、はい。もちろん――その、理由を伺ってもよろしいでしょうか?」

「理由……それは……」


私はエマにニコッと笑みを浮かべて、言葉を紡ぐ。


「休養は返上するべきものだと――気づいたから」


そう彼女に、言うのであった。



◆◇◆



公爵家に常駐していた医師と会うのは、すぐに叶った。エマを連れて、医師から言葉を貰ったのち。


私は「医師から言われた言葉をレイン様に伝えたい」ということで、エマに彼の執務室へ案内してもらった。


彼の執務室に来るのがこれが初めてだ。


目の前には扉があり――この奥にレインがいる。


そんな時、部屋の中から……先ほどの騎士たちの声が聞こえてきた。それと、その騎士たちに返事をするレインの声。


「公爵様……王家へ抗議文を出しましょう! さすがにこれ以上は、司法院も公爵家も疲弊します」

「確かにそうだな……だが、今は――結婚をしたばかりで、悪評とこの結婚のイメージが合わさるのは良くない。それこそ王家の思うつぼだ。僕が行くにしても――まだ足りない。どうにかして、魔法を使える人材を……早急に探さねば……」


(庭園で聞いてから……あの騎士たちとの話がまだ終わってなかったのね)


部屋の中では、議論が活発になっているようで――エマは、私の方を窺い見て……「時間をあらためましょうか?」と話しかけてくる。


そんなエマに、私は――。


「いいえ、大丈夫よ」

「え? オリビア様……いったい……」


私は彼女にそう返事をしたのち、執務室の扉をドアノックする。


「レイン様、失礼しますね」

「ん? オリビア……? どうしましたか……?」


私がそう声をかけると、レインの疑問の声が聞こえてくる。


しかし彼の疑問に答えるより早く――私は室内へ入る。


扉を開けた先には、庭園で話していた騎士二人と……執務机の椅子に座るレインの姿。


(机に……あんなに書類が……)


そして彼の机の上には……大量の書類があることに気づいた。


私は想像に難くないレインの苦労を感じて、ズキッと胸の奥が痛んだ。


だからこそ、私は――この状況をどうにかしたい。


「突然ごめんなさい、レイン様……」

「いや、それは別に構わないが……もしかして、君の身体になにか不調があったのですか? それならすぐに医者を……」

「いいえ、その逆ですわ」

「え?」

「お医者様からは、魔力が十二分に馴染んだこと……もう休養期間は不要なことを、お墨付きでいただきましたの」

「!」


レインは私の言葉を聞いて、私の侍女の方へ驚いたように目を向ける。


すると侍女のエマは、「た、確かでございます。先ほどお医者様のところで、オリビア様の体調は回復したと……もう休養の必要はないと聞きました」と答えた。


「ただ、お坊ちゃまのお母上……大奥様の容態は、ゆっくりと次第に……とのことですので――大奥様は、やはり当初の予定通りの休養が必要とのことです」

「なるほど……」


エマの説明を聞いて、レインは目を見開きながら理解に努めているようだった。


そんな彼に、私は……今ここに来た理由を話す。


「ええ、その報告を――レイン様に伝えて……私は一つのお願いをしに来ましたの」

「お願い、ですか?」

「はい。無礼な行いで恐縮ですが……先ほど、部屋から魔法使いが足りないと聞こえて来まして」

「っ!」


私がそう話すと、二人の騎士がビクッと身体を反応させた。


庭園で聞いたことではなく、あくまで部屋から聞こえたことを伝えた。


「私がお力になれるのなら……ぜひ、魔法の力を使いたく思っておりますわ」

「オリビア……たしかに、君の……水の魔法の力は、今必要だが……」


レインは信じられないとばかりに、瞳を揺らしてこちらを見つめていた。


そんな彼の様子は、まるで自分を助ける存在なんてありえない――そんな雰囲気だった。


(ずっとつらい状況が続くと……なにもかもが信じられなくなるのよね)


私でいうところの伯爵家内での関係がまさしくそれで――すべてが敵だった。


だから自分一人で抱え込んで……どうにか打破するしかなかったのだ。


けれど今はこの公爵家の一員となって……まだ日は浅いが、かなり良くしてもらった。


それに彼には、誠実な態度で接してもらえた。


過去の自分のような姿や――レインに応えたい気持ちが生まれて、私はこの部屋に来たのだ。


そして私の話を聞いた騎士たちが、嬉しそうな声をあげる。


「公爵様っ! 奥様は、水の魔法を使えるのですか……! ならば、間違いなくこの王命に適任です……!」

「……しかし」

「私たちは、やすやすと……あの権力に屈したくありません……!」

「……」


(騎士が言う権力というのは……王家という意味なのでしょうね)


さすがに私が聞いている場で、声を大に王家を糾弾したりはしないが――彼らも思うところが我慢の限界まで来ている。


そんな彼らの気持ちは――レインが痛いほど知っているのだろう。


彼は眉根に力を入れて、考えているようで……。


「あなたたち……それと侍女も、この部屋から少し退室してくれますか?」

「公爵様……」

「妻と……ちゃんと話をしたくて、心配性な夫ですまない」


レインは困ったようにニコッとほほ笑みながら、そう話した。


すると騎士たちと、侍女のエマは――彼の言葉に従ってその場から出ていった。


彼らが出ていったのち、レインは自分の片手を持ち上げて。


――パチン!


指を鳴らした。その瞬間、感覚的に――彼の魔法が発動したことに気づく。


「先ほどは、かけていませんでしたが――防音をこの部屋に施しました」

「ぼ、防音……」

「公爵家内であれば……聞かれても問題ないと思っていたのですが――」


レインは私の方を真っすぐと見つめて。


「まさか聞いたことを逆手にとって、こうして――突然の提案をされるなんて、予想外でした」

「……」

「あなたと出会ってから、予想外なことばかりですね」


彼は困惑したような、どこかこちらを探るようなまなざしだった。


「さて、どうして――あなたは、僕にあの提案をしたのですか? ずっと休養期間を満喫したほうが、あなたの希望に沿った生活だったはず。それなのにどうして……」


レインはそう私に質問をしてきた。




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