エピローグー1 僕が死んだ後の子どもらの会話
エピローグになります。
主人公の子どもを中心とする身内視点の話です。
日本にいる幸恵や千恵子、総司らの下に、フランスにいる父の死の連絡が入ったのは、1976年の正月明け早々のことだった。
年末年始の慌ただしさが収まったばかりの父の死は、少なからず3人を驚かせたが。
取るものも取りあえずといった感じで、父の葬儀のために、フランスへと3人は行くことになった。
昔ならいざ知らず、この頃になれば、当然のようにジェット旅客機が、日本からフランスへと毎日、複数飛ぶようになっていたからだ。
だから、3人がフランスに赴いて、父の葬儀に参列するのに何の問題も無かった。
3人がフランスの空港に到着すると、アランが待っていた。
日本から来た兄姉を代表して、総司がアランと話をした。
「本当は、僕の妻の美子や、千恵子姉さんの夫の勇さんも来たい、と言ったのだけど、フランスまで行くのも大変だから、と3人だけで来た」
「そうですか、父も喜ぶと思います」
儀礼的と言えば、儀礼的だが、兄弟間の会話をして、4人で教会に向かい、そこに集っていたフランスにいる身内と合流して、父の葬儀は無事に執り行われた。
そして、葬儀後、改めて身内が集って懐旧談等をして、親交を深めることにしたのだが。
「日本にいた頃の父の話を教えてくれませんか」
フランスにいる身内を半ば代表して、ファネットが、幸恵、千恵子、総司に尋ねかけると。3人は改めて顔を見合わせ、30年以上前の昔を語り始めた。
「もうね。りつ母さんと切れて、忠子さんだけを大事にしていたのに、りつ母さんは父の愛人と見られていて、もう酷い誤解だったわ。しかも、りつ母さんは陰で喜んでいたわね」
「キク母さんも不倫疑惑がしょっちゅう巻き起こっていたわね」
「お陰で、忠子母さんはしょっちゅう苛立っていたっけ。単に僕達と逢って、養育費を払っていただけなのにね。愛人手当じゃないっての」
3人は苦笑いしながら、話した。
その言葉を聞いて、アランが苦笑いをして話を始めた。
「フランスに来てからも、似たような話を父は引き起こしましたよ。僕が第二次世界大戦終結後も、世界を転戦したでしょう。だから、両親に妻子を預けたのですが、今度は、父と妻のカテリーナが不倫している、と根も葉もない噂が流れて、困りました」
アランの言葉を聞き、夫に先立たれたショックから少し呆けていたジャンヌが、しゃんとして言った。
「あれには、カテリーナと一緒に困ったねえ。全く下手に否定すると、実は本当なんだ、という噂が逆に広まる有様だったから。よくもまあ、カテリーナが出て行かなかったものだよ」
「全く僕が実父同様に茶髪ですからね。そこに来て、祖父が黒髪、父のアランや母さんが金髪だから、仕方ない側面もありましたけどねえ」
ピエールが苦笑いして言葉を継ぐと、日本から来た3人も一緒になり、笑いの輪が広がった。
「それにしても、父は不真面目だったんですか。日本で3人もの女性と子どもを作って、母とも子どもを作ってることから考えると、不真面目としか」
ファネットが、心底、疑問を覚えたように言うと、ジャンヌとアラン、それに日本から来た3人は、あらためて首を傾げながら、真剣に悩んだような顔をしたが。
目が笑い転げている。
「うん。不真面目じゃないよ。生真面目に子どもを愛していて、子どもの母とは別れても、子どもには逢って、養育費も支払い続けた」
「結局、子どもや孫が第一、だったのでしょうね。だから、私とも一時は別れた。不真面目とは、とても言えないわね」
総司がいい、ジャンヌが口添えした。
その言葉に、幸恵、千恵子、アランも深く肯いた。
その場にいた全員が改めて思った。
これだけの身内がこの場に集ったのだ。
幸せな最期を父は迎えたと言えるだろう。
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