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第46話 ファネットとアラナの歩む路

 そんな会話が姉妹間で有ったことを、直接は僕は知らずに終わった。

 だが、千恵子やファネットの言葉から、どんな会話が交わされたのか、何となく僕は察した。

 そして、千恵子の顔色から、僕は千恵子に休むことを勧めたが、千恵子は結果的には余り休まずに、日本に帰国して、医師として、戦闘神経症の診察に、治療方法の研究にと勤しむことになった。

 なお、日本に帰国する前、マドリードにいる姪のアラナの下へ、千恵子は立ち寄って話をした。


 そこで、千恵子は、姪のアラナに戦闘機パイロットになったら、そして、戦場で敵に対して攻撃を加えたら、もう温かい家庭を築くという幸せを望むのは諦めなさい、と伝えたらしい。

 それだけの覚悟がないと戦闘機パイロットになるのはダメ、と千恵子は伝えたとのことだ。

 実際、ソ連で戦場に赴いた女性の将兵の多くが、掌が血に塗れていることを理由に、独身を貫くことになり、また、周囲からの偏見の目も相まって、第二次世界大戦が終わって10年以上も経つのに、戦闘神経症に未だに苦しんでいる女性の将兵も多い。

 時が流れれば、そういった女性の将兵に対する周囲の目も変わり、温かい家庭を築く等の幸せを求めることもできるかもしれないけど、戦闘機パイロットにどうしてもなりたいのなら、そういった現実を知ったうえで、覚悟を持ったうえで目指しなさい。

 そう、軍医としての経験もあって、伯母として千恵子は、アラナに忠告したとのことだ。

 でも。


 やはり、というべきか、アラナは止まらなかった。

 空軍士官学校に進学し、スペイン空軍の士官に任官し、戦闘機の操縦資格をアラナは史実同様に取得していった。


 その一方で、ファネットは、千恵子との会話から軍医としての路を歩んだ。

 千恵子の言葉を胸に刻み、フランス軍の軍医にファネットは任官していった。


 そして、ピエールは、ある意味、自然とフランス陸軍士官への路を史実同様に歩んでいった。


 そういった異母姉や異父兄、叔母の姿を見た、アランとカテリーナの娘サラは、史実同様に海軍士官の路を徐々に選択していった。

 姉のアラナと同様に操縦士になりたい、と思いつつ、更に叔母のファネットのように人を救いたい、とも思った末、海軍の救難部隊に入りたい、とサラは考えるようになったのだ。


 そうした中、ピエールとファネットは幼馴染から相思相愛の男女へと愛を育んでいった。

 何も義理の叔母と甥で愛を育むこともないのに、と僕は内心では思ったが、だからと言って、二人の交際を拒む理由はない。

 僕は父として、義理の祖父として、二人の愛を温かく見守り続けた。


 更に歳月が流れ、1958年になった。

 この世界に来てから、歴史の流れの詳細が分からなくなっていた僕は実際に起きてから驚くことになったのだが。

 史実通り、アランはアルジェリア独立に伴うフランスのクーデター騒動鎮圧に尽力して成功し、フランス第三共和政を護り抜いた英雄と称えられることになったのだ。

 僕は、アランの父であることに誇りを覚えた。


 とはいえ、フランスの国内の混乱は、アルジェリア独立問題等を巡って続いていた。

(例えば、正式にアルジェリアが独立を果たすのは、1962年の話になった)

 また、第二次世界大戦後に設立されたNATOの一員として、主にアフリカ大陸の混乱をフランス軍は鎮める必要もあった。


 こうしたことから、ピエール、ファネットはフランス陸軍の一員として、西サハラに赴くことになり、また、アラナもスペイン空軍の一員として、西サハラに赴いた。

 これまで、手紙や写真のやり取りはあったが、この3人が直接に顔を合わせたのは、西サハラが初めてのことになった。

 そして、3人の間に悲劇が、にはならなかった。

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