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【2/15 書籍3巻発売予定】お狐様にお願い!~廃村に残ってた神様がファンタジー化した現代社会に放り込まれたら最強だった~  作者: 天野ハザマ
第二章

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お狐様、大浴場を楽しむ

「あー……癒されたあ。マジやべえわ……」

「よかったのう」

「いやほんと、アレは金取れるよ。すごいヤバい」


 夜。すっかり癒されたヒカルと癒したイナリがホテルのレストランで食事をとり、そして今は大浴場の湯船に浸かっているところだった。効能やら由来やらが書いてある説明書きを見るに、どうも天然温泉であるらしいのだが。ヒカルは温泉に詳しくないのでどう凄いのかもよく分からないし、イナリは温泉に入るのが初めてなので、やはりどう凄いかはさっぱり分からない。分からないが……分からないなりに楽しめてもいた。


「いやあ、温泉とは良いものじゃのう」

「だなー……そういや草津ってとこの温泉はすげえらしいけど、此処よりすげえのかな……」

「草津か。えーとなんじゃったかな。恋の病以外は治るんじゃったか?」


 恋の病以外は治せない病は無いのだと言われる草津温泉だが、まあイナリたちが聞いても「そうか、凄いんだな」としか思わないのは恋の病にかかったことがない者特有の反応ではあるだろうか?


「恋の病ってさー……治ったらどうなんの?」

「む? そういえばどうなるんじゃろうなあ……叶うんじゃろうか、恋」

「恋から愛に変わるって? でもそれって治ったっつーの? より強くなっただけじゃねえ?」

「むむう。しかし恋破れた状況を治ったというかは疑問ではあるんじゃないかのう」

「いや、そこはほら。よく考えたらそこまで好きじゃなくて冷めたとか」


 確かにそれはとても「それっぽい」とイナリは思う。実際にどうかは分からないが、恋を病と定義するのであれば元の状態に戻ったことを「治った」とするのが正しい気もする。


「恋、のう……」

「経験あんの?」

「無いのう……」

「アタシもない。つーか興味もない」


 そう言いながら「だから分かんないんだよなあ」とヒカルは呟く。実際、ファンレターの類は色々届く。老若男女様々で、プレゼントも何かしらの問題があるもの以外はヒカルに渡されてもいる。けれど、その中で1つもヒカルの心を動かしたものはない。それはまあ、「ライオン通信のヒカル」はそういうキャラであってヒカルではないから……なのかもしれない。けれど、それよりも。


「今、生きてて楽しいし。そっちに向ける気持ちの余裕、ないからなあ」

「なるほどのう。夢中になれるものがあるんじゃな」

「あるっつーか覚醒者としての仕事な。アイドルじゃないほうの。バトルのほう」


 言いながら、ヒカルは大浴場の大きな窓の外を見つめる。展望風呂である此処はかなり景色が良く、夜の府中の町がよく見える。宝石のようにキラキラと輝くその光景に、ヒカルは僅かに暗い感情をにじませる。


「覚醒者はいい仕事だよ。くだらねえ戯言は全部実力で黙らせられる。男も女も大人も子供も、命かかった場所じゃ関係ねえしな」

「ふむ……まあ、そうじゃのう」


 確かにそれはその通りだろうとイナリも思う。覚醒者に大事なのは実力だけだ。おそらくは人格だの評判がどうだのというのは二の次なのだろうというのは「黒い刃」の件でイナリもなんとなく察してはいる。ヒカルの思考もどちらかというとそちらに近いが……まあ、問題ないだろうとイナリは感じていた。ヒカルの性根は、あんな腐った連中とは違う真っすぐなものだと思うからだ。何故ならば。


「しかしまあ、その割にはらいおん通信の仕事も頑張っておるの?」

「うっ、そりゃまあ……こっちでの保証人もやってくれてるし……契約金も支援金もデカいし……」

「ほほーん?」

「そ、そういうイナリだってフォックスフォンのイメージキャラだろお⁉」

「儂はなんちゅーか、面倒な勧誘の盾になってもらっとるだけじゃからのう。つーかあんまりいめえじきゃらの仕事はしとらんし」

「ええ、ずっりい……どおりで動画とか全然ねえなと思ったんだよ……」


 ヒカルは歌を出しているのにイナリは全然出さないし、おかしいなとは思っていたのだ。ヒカルは湯舟をざばざば移動しながらイナリの横に座り、その頬をつつく。凄いプニプニしていて気持ちがいい。さておいて。


「うわ、何だコレ。肌がやべえ……え? 化粧水とか持ってなかったよな?」

「化粧水ってなんじゃ?」

「うわ! ズリィ! ケア無しでこれってことか⁉ なんか許せねえ!」

「うおおお⁉ なんじゃあ!?」


 急に怒り出すヒカルにイナリは思わず耳をピーンと立ててしまうが、そんなものでヒカルの怒りは収まらない。それで誤魔化されるのは赤井だけだ。そもそも誤魔化したくてやっているわけではないけども。


「くそう、世の中は不公平だ。こんなとこで格差を感じるたあ思わなかった……」

「そんなこと言われてものう……」


 やがてお風呂から上がったホコホコなヒカルが同じくホコホコなイナリの頬を再度指でつつく。片手に持った瓶の牛乳はヒカルがコーヒー牛乳でイナリがフルーツ牛乳。湯上りには最高の飲み物だが、イナリのことが衝撃的過ぎて味のことなど今のヒカルには分からない。


「ふりかけ……? まさかふりかけが美容に効くってのか……?」


 そしてイナリとしてもヒカルがいつ「戻ってくる」か分からなかったので、適当に相槌を打ちながら部屋へとヒカルを連れ帰ったのであった。

ヒカル「まさか、へちま……?」

イナリ「使っとらんのう」

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― 新着の感想 ―
お風呂回!好いぞ! 男勝りな娘のお肌とかを気にする女の子成分好き!
[良い点] ケモナー神もこれにはニッコリ
[一言] 天然自然のノーケアでプルプルもっちもち、そりゃ許せねえよなぁ同性としては
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