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第38話お出掛け ショッピングモール編

 プールから出た俺達は他の予定なんて決めていなかった。

 こうなるなら、プール以外で楽しめる場所を下調べしておけば良かったのにと今更になって後悔の中、山野さんが提案を投げかけてくれる。


「近くに大きなショッピングモールがあった気がするけど、どうする?」


「ショッピングモールに行きましょうか……」

 調べていく内に時間だけが過ぎて行くのは避けたい。

 仕方がなしに大きなショッピングモールに行き、そこら辺をぶらぶらとすることにした。


 ショッピングモールがある駅に辿り着き、ショッピングモールまでの道を歩いている中、二人でどこを見ようかと話し合う。


「山野さんはどこか見たいお店はありますか?」


「んー、服屋さんかな。ほら、色々とお店が入ってるショッピングモールに来たなら服屋さんは絶対に見ないと」

 

「じゃあ、服から見ましょうか」


「お財布が寂しくなっちゃうから今日は買わないけどね」

 残念そうにはにかむ山野さん。

 出来れば服をプレゼントしてあげたいが、俺もそこまで懐が暖かいわけでは無いし、気を使わせてしまうので無しだ。


「秋物の服は季節感の柄とちょっと冷え込み始めるのを無視すれば春物で代用できますけど、冬物は出来ない。あんまり、服を実家から持ってきてないので冬物を買うときが本当にお財布が……」

 話している最中に冬物の服がほとんど実家から持ってきていない事を思い出し、ちょっとお財布の中身が寂しくなりそうなことに気が付いた。


「うーん。結構、ファッションを気にするとお金が掛かるんだよね。ほんと、高校の制服がなかったら大打撃だよ。あと、私も実家に冬物の服を置きっぱなしだったせいで、大分お財布が抉られた」


「まだ何とかなっているけど、やっぱり切り詰めておけるとこは切り詰めて置かないと本当に不味そうです」

 一応、少しばかりの貯金は出来ている現在。

 多分だが、冬物の服を買い揃える際には切り崩す事になるのを覚悟しておかないといけないはずだ。


「冬物の服に掛かるお金をどうにか抑えられないのかな?」

 幾ら去年に着た服があると言えど、山野さんも冬服を多少は買い足さなければいけないはずだ。

 そのため悩ましそうにしている。


「服じゃないですけど、防寒具のマフラーを編むとかどうですか?」

 冬。

 服もそうだが、厳しい寒さを乗り越えるためには我慢すれば良い話だが、それで風邪を引くのは御免だ。

 服とは別に防寒具も必要に決まっている。

 ネックウォーマーやマフラー、そう言ったものであり、マフラーなら編むことができるはずだ。


「それもありかもね」


「ま、もう少し先の話ですけど」

 こんな感じで話をしているうちにショッピングモールに辿り着いた。

 女性もので有名店が数多く出店しているショッピングモール。手始めに山野さんが良く行くお店へと足を運ぶ。


「どう似合う?」

 山野さんは白と黒のボーダー柄なニットセーターをあてがって見せてきた。

 冬物ではないので生地は薄めでシルエットが目立つようなデザインだ。

 すっきりとしていて、かつ冷え込み始める秋にはうってつけな分厚さ。


「似合ってますよ。個人的にはボーダーよりも、単色の方が好きですけどね」

 そう、ボーダー柄と言うのは意外と好みが別れる。

 ありふれている柄ではあるが、意外と無難とは言い難いのだ。


「単色かあ……。ほら、私って結構単色が好きでしょ? だから、こういう風なボーダー柄も着てみようかな~って思ってたんだけど、間宮君が単色が良いのならそっちにしとこ」


「俺の意見を無理に取り入れなくても……」


「無理に取り入れてなんて無いからね。だって、私服を今、一番見せてるのは間宮君だからだし」

 一瞬にして、どきりとした。

 だって、私服を一番見せている相手は俺であり、俺の事を意識して服を選んでいるのが特別感を抱かれているような気がしてしまうのだ。


「そ、そうですね。なんだかんだで、私服姿を一番間近で見ているのは俺かも知れません」


「という訳で、間宮君の好みに合わせた服装の方が良いでしょ? だって、同じ部屋に好みじゃない服装をした人が居るのって居心地が悪いかもだしさ。って、すでに間宮君好みじゃない服装でお邪魔しちゃってるかもだけど。あ、単色だとこっちが良いかも」

 手に取ったのは同じくニットセーターだが明るめの灰色だ。

 単色でシンプルなデザイン。

 正直に言うとボーダー柄よりも山野さんが今、手にしている方が断然好みである。


「個人的にはそっちの方が良いですね」


「やっぱり? 正直に言うと、間宮君の反応で何となく好みが分かる様になってきたんだよね」


「……ま、だいぶ長い時間を一緒に過ごしてますしね」

 反応で好みかどうか分かってしまう。

 それは紛れもなく仲が良い証拠で、距離が近い証拠。

 しかし、そこまで言っても友達止まりだと言うのがグサグサと胸を抉って来る。


「そう言う間宮君は私の反応で何か分かっちゃう?」

 

「何も分かりませんね」

 俺の好みかどうかが反応で何となく察せる様になってきた山野さんに対し、俺はと言うと山野さんの反応から何かを読み取るなど芸当は出来ない。

 

「そっか。それは残念。ま、そのうち分かる様になってくれればいいや。んー、意外とこのセーターが可愛いから買いたくなってきたかも……。でも、今月は文化祭の打ち上げで飲み食いする。ちょっと高めな気もするし、買うのはやめとこっと」

 手に取っていた明るい灰色のセーターを棚に戻してお店を後にして適当に練り歩く。

 歩いている際に、さっきの見ていたニットセーターは買えなくもない値段。せっかくのお出掛け、気を使わせるのを承知でプレゼントしたいと考えていたら


「その顔はあれでしょ、プレゼントをしたいって顔だよ?」


「なんで分かったんですか?」


「好みかどうかの反応も然り、ある程度の思考も何となく分かる様になっちゃったからね。どうみても、今の感じは私にプレゼントをしたいって顔してた。大丈夫だよ。お互いに一人暮らし、あんまりお金を使ってのプレゼントは無しで」


「分かりました。お金をあんまり使わないプレゼントにします。例えば……」

 兼ねてからずっとプレゼントをどうしても渡したい日がある。

 プレゼントをどうしても渡したいその日は一緒に過ごしたいので、ずるい発言をしてみた。


「美味しい料理を振る舞います。例えば、誕生日とか」


「じゃ、期待しとく。ちなみに私の誕生日は12月3日だよ」

 

「え、いや、その……」

 山野さんの誕生日を一緒に祝うことがあっさりと決まってしまい驚きを隠せない。


「ん? 美味しい料理を振る舞ってくれるんでしょ?」


「あ、はい」


「じゃあ、間宮君が私の誕生日に美味しい料理を振る舞ってくれるのなら、私もしないとね。誕生日はいつだっけ?」


「5月4日です」


「おっけー。覚えとく」

 話しながらだらだらと歩いていたら、飲食店が並ぶエリアについていた。

 プールで動いたということもあり、小腹が空いている。


「そう言えば、服を色々と借りたお礼に何かを奢るね」

 そう、何だかんだで山野さんに服を良く貸す機会が多い。

 メイド服が破れた時に貸したパーカーであったり、動きやすい服が無かった時に貸したジャージであったりだ。

 そのお礼としてどうやら何かを奢ってくれるらしい。


「良いんですか?」


「うん、良いよ。ほら、プールでの件もあるしさ。ここは私に奢らせてって」

 奢られなければ煩そうなので素直に奢られるか……。

 とはいえ、あんまり高いものは頼めない。なんだかんだで、山野さんのお財布事情についてかなり詳しいからな。

 ちょうど目に入った手頃なアイスのお店で奢って貰うことになり、アイスのお店の前にあるベンチに腰かけて場所を確保しておく。

 場所取りをして待つこと数分、山野さんが手にアイスを持って戻ってきた。


「お待たせ」


「あ、どうも」

 オーソドックスでコーンの上にアイスが乗っているタイプを受け取ると、山野さんも俺の横へと腰掛ける。


「もうそろそろアイスの季節も終わりだよね」


「確かにまだ暑い日もありますけど、だいぶ落ち着いてきました」


「そう言えばさ、もう一度謝らせて欲しいかなって」


「何をですか?」


「プールの事だよ。せっかく、間宮君が誘ってくれたのに途中で切り上げちゃって本当にごめんなさい」

 申し訳なさそうに言う姿。

 決して、山野さんが悪いという訳では無いのにな。


「気にしないでください。こう言うこともありますって。それに、山野さんが変な噂を立てるような奴が居るって気づいてくれなければ、山野さんどころか俺だって変な噂で酷い目にあったかもしれません。むしろ、お礼を言いたいくらいです」


「でもさあ……。なんだかんだで、遊びに行くのもお金が掛かるんだよ? だって、今回のお出掛けだって交通費がそれなりに掛かっちゃってるじゃん」


「その分をこれから楽しみましょう」 

 だらだらと話していたのが悲劇を生んだ。

 アイスを口に運ぼうとした時、溶けてしまったのだろうコーンから滑り落ちた。

 俺のではない、山野さんのが。


「こ、これはどうすれば……」

 声を震わせ起きた悲劇に狼狽える。綺麗にお胸の上に収まっており、動けば落ちてしまいそうなこともあり山野さんは大人しく動かない。

 ……着ているのは白のブラウス。

 アイスの色はチョコレート味なので茶色であり、あっという間に白を茶色に染め上げて行く。

 

「取り敢えず、タオルで拭きましょう」

 カバンから大きなタオルを取り出す。

 何せ今日はプールに行ったのだ。大きなタオルの一枚くらいあって当然だ。


「うん、私はアイスが落ちちゃいそうだから代わりに拭いてくれる?」

 取り出したタオル。

 それを使って山野さんの胸元にこんもりと乗っているチョコレート味のアイスを取り除いた。

 白のブラウスが茶色に染まりつつあるので、こんもりと乗っていたアイスを取り除いた後にしみが残らないよう拭く。


「だいぶ、シミが残っちゃいましたね」

 ゴシゴシと拭いていると、山野さんは言った。


「間宮君が親切なのは分かるけどさあ……。その、ね?」


「?」

 一瞬、何のことだか分らなかったが、ふと我に戻った。

 そう、俺は拭くために山野さんの胸元を触りまくっているのだ。


「別にやましい気持ちがあってやってないのは分かるんだよ。でもね、さすがにちょっと恥ずかしいかな~って」


「すみませんでした。つい、シミが気になって……。わざとじゃないんですよ?」


「そこは疑ってないよ。それにしてもシミが残っちゃうかも。取り敢えず、トイレでもうちょっとだけ綺麗にして来るね」

 そう言って、山野さんはちょうど近くにあったトイレに駆け込んでいく。

 大丈夫だろうか? と思いながら待つこと数分。

 ちょっと、恥ずかしそうな顔つきで戻ってきた。


「周りから凄く見られてる気がする……」

 確かに白いブラウスの胸元に大きな茶色のシミだ。

 気になってしまうのは当然と言えよう。

 ……待て、これはチャンスなのではないだろうか? さっき、山野さんが手にしていたニットセーターをプレゼントするうってつけな機会なんじゃないか?


「山野さん。ちょっとだけ、待ってて貰えますか?」


「ストップ。だめだよ、間宮君。さっきの見ていたニットセーターを買いに行こうとしてるでしょ?」


「い、いや、そんなことは」


「はあ……。あれ結構なお値段してるんだし、気が引けるから絶対にダメだから」

 強く引き留められた。

 漢気を見せようとしたのだが、変に漢気を見せたとして良く思って貰えなければ本末転倒だ。ここは大人しくして置こう。

 だが、さすがに山野さんの白のブラウスに出来た大きなシミは周りから注目されてしまう。そこで、俺は着ていたパーカーを脱いで渡した。


「チャックを上まで締めれば見えなくなると思います」


「なんだろう。服を借りたお礼をしたのに、また服を借りて複雑な気分だよ。でも、正直に言うと結構見られるのが恥ずかしいから借りちゃうね。それと、ニットセーターをプレゼントしようとしてくれてありがとね」


「いえいえ」


「あー、でもこのまま着たら間宮君のパーカーにシミが移っちゃうかも……」

 

「気にしませんよ?」


「ううん。さすがに冬服が~服を揃えるのが大変だ~とか話したのに、シミを作るなんてもっての他。チャックを閉めれば見えないだろうし、このブラウスは脱いでから着る」

 俺の返事を聞く前に再びトイレに行ってしまう。

 そして、すぐに戻って来る。

 パーカーのチャックを上まで締めた装いで。


「間宮君のパーカーのおかげで白のブラウスを脱いで洗面台でじゃぶじゃぶと洗えたおかげでだいぶ染みが消えた。ま、多分残るだろうけどね。はあ……」

 大きなため息。

 金銭的にあまり余裕がないのだ。着ている服が台無しになれば俺だって大きなため息を吐きたくもなる。


「一波乱ありましたけど、この後はどうしますか?」


「ぶらぶらとしよ。時間はまだまだあるんだし」

 

「はい。そうですね」

 それから俺と山野さんはぶらぶらとショッピングモールを歩き回った。

 日も暮れて、帰宅ラッシュに差し掛かる前。


「どうします? 今なら、帰宅ラッシュを避けて帰れますけど」


「そうだね。そろそろ帰ろっか。って言いたいんだけど、せっかく間宮君と遊びに来たんだし何か欲しくてさ」


「確かにそうですよね」

 2人してうろちょろと何か良いものは無いかとお店を見る。

 そんな中、ちょうど目に入った雑貨屋。

 お手ごろな値段なマグカップが目に入った。これからの季節、ドンドン寒くなるし、暖かい飲み物を注げるマグカップは重宝することに違いない。


「これはどうですか?」


「マグカップは良いかもね。これからの季節に大助かりだよ。それにお値段も普通に安いし高いものじゃない。という訳で、パーカーのお礼として私からのプレゼントで」


「じゃあ、俺は常日頃からお世話になっているので山野さんにプレゼントにしますね」

 あまり高いものはプレゼントしないことにしているが、高くなければ話は別だ。

 山野さんにマグカップをプレゼントすることにした。


「うん。じゃあ、有難く貰っちゃおうかな」


「意外です。てっきり断られるかと思ってたんですけど……」


「だって、間宮君がここは譲れないって顔をしてたからね。言ったじゃん。反応でどんなことを考えてるか分かるって。だから、ここは受け取っておく。じゃ、買っちゃおっか」

 こうしてマグカップを購入して俺と山野さんはショッピングモールを後にした。



 帰宅ラッシュ前の電車。

 ラッシュ前だが、そこそこ窮屈ではある車内では大人しく過ごした。

 そのせいか、気が付けばアパートの最寄り駅。

 そして、最寄り駅から帰り道を歩きながなら話す。

 

「今日は楽しかったよ。ありがとね、間宮君」


「こちらこそ楽しかったです。それにしても、夜になるとやっぱり冷えてきますね」

 夏も終わったせいか、日が暮れれば気温が下がる。

 パーカーを山野さんに貸していることもあり、ちょっと震えてしまう。


「あ、ごめんね。私がパーカーを借りちゃってるから。さすがに風邪を引かせるわけにも行かないし返すね」

 そんな震えた俺を見て申し訳なく思った山野さんはパーカーを脱いで俺に渡そうとチャックを下ろす。

 相変わらずのおっちょこちょいだ。

 そう、白のブラウスは脱いでいるのでパーカーの下は下着だけで思いっきり下着姿を晒してしまう。

 ちょうど目に入った下着姿。

 それは何と言うか、凄いとしか言いようがない。

 色はピンク。凝ったレース素材で出来ており、誰がどう見ても気合が入っている。

 それすなわち……今日は気合が入っていたということだ。要するに……


「きょ、今日は不特定多数の人の前で下着を晒すことを想定し誰に見られても恥ずかしくない下着だから」


「ま、まあ、そうですよね」

 ちょっとした期待を抱くも砕かれた。

 プールに行ったのだ。不特定多数の前で下着姿になるわけで気合を入れるに決まっている。俺だって、ちょっと新しめな下着を着こんで行ったし。

 てっきり、俺とのお出かけで気合を入れていたと勘違いしそうになった数秒前の俺を殴ってやりたい。

 

「……私ばっかりずるいと思う。という訳で、間宮君も見せるべきじゃない?」

 恥ずかしさが込み上げて来ているのだろう。

 顔を真っ赤にしながら近づいて来た。


「山野さん?」

 山野さんの手がひょいとズボンに伸びてきたので避ける。


「なんで避けるのかな?」


「いや、その普通に」


「私ばっかり見られて不公平でしょ? という訳で、間宮君のも……」

 迫りくる山野さん。

 普通に本気で脱がすつもりは無いだろう。


「見られるわけには行きませんって。俺だって恥ずかしいし」


「私もだよ。私ばっかり見られてるんだしさ~。って、なんで逃げるの?」

 脱がされることは無いと分かっていても、ここはノリで逃げるのが正解だ。

 そう思ってアパートまで駆けだすと、もちろん追ってくる山野さん。


 最後の最後に、年甲斐もなく鬼ごっこを繰り広げてお出掛けは幕を下ろすのだ。





 

 


 



 




 

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