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第48話 僕のこの世界での人生の終わりを前にして

 ともかく、アランは1975年に退役を迎えた。

 細かいことを言えば、後2年以上は現役軍人を務められなくも無かったのだが。

 何しろ、アランは40歳を過ぎたばかりの1958年の時点で中将にまで出世していた出世頭だ。

 更に、フランス第三共和政を護った英雄とまで見る人が、フランス国内外にいては、アランは下手に閑職に就いてのんびりと、という訳にはいかない身と言える。

 そんなことをしては、一部の人が、それが英雄に対する処遇か、失礼だ、と叫び出すからだ。


 だから、華のある役職を転々とする羽目に、アランはなって。

 僕と同様に、軍務にだけ励んでいれば幸せ、というアランは対人折衝にも積極的に当たらざるを得ず、そして、戦場での経験も度重ねていたことから、心労を積むことになってしまい。

 それこそ妹にして、義理の娘となったファネットから、軍医として、完全な休養が必要と診断します、という診断書まで何度も受け取っては、暫く休養する羽目に、アランはなって。

 58歳にして、現役の陸軍大将を退き、退役することに、アランはなったのだ。


 そして、その頃には。

 気が付けば、僕の周囲の女性は、ジャンヌ以外は亡くなっていた。

 村山キクが亡くなり、篠田りつも亡くなり、そして、元妻の岸忠子も亡くなっていた。

 考えてみれば、皆、生きていれば80歳近くにはなっているのだ。

 僕に至っては、83歳だ。

 生きているジャンヌにしても、79歳になっている。

 だから、亡くなっていてもおかしくはないのだが。

 人生の寂寥というものを、僕はしみじみと感じざるを得なかった。


 そして、アランが退役する前、年老いてしまい、それなりに日常での介護が徐々に必要になりつつあったこともあり、僕が80歳になったのを機に、僕はジャンヌと共に老人ホームに入っていた。

 アランと再婚したカサンドラの間に産まれた双子の孫のシャルルとイレーヌ、この世界ではファネットがピエールとの間に産んだ孫のマリーとルイ、そして、曾孫になるサラの産んだアンリが、時たま訪ねてくるのが、僕達夫婦の最大の楽しみな一時になっていた。

 5人共に10代前半から半ばの頃で、将来に一番、希望をもって輝いている頃と言える。


 それにしても、5人と顔を合わせる度に、ジャンヌと目で会話してしまう。

 僕もアランも、えらく年の離れた兄弟を作っているものだ。

 アランとファネットの歳の差は20歳、アラナとシャルルらに至っては、23歳も差があるのだ。

 しかも異母兄弟とかならまだしも、同父母兄弟で間がいないのだから。

 ファネットに至っては、結果的に兄を、お義父さんと呼ぶようになり、しかも歳の差から言って、その方が周囲からも自然に見えてしまうのだ。


 そして、この世界のアラナだが。

 未だに戦闘機の操縦かんを、独身の身で握り続けている。

 伯母の千恵子の忠告を結果的に無視して、スペイン空軍に志願し、戦闘機パイロットになったこと。

 また、初恋の男性ピエールが、叔母のファネットと結婚して、失恋したこと。

(もっとも、ピエールとファネットがそれ以前から付き合っていた以上、実らぬ恋だったのだが)

 そういったこと等もあって、独身を貫いているのだが、人生は充実していると手紙を寄越している。


 僕は、あらためて想った。

 少なくとも、アルコール依存症からの早死にを、アラナに回避させることは出来たようだ。

 僕はやれる限りのことをやって、子どもや孫達を幸せな路を歩ませることができたのだろう。

 これで満足して逝ける。

 そういえば、この世界で満足して逝ったら、元の世界に還れないと、あの4人は言っていた。

 本当だろうか。

 でも、ジャンヌと寄り添い、孫や曾孫に囲まれて逝けるのなら、このまま逝っていい。

 これで事実上は完結します。

 この後、主人公が異世界から帰還できたのか、は読者の想像にお任せします。

 後、2話投稿しますが、この世界の主人公の遺族、家族視点の話になります。


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― 新着の感想 ―
[一言] こんなこと言っちゃあの4人に悪いですが。もう還らなくてもよくないですか?
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