第36話 アラナが見つかりました。
とはいえ、アランはソ連からスペインを経由して祖国に帰国して、早々にインドシナ派遣の内示を受けている身だった。
本国が戦乱で疲弊しきっているのを見た仏領インドシナでは、仏本国からの独立の声が高まり、過激派が武装蜂起する事態が起きていたのだ。
そんな武器がどこから、と僕が思ったら、第二次世界大戦に中国内戦、そういった際に独ソ等から供給された武器が流れ流れて、仏領インドシナまで提供されていた次第だった。
(勿論、武器の密造等も現地では行われる事態になっていた)
だから、アラナを捜しにスペインに赴く等、アランにとっては論外の話と言わざるを得ず、僕がスペインに赴いて捜すしかなかった。
とはいえ、実はある程度、フランスで僕が時間を潰すしかなかったのも事実だった。
だからこそ、その合間にアラナを捜し、運試しをしよう、とまで僕は考えたのだ。
何故かというと。
この世界で第二次世界大戦が終結したのは、1943年の初秋だったが。
何しろソ連の奥地にまで進撃を果たしたのだ。
日本軍の将兵が、祖国に帰国するのは必然的に大騒動になった。
それに欧州だけから、日本軍の将兵が帰還する訳ではない。
シベリアや中国奥地から帰還する日本軍の将兵も多かった。
(というか、そちらの方が多数を占めた)
そして、第一次世界大戦の例に従って下士官兵から優先的に帰還し、将官は殿を務めることになった。
そのため、少将にまで昇進していた僕が欧州を出立するのは、1944年の春になってしまった。
つまり、半年以上も欧州に僕は留まることになる。
流石に旧ソ連内の占領地の治安維持任務は、新しく独立したロシア共和国が編成する治安維持部隊に任せること等になり、占領地に何時までも止まるのも大変だから、ということで、南仏の駐屯地に移動したうえで、日本軍の将兵は順次、日本に出立することになったのだが。
こうしたことから、僕はアラナを捜す余裕があった、という次第だった。
そして、どうやってアラナを捜したかというと。
「何だか、新婚旅行に来たみたいですねえ」
「はは、新婚旅行には、お互いに年を取り過ぎた気がするがな」
「確かにお互いに40歳を過ぎましたからね」
そんな会話を、ジャンヌと交わしつつ、僕はバレンシアに赴く羽目になった。
僕は前世知識と、現実から考えた末、アラナを見つけるには、バレンシアの現地調査が必要だと考えざるを得なかった。
前世知識からすれば、カサンドラの下、「饗宴」でアラナが成長している筈だが、史実通りにカサンドラが「饗宴」を経営しているとは限らない。
そして、アランを介して、グランデス将軍等の青軍団関係者に依頼し、バレンシアの状況を探ってもらったが、確かにカサンドラが「饗宴」を経営している、という確証は得られなかったのだ。
そして、娼館である「饗宴」を探る以上、元街娼であるジャンヌと協力して当たる方が効率的だった。
僕が「饗宴」の法人登記を見る以上、カサンドラ・ハポンという女性が、「饗宴」の経営者なのは間違いなかったが、それがアランが関係を持ったカサンドラと同一人物か、までは確認しようがない。
しかし、ジャンヌと組んで探った結果。
「やはり娼婦からこの娼館を乗っ取ったようですね。更に子どももいます」
「となると、やはり」
「ええ、間違いないでしょうね」
僕はジャンヌと会話し、カサンドラと直に逢うことにした。
カサンドラは最初は警戒していたが、直接会って話し合う内に、徐々に僕らに胸襟を開いてくれた。
アラナの今後のことを考え、「饗宴」を処分して、いわゆる正業に就くことを、僕らの言葉から、最後にはカサンドラは承諾してくれた。
僕はほっとしたが、まだ安心はできなかった。
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