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第39話 忠子が離婚を決断しました。

 そんな余り表立って言えない事態の末に、「饗宴」の経営をカサンドラは売却することになった。

 そして、カサンドラはアラナと連れ立って、過去を隠すために、ひっそりとマドリードへと転居し、グランデス将軍らが捜してくれた政府関係の事務職員に転職した。


 なお、カサンドラが「饗宴」経営の際に培っていた人脈は、売却代金の中に入っていたらしく、そっくりそのままユニオン・コルスに譲渡された(らしい)。

 他にも色々と表立って言えない事態が起きた(らしい)が、ジャンヌとカサンドラの2人しか、僕の知人の中では知らない話として処理されてしまった。

 と、こんな感じで(らしい)という話になったのは。


「自分の立場を分かっている。貴方は日本海兵隊の提督という身なのよ。貴方は本当に知らなかった、と絶対に言えるようにしておかないと、後々、ユニオン・コルスに付け込まれかねないの。レイモン・コティは仁義を弁えた人物だけど、その周囲までは分からないのだから」

 とジャンヌに、僕は諭され、僕ももっともな話だ、と納得せざるを得なかったからだ。

 だが、この一件は思わぬ余波を引き起こした。


 1944年の春を迎え、いよいよ日本への帰国か、フランスに残るか、の最終決断を僕がすべき時が迫り、アラナが見つかって、フランスに残ろう、と思っていた僕に。

「タダコ、リコンケツダン。フランスニノコレ」

 という電文が、先に日本に帰国していた千恵子から届いたのだ。

 僕は呆然とした。

 あれだけ、離婚を拒絶していた妻の忠子が離婚したいとは、どういう心境の変化だ。


 実は千恵子は、1943年の初秋に第二次世界大戦が終結して早々、夫の勇との間に子どもを作り、身籠ってしまっていた。

 更に本来は予備役の軍医士官という事情も、千恵子にはある。

 そうしたことから、復員船のシャルンホルスト号への乗船を千恵子は認められ、1944年1月に夫より先に帰国していたのだ。


 そして、千恵子は、土方伯爵家を始めとする周囲に働きかけた。

 父である僕を岸家から絶縁すべきだ、自分達に大迷惑が掛かりかねない。

 何故か、どうやらユニオン・コルスとバレンシアの「饗宴」は繋がっている可能性があるからだ。

 更に言えば、「饗宴」には僕の孫、アランの子のアラナがいるようだ。

 千恵子の言葉に、土方伯爵家等は慌てふためいた。

 フランスの犯罪組織、ユニオン・コルスと自分達に繋がりが出来ては大醜聞だ。

 さて、千恵子が何故にそれを察したのかだが。


 千恵子は、ドイツ軍の慰安所問題に関与する内に、元慰安婦達が故郷に帰れず、密出国を図ろうとするのに心を傷めて、それに関する調査を行っていた。

 そうした中で、ユニオン・コルスがこうした密出国に関与しているという情報、更に「饗宴」が、そういった元慰安婦を娼婦として購入しているという情報を、千恵子は把握していた次第だった。

 そうしたところに、僕が初孫のアラナの行方を捜して「饗宴」にいるのでは、と考え、調査に赴こうとしているという情報が、千恵子に届いたのだ。


 千恵子は、この情報を活用することにした。

 千恵子にしてみれば、僕と忠子は離婚すべきだった、そして、忠子が離婚したい、といえば、全てが丸く収まる事態が起きる。

 そのために、千恵子は忠子が離婚に応じるように、周囲の説得に掛かった次第だった。

 更に幸恵や美子らも、千恵子に協力した。


 このために、

「お義母さん、お義父さんと離婚して、岸家を守らないといけないわ」

「でも」

「犯罪組織と関係を持って、岸家を潰すつもり」

 美子が忠子を直接に説得した末、忠子は僕との離婚を決断することになった。


 僕にしてみれば、渡りに船の話だったが。

 子どもを巻き込んだのに僕の心は痛んだ。

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