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玉葱とクラリオン  作者: 水月一人
グレートジャーニー(玉葱とクラリオン after story)
403/418

NY探訪編⑤

 時は少々巻き戻り、アンナが街を駆け回っていた頃、ブリジットたちの方はと言えば、警察署に連行されていた。


 車が鳴らすクラクションが洪水のように流れる中、5人は2台のパトカーに分乗してNYの街を運ばれていった。ブリジットは車窓の景色を見ながら、そこに集まる人種の数々、人口、そして道路の両脇にそびえ立つ巨大なビルに圧倒されて言葉を失っていた。


 かつて但馬相手に、ローデポリスの町並みを得意げに案内したことがあったが、そんなものとは比べ物にならない、本物の摩天楼がそこに広がっていたのだ。この巨大都市は一体どこから現れたのだ? 窓にへばりついて食い入るように外を見ている彼女のことを、警官が面白そうに眺めていた。


 そうやってマンハッタン島を縦断し、NY市警まで連れてこられたブリジットたちは、早速事情聴取を受けたが、しかし彼女が何を言っても警官はまったく信じてくれそうになかった。


「ですから、私たちはレムリア大統領の要請を受けて世界一周の探検航海をしている最中なんですよ。その道中で提督がこの街にあるであろう世界樹の精霊に拐われてしまって、彼を取り戻すためにやって来たんです」

「はいはい……という設定は分かったから、本当のとこどうなの? あんたら人種もバラバラだし、変なコスプレしてるし、何かの企画なんでしょ? 目撃情報によればソーブローの方から飛んできたみたいだけど、最近流行りのユーチューバー? チャンネル登録してあげるから、正直に答えなさいよ」

「だから違いますってば! 何度言ったら分かるんですか。私たちはレムリアから正式に依頼された本物の探検船団なんです。こう見えて私も海軍中佐扱いなんですからね。あまりしつこいと抗議させて貰いますよ。大使館はどこですか!」

「おっかしいなあ……チャンネル登録するって言ったら大抵のライバーは落ちるって先輩言ってたのに……」


 結局、話が噛み合わないまま時間だけが過ぎていき、埒が明かないと思ったか、それともただのパフォーマー集団だと判断したのか、警察官に「もうあんなことするんじゃないぞ」と念を押されてから彼女は解放された。


 その軽い扱いをなんとなく不服に思いながら、制服警官に案内されて玄関まで戻って来ると、ブリジット以外の仲間はとっくに聴取を終えていたみたいで、退屈そうに長椅子に横並びに掛けていた。ただし、エルフだけはここの空気に馴染めないのか、野生化してフーフー周囲を威嚇している。そんな彼女を宥めつつ、リオンが話しかけてきた。


「どうでした? 何か掴めましたか」


 彼は但馬の手がかりに繋がる情報があったかと尋ねているようだが、ブリジットは黙って首を振って、


「全然駄目です。先生の話をするどころか、こっちの話は何一つまともに聞いちゃくれないので、話になりませんでしたよ」

「こっちも似たようなものでした。どうも、彼らはロディーナ大陸のことを知らないみたいですね。ただ、試しにレムリアのことを、古語のオーストラリアと呼んでみたら通じたので、もしかすると僕達とは世界観が違うのかも知れません」

「古語なら通じたんですか? そういえば、ここは耳長族のご先祖様が住んでいた土地だというのに、全然見かけませんね。リーダーさんの方でも何か気付いたことはありましたか?」

「何も」


 耳長リーダーは即座に首を振った。彼に言わせれば、取り調べた男とは常識から何から違っていて、話が全く噛み合わなかったそうだ。


「結局、何も分からないってことが分かっただけでしたね。とりあえず、いつまでもここにいるのもなんですから、グライダーのとこまで戻りませんか?」


 リオンが人目を気にしながら言う。ブリジットたちの格好がよほど目立つせいか、さっきから無遠慮な視線をいくつも感じており、このままではいつエルフが爆発するか分からないので、さっさと移動したいようだ。反対する理由もないので席を立つ。


 行きは車で運んできてくれたが、帰りの送迎は出してくれないようだった。ただ、不時着した公園までは一直線だから道に迷う心配はなかった。代わりにとにかく人混みがひどくて、たった6キロの道程なのに、ものすごく長く感じられた。実際、2時間くらい掛かってしまったのではなかろうか。ようやく公園に辿り着いたときには、体力的にはともかく、精神的にクタクタになっていた。


 出来れば一休みしたかったが、帰ってくるなり公園の管理人がすっ飛んできて、早くグライダーを退かせとせっつくので、仕方なくすぐまた移動する羽目になった。と言っても、どこにも行き場はなかったから、まるで山を超えるバイキングのごとく重い機体を担ぎつつ、人々の奇異な視線を浴びながらさまよい歩き、ようやく川べりの人気のない空き地に腰を落ち着けたときには、大分日が傾きつつあった。


 まだ日没までは時間があると思っていたが、思ったよりも日が落ちるのが早く感じられた。そういえば、街を歩いている時、あちこちからクリスマスキャロルが聞こえてきたが……もうそんな時期だったろうか? 12月にはまだ早いはずだが、意識してみれば、心做しか気温の方も肌寒いような気がした。


 その辺に落ちていた一斗缶を拾ってきて焚き火を起こして暖を取りつつ、グライダーに積んであった保存食を取り出してモソモソする。長期戦に備えて結構な物資を積んできたから、暫く食べる分には困らないだろうが、問題は寝泊まりできる場所がないことだった。


「参りましたね……まさかこっちも欧州みたいに人が住んでいたなんて」

「お父さんを探そうにも、こんなに人が多くては、逆に見つかるものも見つかりませんね」

「木を隠すには森ってやつですか。それにしてもこの街の人達はやけに洗練されてるといいますか、どういう出自なんでしょうか? ……そう言えば、世界樹も見当たりませんよね? きっとどこかにあるはずですが」

「上空から見た限りではどこにもありませんでしたね。ビルの中に隠れている……なんてこともなさそうですし。どうなってるんだろう?」

「それにしても寒いですね。早く寝床を確保しなければ凍え死んでしまいそうです。逸れてしまったアンナさんのことも探さないといけないのに、このままじゃ身動き取れませんよ……」


 そんな感じに、これからどうすればいいかと話し合っている時だった。


「もし……私たちはすぐそこの教会のものですが、よろしければ貴方方もクリスマスミサに参加しませんか? ミサのあとには炊き出しもございますよ」


 ブリジットたちが焚き火を囲んで黄昏れていると、いつの間にか彼らのすぐ傍に黒いベールを被ったシスターが数人立っていた。


 どうやら、こんな場所で人目をはばからず野宿をしている彼らをホームレスと勘違いし、見兼ねて話しかけてきたらしい。しかし、シスターが首から下げているロザリオを見るなり、ブリジットはまるで同郷の士でも見つけたかのように飛び上がって、自分も首から下げていたロザリオを見せびらかすように握りしめ、


「まあ! すぐ近くに教会があるんですか? そういうことなら是非、参加させてください! やはり今日はクリスマスなんですね。私も主にお祈りを捧げなければ!」

「もちろん、よろしいですよ。主の平和がありますように」

「主の平和がありますように!」


 シスターは彼女が同じキリスト教徒だと気づくと態度を改め、嬉しそうに一行を招待してくれた。リオンやハルはそんなことしてる場合じゃないと思いもしたが……こうなってしまってはもうブリジットを止められる気がしなくて、黙って彼女に従った。


***


 案内された教会は思っていたよりもずっと大きくて、ミサには街中から集まってきた多様な人々が参加していた。裕福そうなコートを羽織り、指輪をゴテゴテ嵌めたでっぷり太った男の横には、ハンチング帽を握りしめたハゲ頭のホームレス風の男が並び、老若男女貧富の差もなくみんな横並びになって少年合唱団の歌を聞いていた。その後は聖体拝領のパンとワインをいただき、みんなで主への感謝の祈りを捧げて、神父の有り難い説教を聞いて儀式は滞りなく終わった。


 それが終わるとシスターが言っていたように炊き出しが始まり、ミサには参加しなかったがこれを目当てにやってきたホームレスたちで教会の庭は埋め尽くされた。


 そんな中でブリジットはシスターに混じり、お客様の案内に炊き出しの手伝いに、忙しそうに走り回っていた。同じようにボランティアで集まった婦人たちと和気あいあいとしている様は、まるで昔からここに住んでいたかのように馴染んで見えた。宗教観がはっきりしてる人は、こういう時に強いよなと、ハルは遠巻きにしながらその様子を眺めていた。


 ここに居る人々は、着ている服装はだいぶ違うが、見た感じロディーナ大陸の人間と人種は変わらないようだった。多少、黒人が多いような気はしたが、欧州の耳長族のように、ひと目で人種が違うと分かるような人間は一人もいないようである。


 リーダーみたいな耳長族や、リオンやエルフみたいな獣人族は、ここではよっぽど珍しいようだが……ところが、この街の人々がリオンたちのことを見ても、特に何も言うことはないので、それが妙に引っかかった。少なくとも、ハルは耳長族を初めて見たときには、結構驚いた。なのに、この街の人々はどっちを見ても、まるで始めから知っていたかのように振る舞うのだ。


 騒ぎ立てても得はしないだろうからこれまで黙ってきたが、これ一つを取ってみても、この街の人々は明らかに異常だった。いや、こんな地球の裏側に、ここまで洗練された都市が存在すること自体が異常である。


 この街のテクノロジーは、明らかにロディーナ大陸のそれを超越している。なのに、今まで彼らの存在が明るみに出ていなかったのはどういうことだ?


 そんなことを考えていると、同じように情報収集をしていたリオンがやってきた。


「ハルさん、ここに居ましたか。さっき行くところがなくて困ってるって神父様に相談してみたんですけど、今日はこの教会に泊めてくれるそうですよ」

「そりゃ良かった」


 流石にこの寒空の下で野宿はゴメンである。ホッとしていると、リオンは真剣な顔を近づけて来て、


「そのついでに聞いてみたんですけど、やはり彼らはロディーナ大陸の存在を知りませんでした。というか、僕が言うことは殆ど何も分かっていないのに、ただ調子を合わせてくれてるみたいでしたね。暖簾に腕押しというか、なんというか、あの警察官たちと同じ臭いがしました。どうも、この街の人々の様子はおかしいです」

「ふむ……リオンはどう思うの?」

「まだなんとも……そうそう、実は彼らの宗派について尋ねてみたんですが、そしたら彼らはエトルリア聖教でもティレニア神教でもなく、カトリックを名乗ったんですよ」

「カトリックって?」

「なんて言いますか、キリスト教の正当な教会を意味する言葉です。キリストの使徒ペトロが興した宗派と伝えられており、それはロディーナ大陸では古代に失われた伝説の教義のはずなんですが……」

「それを彼らは名乗ってると?」

「ええ、それで思い出したんですけど、警察署でも彼らはレムリアのことを、古語のオーストラリアと呼んでいました。そして、その時代のロディーナ大陸は極地の氷に閉ざされていて、人は住んでいませんでした。以上から推測するに、ここにいる人々はもしかして、過去に存在した人々だったんじゃないかと思ってるんですけど……」

「過去だって!? そんな馬鹿な。それってつまり、大将の時代の人たちがそのままずーっとこの街で生き続けていたってこと? それとも、俺たちがいつの間にか過去に飛ばされちゃったってわけ? だとしたら、一体どうやって?」

「それなんですよねえ……そんな気配はまるでありませんでしたし」


 リオンの考えは流石に飛躍し過ぎだろう。ただ、この街がどこかおかしいことは間違いないから、引き続きその辺を探っていこうと二人が小声で話し合ってると、その時、遠くの方からブリジットが血相を変えて飛んできた。


「ハルさん! リオンさん! ちょちょちょちょちょっと、こここれを見てくださいっ!!」


 ブリジットはバタバタと駆けつけるや、両手を膝についてぜえぜえと息を整えて、それから手にしていた何かの紙切れを差し出してきた。それは表面がテカテカと光沢処理を施されたポスターで、何かのチャリティーイベントのちらしみたいだった。見覚えがある気がするのは、さっき教会の掲示板にあるのを見かけていたからだろう。


 ハルは受け取ったチラシを一瞥して、これが何か? と返そうとしたが……その瞬間、何かが引っ掛かって、慌ててそれを二度見した。するとそのチャリティーイベントの広告の端っこの方に、なんと但馬の顔が写っていたのだ。


「ええ!? この写真……大将そっくりだけど、まさか……?」

「そうなんですよ! 私もビックリしちゃって、すぐシスターに聞いてみたんです。そしたら、その人は慈善事業に積極的なことで有名な音楽プロデューサー? だかなんだかで、この教会もお世話になっている人で、なんと、その名前は但馬波瑠って言うんだそうですよ!」

「……但馬波瑠だって!?」


 まさか、そのものズバリが出てくるとは思わず、二人はびっくり仰天した。ブリジットは興奮気味に続けて、


「ええ、但馬波瑠です! 流石にこんな偶然があるわけないですよね。そのポスターはその人が主催するチャリティーイベントの広告だそうで、明日ワールドトレードセンターってとこで開催されるそうです。これは行ってみるしかありませんよね!?」


 ブリジットはウキウキと話している。ハルもリオンも、こんなあっさり手がかりが見つかるとは思わず少々拍子抜けはしたが、もちろん異論があるはずないので、彼女の提案に乗って、明日はイベントへ行こうということになった。


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