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玉葱とクラリオン  作者: 水月一人
グレートジャーニー(玉葱とクラリオン after story)
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NY探訪編⑳

 数日後。グリーンランド基地へ帰還するためにグライダーのテスト飛行をしていたら、水平線の向こう側から船影が近づいてきた。それから半日もするとマンハッタン島の沖合に探検船キュリオシティが姿を現し、続々と船員達が上陸してきた。その中には耳長族も数人含まれており、久しぶりの同胞との再会にリーダーが嬉しそうにしていた。


 元々、万が一を考えて、船の修理が終わり次第追いかけるという話だったが、それにしても早い到着に驚いていると、副長のトーが例によって不機嫌そうな口ぶりで、


「その万一に備えて超特急でやって来てやったんじゃねえか、馬鹿野郎。感謝しろよ。まあ、そのピンピンした姿を見りゃあ、そんな急ぐ必要も無かったみたいだがな」


 いや、実際にはこっちはこっちでとんでもなく苦労したのだが……口では説明が難しいので、適当に省略しながら話しておいた。


 因みに、世界樹のAIプロメテウスを介せば、船員と耳長族の対話が可能で、お陰でお互いの文化交流が捗った。それまではリオンのカタコトの通訳だけが頼りだったが、今では細かなニュアンスまで伝わるので、細かな取り決めも出来て大いに助かった。リオンはホッとすると同時に、ちょっと複雑そうな顔をしていたが。


 プロメテウスは北米と欧州の2つの世界樹を制御下に置いているので、ここからでも欧州にいる耳長族とは対話が出来、簡易的ではあるが様々な条約なども結んでおいた。簡単にその内容を説明すれば、レムリアは今後、北米への植民を目的にまた欧州を訪問するが、その際の補給や交易のお願い等である。耳長族もロディーナ大陸の技術には興味があるらしく、技術提供を見返りに交渉は成立した。


 余談であるが、話し合いの最中、新大陸のことを当たり前のように北米と呼んでいたのだが、先方に北米とは何かと突っ込まれて結構困った。冷静に考えれば今のアメリカ大陸に北も南も存在しないのだ。強いて言うなら西にセレスティアがあるので、東セレスティアなのだがそれも変な話なので、今後はこの地をアトランティスと呼ぶことにする。つまり大西洋は相変わらずアトランティック・オーシャンのままである。


 その後、急ぎ足で新大陸の探検をした。耳長族の杖のお陰で空から視察が出来たので、内地の調査はかなり捗った。現在の地球は90度傾いてしまっているわけだが、緯度的にアトランティスは殆ど変わっていなかったので、五大湖もミシシッピ水系もそのまま残っているようだった。豊富な水と肥沃な土地は未だ健在のようである。


 そして流石アメリカと言うべきか、結構あちこちに古代都市の形跡が見受けられた。流石に全部は周りきれないので、これらの調査は次回以降の楽しみに取っておくしかないが、案外、古代人の残した地下シェルターとか、プロメテウスみたいなAIもまだどこかに眠っているかも知れない。


 そんなこんなで無事に視察を終え、探検船団はニューヨークを発つこととなった。次の目的地はセレスティア、いよいよ世界一周が目前に迫っていた。因みに真のゴールはレムリア大陸であるが、その前に一度セレスティアに寄って被害状況を報告し、グリーンランド基地に残してきた船員の救助を要請する予定である。


 その間、マンハッタン島には耳長リーダーと、船に同乗してきた彼の仲間が残ることになった。彼らは彼らで自分たちのルーツであるこの島のことが気になってる様子で、但馬達が発ったらまた欧州から増援が来る予定だそうである。

 

***


 ニューヨークを発ってからは晴天に恵まれ、穏やかな航海が続いた。甲板には船員たちの洗濯物が翻り、非番の者たちが退屈そうに釣り糸を垂らしている。但馬がブリジットを連れて見回りにやって来ると、彼らは立ち上がって背筋をピンと伸ばしてみせたが、楽にしてくれと手で制されると、大人しく従ってまたぐーたらと竿を上下していた。


「コラー! 待ちなさーい!」


 そんな甲板ではアトラスとエルフ、それからアンナが追いかけっこを続けていた。仮想世界では借りてきた猫みたいになっていたエルフも、現実に戻ってきたらいつもの調子を取り戻し、今日も元気に船の中を駆け回っていた。アトラスから逃げてるところを見ると、大方つまみ食いでも見つかったのだろう。


「あはは、提督ー! 助けてー!」

「あ、ちょっと、あんた卑怯よ!」


 エルフは但馬を見つけると、その周りをくるくる回ってアトラスを引き剥がしていった。遅れてやってきたアンナがギターをぐいと押し付けてきて、


「これ持ってて」


 と返事を待たずに走り去っていった。多分、練習してたら邪魔されたのではなかろうか。


 ニューヨークを出てからも彼女のギター熱は冷めやらず、練習中は下手に近づけない程だったが、エルフだけはお構い無しのようで、よく纏わりついては煙たがられていた。やれやれ、若い連中は元気だなとその後姿を目で追っかける。


 因みに、若いのに負けず劣らず但馬の体調もすこぶる良かった。ブリジットも仮想世界で言及していた通り、実を言うと旅に出る前から彼の体の調子はあまり良くなく、航海中いつも船室に籠もってばかりいたのはそのせいだった。それなのに欧州で巨大ウミヘビなんかと戦ったのが致命的で、探検航海を終えたら余生をどう過ごそうかと考えていたくらいだったが、どうやらもうその心配もしなくて済みそうである。


 元々、但馬波瑠という人間は、天空のリリィのデーターベースに残されていたデータでしかなく、古代の高度なテクノロジーのお陰で存在出来ていたのが実情だった。ところが現在の但馬は機械ではなく、人間の手で復活したせいでかなり不安定になっていたのだ。


 それをプロメテウスが新たな体を作ってくれたことで解消されたらしい。


 ずっと辛そうにしていた但馬をそばで見てきたブリジットは一安心し、ホッと胸を撫で下ろした。なにしろ、彼の復活を望んだのは他ならぬ彼女だったから。


「ブリジット……今回は本当に世話になったな。改めて礼を言うよ」


 ところがそんなある日のこと、二人が甲板の上を歩いている時、意外にも彼はふと立ち止まって言うのだった。


「えーっと、何がですか?」

「あっちの世界で母を助けてくれたことと、それから、俺をこうしてもう一度現世に引き戻してくれたことにだ」


 ブリジットは慌てて首を振った。


「とんでもありません。私は寧ろ、先生に恨まれているんじゃないかと思っていましたが……」


 彼が本来死にたがっていたことは彼女も知っていた。それなのに自分の我がままで無理やり復活させたことを、恨んでるんじゃないかと思っていたのだが……しかし但馬は首を振って、


「いや、俺は別に死にたがってたとか、そんなことはないんだよ。生死は本来関係なかったんだ。そりゃ生きていれば悩みは尽きないだろう。でも死んだら何も変えることが出来ない。俺が死にたがってるように見えたのなら、それはもう役目を終えたと思っていたからさ」

「そうなんですか?」

「ああ。でも、どうやらそれは間違いだったようだ。俺は祖父母に引き取られてからも、この世界で復活した後も、ずっと死んだ母のことが心残りだったらしい。プロメテウスにあの世界に連れて行かれて、それに気づいたよ」


 但馬の母、シオンは音楽家の厳しい両親に嫌気が差して家を飛び出し、アメリカで身を立てるつもりだった。しかし、なんの伝もない年若い彼女には荷が勝ちすぎた。あっという間に行き詰まった彼女は生活のため、そして利用するつもりで但馬の父親に近づいた。


 まだ売出し中の音楽プロデューサーだった父もまたシオンに才能を見出し、野心的な二人はお互いに利用するつもりで付き合い始めた。しかし、それも但馬が生まれたことで関係性が変わってしまう。


 責任を取りたくない父は母に堕胎を迫り、それを嫌がった彼女は父から逃げた。彼女は一度は夢を諦めようとしたが……完全には諦めきれなかった。彼女はその後も但馬を育てながら曲作りを続け、オーディションなども受けていたようだ。売春婦仲間は嫉妬からか、そんな彼女のことを馬鹿な女と蔑んでいた。


 やがて、そんな母の努力が実り、彼女の知名度も徐々に増していった。それで再起が出来れば良かったのだが……名が知れ渡ったことで、父の目にも留まったようだ。彼は母の楽曲を聞き、利用しようと思い立った。


 彼は母が売春で生計を立てていることや、但馬という子供がいることをバラされたくなかったら、この楽曲を自分にプロデュースさせろと迫った。選択肢がなかった母は彼に曲を託すが、父はそれを自分の抱えている若いシンガーソングライターの楽曲として売り出してしまう。その方が売れるからだ。


 だが、そんなつもりがなかった母は楽曲を取り戻そうとし、その件で二人は大分揉めた。しかし、音楽くらいしか取り柄もない異邦人である母に出来ることなど何もなく、絶望した彼女は発作的に首を吊って死んでしまったのだ……


「実際……母の死後、その楽曲は他の誰かのものとしてアメリカでも結構売れた。でもその本当の作曲者のことは、決して知られることはなかった。俺がそれが母の曲だと気づいたのは、日本に引き取られていって大分経ってからのことだ。でももうその頃にはそんな曲のことなど誰も覚えていなかったし、祖父母に心配をかけたくなかったから黙っていたんだ。


 そのまま墓場まで持っていくつもりだったよ。でも、世話になった祖父母が死んで、宇宙飛行士としてアメリカに戻った時、そんな俺に父親が接近してきたんだ。


 音楽プロデューサーとしてはもう、とうが立っていた彼は、また一儲けしようとして俺を利用しようとしたんだろう。俺が何も知らないと思って血縁者として名乗り出て、母の思い出話を懐かしそうに語ってみせた。


 でも俺は自分で言うのもなんだが、かなり利口な子供だったものでね。父と母のやり取りはよく覚えていたんだよ。彼らは人目も気にせず怒鳴り合っていたから。そして彼の代表作が、本当は母の作曲だということも知っていた。


 俺がその点を指摘してやると、彼はしどろもどろになって、あの女が作ったなんて証拠はどこにもないって、そんな捨て台詞を吐いて去っていった。それ以来、彼には会っていない。地球も、滅茶苦茶になっちゃったしな」


 晴天の青い空を見上げながら、但馬はそんな話をブリジットに聞かせた。本当なら思い出さなくてもいい嫌なことを、思い出してしまったのだろう。その横顔はどことなく暗く沈んで見えた。彼は続けた。


「……火星に旅立った時は、もう地球に戻ってこれなくてもいいって思っていた。宇宙船で事故が起きて自分だけが生き残った時は、何の因果かと思った。自分を助けるために、次々と仲間が死んでいった。それでも生きなきゃならないのかと、運命を呪ったこともあった。でも、今は生きてて良かったって、心から思うよ」


 そんな彼の瞳が、甲板でじゃれ合っている娘の姿を捉えている。ブリジットはその視線の先を追いながら言った。


「ニューヨークでアンナさんがお母様と出会ったのは、彼女の意志を継いで欲しいって気持ちの表れだったんでしょうか? 彼女も大分いい経験をしたみたいで、ギターもかなり上達されたみたいですけど」


 そう言われた但馬は電撃を撃たれたように目を見開いて、


「どうかな……そんなつもりは無かったけど……でも、そうだな。もしも子供が生まれたら、本場のロックを聴いて欲しいって思っていたのかも知れないな。一緒に」

「あの世界は先生の記憶を元に作られたんですよね。ってことは先生も実はギターが弾けるんですか?」

「え? まあね。少しだけなら」


 と言うか、そもそも、アンナにギターを教えたのは、他ならぬ但馬だったのだ。これもまた墓場まで持っていこうと思っていたのだが、実は本人にはとっくにバレていたらしい。


 締まらない話だ。


 但馬はチューニングを確かめ軽くコードを押さえると、ふーっと深呼吸をして、


「それじゃ一曲」


 そして彼は拙い指でギターを奏で始めた。それはアンナがまだ幼かった頃、子守唄代わりに聞かせてあげた、彼女がシオンと初めてセッションした、但馬の母との思い出のメロディだった。


*****


****


***


**



 但馬が弾くギターの音が海風に溶けていって、なんとも心地よかった。気がつけば日も傾いてきて、東の空には一番星が燦然と輝いていた。夜へと変わるこの一瞬を、人は幾度となくくぐり抜けてきたはずだが、何度見ても美しいものだ。好きな人と一緒なら尚更。


 ブリジットがうっとり余韻に浸っていると、ギターを弾き終えたばかりの但馬がそんな彼女の胸を見ながら徐に尋ねてきた。


「……ところでブリジットさん。一つ、頼み事があるんだけど、いいかな?」

「なんです?」

「ちょっと揉んでみてもいい?」


 彼女は一瞬、聞き間違いかと思ったが、彼の方を向いたら視線が胸に突き刺さっていることに気づいて、とりあえず胸をガードしながら後退った。


「何を言い出すんですか、急に?」

「いや、実はね? プロメテウスに復活させられてからブリジットのことを見ていると、妙にムラムラしてきて……その、以前まではそのデカブツが残念な肉塊にしか見えなかったんだが、今は何故か非常に魅力的に見えるんだ。それが何でなんだろうって、その胸を凝視しながらずっと考えていたんだけど……


 思えば、俺の母って胸が大きな人だったなって。そして父は巨乳ばかりを侍らしていたクズだったじゃんか? もしかして、それがトラウマになってて今まで巨乳を避けてきたんじゃないか。今回、母が助かったことでそのトラウマが払拭されたのかも知れない。だとしたら、本当に俺がノーマルになったかどうか確かめさせてくれないか?」


 但馬は指をワキワキしながら大真面目にそんなことを言っている。ブリジットはにっこり拳を握りながら、


「もう一度、トラウマを植え付けてやりましょうか?」


 キュリオシティの艦橋からは、甲板の様子が一望できた。頼むよーと言いながらヘラヘラと追いかける但馬と、嫌ですよーと言いながら逃げるブリジットの姿に、船員たちから失笑が漏れる。


 トーはそんな二人のことを遠巻きに見ながら、はぁ~っとため息混じりに紫煙を吐き出しつつ呟いた。


「爆発しろ」


 世は並べて事もなし。


(玉葱とクラリオン・アフターストーリー NY探訪編・了)

というわけで、玉葱とクラリオン・アフターストーリーはここで一旦区切りとさせていただきます。世界一周もまだ途上で、ニューヨーカーとして生きる決意していたアンナは肩透かしを食って今何を思っているのかとか、おっぱいを克服し野獣と化した但馬とブリジットが今後どうなってくのかとか、ハルとの関係などまだ書き足りないところはありますが、今回はここまで。こっちやってるとWorldsCollideの方に支障出るんでね。もうこれからはあっち優先しようと思います。悪しからず。


というか、元々、単行本発売の販促のつもりで始めたアフターストーリーですが、肝心の本が本当に笑っちゃうくらい売れてないみたいなんですよ(爆)。で、もう3巻も出ないんじゃないかと思ってます。それでモチベ低下してるのもあって、ちょっと二つ同時進行はキツイんですよね。いや、本当に、思った以上にキツイのこれ。


なので続き書くとしたら、3巻出せたらってことで。何卒ご了承くださいm(_ _)m。つーか、もし続き読みたいって思えるなら、助けると思って本買ってくださいよ(切実) いやココだけの話、今買えば漏れなく『初版本!』が買えるから、まじおすすめ! 絶版になってからなんかの間違いで話題になって、すげえ高値で売れるかも知れないから、いま確保するだけ確保しておけば老後の足しになるかも知れないですよ!? そう考えるとお得でしょう? 1冊1430円とお高いですけど、考えても見ればガチャ引く金で2冊買えるじゃないですか! だから今これを読んでいるそこのあなた、10連ガチャを引く指を一旦止めて、いますぐ下記URL https://hobbyjapan.co.jp/books/book/b638911.html のネット書店へGO!


ついでに、数話前にも告知しましたが漫画版の方が来月発売しますので、こっちも是非購入を検討してみてください。こっちはどうも紙の媒体はないっぽいんで、初版とかはあれなんですけど、もしもこっち売れたら小説版の方も検討してくれるかも知れないんで、助けると思って買ってくれると有り難いっす。なんとこっちは小説版の半額で買えちゃう! つまり小説買う金で2冊も買える。小説2巻買うつもりなら4冊ですよ! どうですか? お得でしょう!?


はい。というわけで販促も終わったので、そろそろこの辺で。次回更新ですが、2月1日にWorldsCollideの方をやってこうかと思ってます。ていうかもう上がってるんですが、幕間の物語ということで10話と短いですが、まずまずよく書けたんじゃないかと思ってるんで、期待して待ってていただければ。


ではでは。また機会があればお会いしましょう。


水月一人

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