第35話 初孫のアラナの誕生を確認することにしました。
日本に帰国して、予備役に編入され、それなりのところに天下り等するという路が、僕にとって全く絶無な訳ではない。
それこそ、第二次世界大戦の惨禍は世界中に爪痕を残しており、また、それによって世界経済は大きな痛手を受けてはいたが、裏返せば復興需要が世界中に溢れているということでもあった。
そうしたことから、腐肉をあさるハイエナやハゲタカのように、相対的に戦災が軽かった日米の民間企業は、欧州を始めとする復興需要を担うことで、更に儲けようとしており、僕のような、ある意味、軍人バカにまで、予備役に編入されたなら、わが社の社外取締役に就任して、アドバイス等をしてほしい、という声が複数のそれなりの大企業から掛かっていた。
だから、日本に帰国して、予備役に編入されても、僕は悠々と金銭的には暮らせたが。
子ども達の声を聴くと、日本に帰国するのが、あらためて億劫になったのも事実だった。
また、忠子と同居して生活するのは辛いなあ、という想いがこみ上げるのだ。
第二次世界大戦で欧州の戦野を駆け巡り、3年以上にわたって忠子と別居生活を送ったことは、僕にそんな想いをさせていた。
そうした中、僕は一つの運試しを試みる気になった。
それは、初孫のアラナの誕生を確認して、連絡が着けば、僕はフランスに残る、ということだった。
僕が転生してきて、それぞれの子孫の流れを教えられたが、そうした中で強く印象に残っているのが、アランの長女アラナだった。
(僕の戦死した)本来の世界では、アラナは長じてスペイン空軍の戦闘爆撃機パイロットになり、西サハラ共和国の内戦を鎮めるために派遣され、そこで、アランの養子のピエールと出逢い、結婚する。
そこまでは良かったのだが、戦場経験によるPTSDをアラナは発症し、アルコール依存症になり、肝硬変になって、若死にしてしまったのだ。
もし、アラナの運命を変えられるのなら、何とか変えてやりたい。
僕は、そう考えて、アラナを探し出せるか、試みることにした。
だが、難問があった。
どうやって、そのことを周囲に説明し、協力を求めるか、ということだった。
まさか、自分には未来(?)の記憶が、という訳には行かない。
それに、肝心のアランがカテリーナと幸せな家庭を築いているのだ。
アラナが見つかることは、アランの家庭を壊すことになりかねない。
それこそ、自分がやらかしたのと似たような事態なのだ。
僕は散々に悩んだ末、アランとジャンヌに相談した。
「カサンドラの子ですか。彼女は自分で育てる、と言って別れたのですから、捜さなくとも」
僕の相談に、最初はアランは消極的だった。
実際、僕がアランの立場でも同じことを言うだろうから、アランを責めることはできない。
とはいえ、実父が捜したくない、というのを僕が捜すのも、と僕は二の足を踏むことになった。
だが、ジャンヌが介入した。
「それはそれ、これはこれの話でしょう。それに、カテリーナは貴方の裏切りを知っているわ」
「えっ」
ジャンヌの爆弾発言に、僕とアランは硬直する羽目になった。
「全く浮気をするなら、きちんとしなさい。父子揃って、不器用なのだから」
ジャンヌは、そう言って、事情を明かした。
カテリーナから夫が浮気していたことがあるのでは、と相談を受け、問い詰められた末に、結局、自分がカサンドラのことを明かしたこと。
だから、カテリーナは、カサンドラとその子のことを知っていること。
僕とアランは顔を見合わせ、女の勘の怖さをお互いにしみじみと痛感し合った。
「カサンドラの子を捜すだけなら、カテリーナは納得するわ。却って、黙っていると、隠し事で夫婦仲に隙間風が吹くわよ」
ジャンヌの言葉に僕らは肯かされた。
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