最近のかわいいが分からんのじゃ
―それでは本日のトレンドのコーナー! 今日のトレンドは、実にフレッシュ!―
―フォックスフォンの隠し玉にしてイメージキャラ! 狐神イナリちゃんです!―
―あー、私も見ましたよ。凄い美少女ですよね、彼女。あれ加工無しってほんとですかね?―
―確かに彼女のような隠し玉を育てていたなら、今までイメージキャラを設定していなかったのも分かる話ですね―
朝のテレビをつけるなりやっていた番組を見ると、イナリはなんとも言えない顔でチャンネルを変更する。
―えー? イナリちゃんですか? 知ってます! ちょーかわいい!―
―このようにフォックスフォンの公式ページに突如現れた狐耳少女の魅力にやられてしまったという人が東京でも急増中で……―
「……うーむ。狙いは成功したと言うべきなんじゃろうがのう。自分の顔がてれびに出とるのはなんかこう、面映ゆいのう……」
そう、フォックスフォンの公式サイトの大刷新は結果から言うと大成功であった。
フォックスフォンの名に相応しく狐耳巫女な美少女の鮮烈デビューは即座に全国にあらゆる媒体を通して拡散し、新商品と共にぎこちなく微笑むイナリの姿があちこちに広告としても載ることで拡散の勢いはもはや止まるところを知らなかった。
となればフォックスフォンには当然様々な依頼が来るが、フォックスフォン側がかなり精査をしているようだ。特にライオン通信が絡んでいないかはよく確かめているそうだが……さておいて、最初の目標である「イナリのイメージを作る」というものは達成できたと言っていいだろう。
今後イナリが何をやっても背後にフォックスフォンがチラつけば、大体の人間は「話題作りの何かでありフォックスフォンが背後にいる」と自分の中で納得させてしまうだろう。
「うむうむ。良き方向に進んでおる。実に順調じゃ」
言いながらイナリが口に放り込むのは、オークから出た魔石だ。
どうやら魔石は大きさによって得られる魔力が異なるようだが、オークだとゴブリンやウルフと差はないようだ。
―魔力が上昇しました!―
「さて、と。すてえたすとやらはどの程度変わったかのう?」
レベルも上がり、ウルフやオークの魔石も取り込んだ。これでどう変わるかといったところだが……表示されたステータスにイナリは「ほう」と声をあげる。
名前:狐神イナリ
レベル:18
ジョブ:狐巫女
能力値:攻撃E 魔力A 物防F 魔防A 敏捷E 幸運F
スキル:狐月召喚、神通力Lv8、狐神流合気術、神隠し
「ふーむ……魔力は変わっとらんが、魔防が上がっとる。『限りなくえーに近いびー』というやつじゃった……ということかの」
魔力Aに関しては、これで上限ということではないのは分かっている。となると、Aの更に上に行くにはまだまだ足りない……といったところだろうか? 他の数値が変わっていないのも似たような理由だろう。しかし、成長はしている。レベルが上がる度に、僅かな変化が自分の中に起こっているのをイナリは感じていた。
「さて、となれば次のだんじょんを予約せねばならんが……この状況じゃと、あまり選べんのう?」
スライムや巨大ネズミの出てくる下水型、東京第5ダンジョン。
リザードマンの出てくる沼地型、東京第6ダンジョン。
アンデッドの出てくる地下監獄型、東京第7ダンジョン。
人気がないのはこの3つで、特に東京第5ダンジョンと東京第7ダンジョンが人気がない。
理由としてはなんか汚れるイメージがあるからだろう。沼地であるという理由だけの東京第6ダンジョンは、他の2つよりは人気があるようだ。
そして意外なのが東京第9ダンジョンの人気の高さだが、これはつまりドロップ品として出てくる虫関連のアイテムが高く売れるようなのだ。
「うーむ……第7に行ってみるかのう。悪霊の類を祓うのは専門であるとも言えるしのう……」
予約しようと考え覚醒フォンを操作していると、ちょうど電話が着信する……フォックスフォンの赤井からだ。
『おはようございます。今お時間よろしいですか?』
「うむ、おはよう。今朝は何用かの?」
『ひとまずですが、もっと『のじゃ』の活用により可愛らしさを際立たせていくのは如何でしょう?』
「切ってええかの?」
『いえ、では本題を。実は秋葉原に新しいダンジョンが現れました。恐らくは臨時ダンジョンだと思われますが……今回は当社で対処を請け負うことになりました」
なるほど、話が見えてきたとイナリは頷く。つまり、そのダンジョンの攻略をイナリに依頼したいという話なのだろう。イナリとしては断る理由は何1つとしてない。
「つまり、儂がそのだんじょんをどうにかすれば良いのじゃろ?」
『はい。狐神さんはソロが好みと伺っておりますので、此方からはアイテムなどの支援になります』
「うむ、よう分かった。ではすぐ向かうのじゃ」
『……』
「む? 何か気になることでもあるのかの?」
『やはり分かったのじゃ、のほうが可愛かったのではと思いまして』
「さよか。では現地での」
電話を切ると、イナリは小さく溜息をつく。
「最近の『可愛い』はよく分からんのじゃ……」
現代文化の中でもかなり闇の部分ゆえに、それをイナリが理解する日がくるかは……まあ、不明である。
イナリ「のじゃ、が可愛い……? 現代の文化はどうなっとるんじゃ……」





