お狐様、埼玉第3ダンジョンに挑む3
改めて、イナリはこのダンジョン内を見回してみる。工場のような見た目と、生産されて流れていく謎の箱の群れ。どういうタイミングで流れるか分からない侵入者警報と、現れる玩具のような見た目のモンスターたち。そして広さでいえば……相当に広く、ベルトコンベアはそのあちこちに存在する。
さて、この状況を前提に注目すべきは何処なのか。箱? あの箱の中身にこのダンジョンクリアのヒントが隠されている可能性があるとすればどうだろうか?
(これだけの箱の中から攻略の鍵を探す? あまりにも理不尽で運の要素が強すぎる。余程の豪運でもなければ、永遠に攻略できんことになる)
勿論ステータスに「幸運」の項目がある以上、そういう可能性も捨てきれない。このダンジョンをクリアできた者とできなかった者の差がそこである可能性は捨てきれない。何しろ、イナリでさえ排除に多少苦労した「警備」に関しても現れたのは同じではなかった。そうすると、そこにも運の要素が絡んでいるとは考えられないだろうか?
「儂の『幸運』は……えふ、じゃったか。あまり良くはない」
そう考えるとこのダンジョンはイナリとは相性が悪いということになるが、だからといってすごすごと帰るというのもイナリの趣味ではない。ならばとるべき選択肢はそう多くはない。
『侵入者警報、侵入者警報。警備担当は配置についてください』
「ぬ、またか。さて、今度は何が出る……?」
そうして現れたのは……空を飛ぶ絵本の群れ。そう、通常サイズの空飛ぶ絵本の群れだ。
絵本の群れは回転しながらイナリに襲い掛かってきて、刀の一振りでアッサリと切り裂かれる。
他の絵本も同様、強度まで普通の本と同じなのか、拍子抜けするほどに弱い。そしてその場には魔石ではなく絵本がドサドサと落ちていく。先程の2度の戦いはなんだったのかというほどに弱くて簡単だ。
「う、ううむ……よもや運が全てという推測が真実というわけではなかろうの?」
言いながらもイナリは埼玉第3ダンジョンの秘密はそれではないかと確信し始めていた。何しろ、そう考えれば辻褄が全てあってしまうのだ。警報のタイミング、出てくるモンスター。そして此処の、無限のような箱の群れ。運が良ければ簡単にクリアして、運が悪ければ強大な「警備」に磨り潰される。此処は……埼玉第3ダンジョンは、そういう場所なのではないだろうか?
もし、そうだとすると。イナリは考えながらベルトコンベアに近づき、1つの箱を床へと降ろす。
バリバリと包装紙を破り蓋を開けると……中からはクマのぬいぐるみが1個出てくる。先程のぬいぐるみモンスターの縮小版といった風だが、これはただのぬいぐるみだ。
ひとまず神隠しの穴に放り込んで、次の箱を開ける。これは、握りこぶしほどのサイズの緑色の宝石……エメラルドだ。綺麗にカッティングされている。次の箱はゴムボールが1個。次の箱はお姫様の人形が1つ。次の箱は何かのヒーローのお面が1個。次の箱は……導火線に火のついた、爆弾?
「おおっと!」
即座にイナリが放り投げると、ズドンッと音を立てて爆弾が爆発する。なんとも油断できないが、次の箱は……なんと中から半透明なモンスター「ゴースト」が飛び出してくる。物理攻撃が通じず、魔法系ディーラーか特殊なアイテムを持つ者しかダメージを与えられない厄介なモンスターだ。
「なんじゃ物の怪か」
「ギャー!」
しかしイナリの狐火一発でジュッと消滅してしまう。まさに相手が悪かったとしか言いようがない。普通の覚醒者相手であれば意図せぬ強敵として存在感を示せただろうに、イナリ相手では一撃である。
ともかく次々に箱を開けていくが、よく分からない玩具やたまに宝石、ぬいぐるみ……そんなものを片っ端から神隠しの穴に放り込んでいきながら、次第にイナリは焦り始める。自分の推測は間違っているのではないか……そう思い始めたのだ。
(いくら儂の運が悪いとしても、こんなに何もないことがあるかの……? もしや儂の推測、間違っとる? これがただの時間の無駄で、その時間を探索に使っとれば攻略できたなんてことは……)
もしそうだとすると、なんとも無駄な時間を過ごしてしまったことになる。なんかピカピカ光る子供の玩具の剣を持ちながらイナリはそんなことを思う。別にそれでどうというわけではないが、そうであれば探索に戻れば問題ない。しかし怖いのはイナリの推測はあっていて、単純にイナリの運が悪いだけという場合だ。そうだとすると、このダンジョンはイナリにはクリアできないものということになってしまう。
「ううむ、何が正しいんじゃ……」
言いながらイナリが次の箱を開けると、その箱は……開かない。まるで接着でもされたかのように開かない箱の蓋がパカッと開き、そこから衝撃波のようなものが放たれイナリを吹き飛ばすが……同時に何かが転がり出てくる。
「むっ……! ん? んん? 賽子……?」
そう、箱の中から転がり出てきたのは2つのサイコロ。それはイナリの目の前で停止し……6の目が2つ出て止まる。
『6、6! 36! 36倍! 36倍!』
「さ、さんじゅうろくばい? 何がじゃ?」
箱の中から飛び出てきたのは無数の積み木。それらは組み上がって人型になると、イナリの目の前で急速に巨大化していく。
『36倍積み木ゴーレム、出撃完了。侵入者を排除します』
イナリ「またデカいのが出たのじゃ……!」





