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第38話 レイモン・コティとジャンヌが密談しました。

 カサンドラが、レイモン・コティと連絡を付け、更に折り返しの連絡が来るまでに、僕とジャンヌとカサンドラは、あらためて「饗宴」の処理について、話を詰めた。

 実際、ジャンヌが睨んだ通りで、「饗宴」の娼婦の何人かは、ユニオン・コルスが、ポーランド等の外国から密入国させた女性で、下手に帰国させる訳にも行かない女性達だった。


「色々と訳ありなんです。ドイツ軍の慰安所にいたとか、ドイツ軍将校の愛人だったとか。故郷に戻ると偏見の目に晒されるどころか、迫害されかねない。それで、ユニオン・コルスが彼女達の足元を見て、スペインまで連れて来て、気の毒に思って雇って(以下、略)」

 カサンドラはクドクドと僕達に言い訳をしたが、どちらにしても「饗宴」が、ユニオン・コルスの資金源の一つに結果的になっていたのは間違いない。


 これは、下手に「饗宴」の処理は出来ない。

 ユニオン・コルスの了解を得た上で処理をしないと、カサンドラが地中海に沈められることになる。

 僕とジャンヌは溜息を吐いて、「饗宴」の処理に頭を痛めることになった。


 そして、数日が経って、レイモン・コティから、マルセイユのサキュバス、ジャンヌの首実検を兼ねて、直接に逢って話をしよう、という連絡が、カサンドラを介して、僕達の下に来た。

 僕はジャンヌと同行するつもりだったが、ジャンヌが止めた。

「貴方は、ここに止まって。私だけで行かせて」

「しかし」

「その方が、後々、安全よ」

 僕とジャンヌはやり取りをした。


 ジャンヌの推測では、既にこの宿はユニオン・コルスの看視下にある、とのことだった。

 更に僕の身元も相手に把握されている。

「貴方が会っては、後々、トラブルの下よ。私だけで行くわ。それに女一人で来たのを、いきなり殺したりしては、ユニオン・コルスの組織内で、レイモン・コティは悪評が立ってしまうわ」

 そう、ジャンヌに諄々と説明されては、僕は宿に止まらざるを得なかった。


 数時間後、ジャンヌは、レイモン・コティに会って、無事に帰ってきて、開口一番に言った。

「話はついたわ。「饗宴」はユニオン・コルスが買い取って、ダミーを建てて直営するって」

「そうか」

 僕はホッとしたが、心の一部が痛んだ。

 結果的に犯罪組織が稼ぐのに、僕らは加担することになる。


 その点、ジャンヌの方が割り切っていて、僕を慰めた。

「孫の身代金と思いましょう。もっとも、向こうが払ってくれた身代金だけど」

「そうだな」

 孫のアラナの今後のためだ。

 犯罪者に屈したのは、そのためだ。

 自己欺瞞もいいところだが、そう考えて割り切るしかない。


 もっとも、ジャンヌの方が強かだった、と後で僕は思い知らされた。

 後で、カサンドラが教えてくれたのだが。

「饗宴」をカサンドラが買い取った際の倍以上の高値で、ユニオン・コルスは買い取ってくれたらしい。

 初めての女の頼みを聞いておくれ、それに命の恩人の頼みでもあるだろう、とジャンヌはレイモン・コティを説得して、「饗宴」をユニオン・コルスに高値で買収させてしまったとか。


 レイモン・コティ曰く、

「カサンドラの経営している「饗宴」自体が、黒字経営の優良娼館だし、うちの組織の斡旋する外国人の娼婦を何人も高値で買ってくれたのもあるけどな。最初の女を泣かせては、コルシカの男が廃るよ」

 と笑った後、カサンドラに金を出してくれたそうである。


 やれやれ、これではジャンヌに足を向けて寝られないどころではない。

 どうみても、カサンドラとアラナを救い出したのは、ジャンヌである。

 それにしても、女の裏の顔は見るものではない。

 単なる街娼と思っていたが、ジャンヌにこんなコネがあるとは。

 僕は、ジャンヌをあらためて別の目で見るようになった。

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