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【2/15 書籍3巻発売予定】お狐様にお願い!~廃村に残ってた神様がファンタジー化した現代社会に放り込まれたら最強だった~  作者: 天野ハザマ
第一章

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一日の終わりなのじゃ

 その後、アホを職員が拘束して何処かに運んでいったが、その後どうなるのかはイナリは全く興味がなかったのだが。


「先程の暴漢ですが、改正覚醒者基本法に基づき処罰が行われます。安心してくださいね」


 帰りの車の中でそう言う安野にイナリは「はあ」と適当に頷く。


「まあ、どうでもいいんじゃが。それよりその基本法とかいうのは」

「改正、ですね。天下の悪法であった覚醒者基本法を『かつてこんなバカなことしたんですよ』という事実を忘れない為に最初に『改正』ってついたんですね」


 日本はかつて覚醒者を強力に法で縛った国であったが、それで滅びかけた後に「覚醒者規制」から「覚醒者優遇」に視点をおいた法律に……まあ、中身を総とっかえしたわけである。ちなみに似たような事例は様々な国で存在して、滅びなかった国は大体似たような感じになっている。


「あー……うむ」


 要はイナリの知っている日本とは全てが違う。まあ、そういうことなのだろうとイナリは再度認識する。その辺についてはひとまず置いといても問題は無さそうだ。大事なのは「覚醒者は優遇されている」という事実だ。


「今じゃ憧れの職業ナンバー1は『覚醒者』ですからね! 職業かって言われるとまた疑問はあるんですけど、それよりも……」

「うむうむ」


 適当に聞き流しながら、イナリは大事なところだけを頭に入れていく。

 つまるところ、覚醒者というだけでデカい面をする連中が結構いるので、覚醒者協会はそれをどうにか統率するための強い権限を持っている……ということらしい。


「強い覚醒者は、それだけで誰もが欲しがります。狐神さんにもこれから様々な誘惑が提示されるはずです」

「誘惑っつーと」

「お金ですとか、貴重なアーティファクトですとか、地位ですとか。あとはイケメンとか……」

「どれも興味ないのう」


 あえて言うならお金は現代社会を生きる上で必要だが、たくさんあったところで使い道に困るものでしかない。イナリの目的には、今のところお金というものはあまり重要度が高くないのだ。


「出来ればですけど、狐神さんには是非覚醒者協会日本本部に所属してほしいんですが」

「そういう話はいずれのう」

「いずれならしてくれるんですか!?」

「その手の言質を取ろうとする奴は儂、嫌いじゃのう……」

「うっ、申し訳ありません」


 言いながら安野は「ですが」と続けてくる。中々にメンタルが強い。


「さっきの暴漢も言ってましたけど、覚醒者組織には覚醒者協会だけではなく『クラン』も存在します。日本だと『富士』『天道』『ブレイカーズ』などの10大クランが有名ですけど、他にも大小様々なクランが毎日しのぎを削っているんです。覚醒者協会は公的組織なのであれですけども、今の世界は巨大クランが実質経済を握っているんです。彼等は狐神さんを放っておかないはずです」

「面倒じゃのう」


 ダンジョンを中心とした経済が成立している以上、覚醒者を多く抱える組織……つまりクランが大きな力を持つのは当然の流れであったのだろう。

 当然大きなクランはその力を手放したくないし、中小のクランはそれを覆すチャンスを狙っている。イナリのことが広まれば、熱烈な勧誘合戦になるのは必至であった。


(とはいえ……大きな力を持つ組織の後援を受けるのは悪いことばかりではないがの)


 生きる上で面倒な諸々を丸投げできるのであれば、イナリは今の世界の謎の究明に集中できるということではある。まあ、そんな美味い話があるはずもないが。やはり当面は1人でやっていったほうがいいだろう、とイナリは頷いて。


「……というわけで、狐神さんもスマホを持った方がいいと思うんですよ」

「む? すまん。聞いとらんかった」

「スマホです、スマホ」


 安野がスマホを取り出すのを見て、イナリは「あー」と頷く。


「うむ。電話にもかめらにもなる機械じゃったな」

「えーとまあ、その認識でいいです。持ちましょう、スマホ。便利ですから」

「うーむ……」

「スマホがあれば私のサポートも捗りますし!」

『念話じゃダメかのう?』

「えっ、何これ頭の中に直接声が!?」


 結局「なんかダメ」と言われたのでイナリは後日スマホを買いに行くことにしたのだが……やる気はあんまり、ない。さておいて家まで送ってもらうと、安野はイナリに頭を下げる。


「今日はありがとうございました。色々言いましたが、覚醒者協会に所属してほしいというのは本気です。是非ご検討ください」

「あまり期待はせんでほしいがのう」

「それでも構いません。では今後、何かありましたら私の番号までお気軽にどうぞ!」


 そう言って安野は車に乗って去っていくが……まあ、なんとも慌ただしい一日だったとイナリは思う。思うが……。


「色々収穫があったといえばあったのう」


 現代における覚醒者の、そして覚醒者協会の立ち位置。そうしたものは明確に見えてきた。

 クランだの協会だのに所属すれば、間違いなく権力争いに巻き込まれる。どうにもそういう雰囲気が見え隠れしていた。安野は語らなかったが、イナリが大手クランに所属するのを歓迎していないのは見え見えだったからだ。


「んー……いっそ自分でくらんとやらを作ってみるのもよいが……まあ、追々じゃの」


 テレビをつけてみると大手コンビニ「ブラザーマート」が有名らしい覚醒者とコラボした商品のCMを流していたが……まあ、イナリにとっては本当にどうでもよかったので記憶には一切残らなかったのだった。

イナリ「皆のアニキ、ぶらざあまーと……? 今の世はそういうのがウケとるのかのう……」

(大手コンビニチェーン:ブラザーマート。『アニキみたいな頼り甲斐』をキャッチコピーにしている)

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― 新着の感想 ―
ブラザーマート…自動ドアが開くと、マッチョな店員が所狭しと陳列されているイメージが。
「クラン」としての方針がイナリちゃんの目的と合致しないことには面倒事の方が多そうやなぁ
[一言] 討伐した際の魔石を一緒にいた協会の者が集めていたが、それはどうなったの?食べるんじゃなかったのかな。
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