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玉葱とクラリオン  作者: 水月一人
第五章
163/418

NEW GAME! ①

 但馬波瑠の登場以降の大陸情勢はめざましく、辺境の小国が瞬く間に複数の国を束ねる帝国にまでのし上がってきたことは、世界中に驚きと脅威を与えた。今や鉄と火薬、石炭と油の臭いが充満する火の国となったリディアは国土を広げ、メディア、カンディアを吸収し、尚もエトルリア皇国の内部にまでその触手を伸ばしていた。


 その変遷を振り返ってみれば、その脅威の領土拡張ぶりに危機感を抱かないわけにはいかないだろう。元々、但馬が登場した頃のリディアはガッリア大陸に辛うじて指先が引っかかってる程度の、非常に慎ましやかな国土しか無い小国だった。エトルリア皇国を主家と仰ぎ、通貨もその皇国の物を使用しており、街の広さはせいぜい東京23区程度しかなく、その周囲の穀倉地帯も、ガッリアの巨大な森に阻まれてかなり窮屈だった。


挿絵(By みてみん)


 土地柄から火山灰質で本来ならば作物は殆ど育たないはずであったのに、ここから十分な量の収穫を得ることが出来たのは、60年前に現れたとされる勇者の存在が大きいと言えただろう。もしも彼が居なければ、恐らくリディアは長い年月の間に自然消滅していた国家であったはずだ。


 リディアのあるガッリア大陸は、その全貌はまだ明らかにされてないが、実際にはエトルリア大陸の数倍の広さがあり、原生林の生い茂る豊かな土地がどこまでも続いている。生命を育むための土地は無限に広がっており、その気になって開拓を行えば、すぐにエトルリアを凌ぐ国土を手に入れることだって可能だった。だが、もちろんそれは無理である。


 そんなリディアがいつまでも狭い土地にしがみついていたのは、言うまでもなく外敵の存在があったせいである。森林には謎の生命体エルフが跋扈し、人間を見つけるや問答無用で襲いかかってくる。そのエルフと連携を取るかのように、元々は協調路線を取っていた亜人までもがリディアの拡張を阻むように立ちはだかった。


 亜人は人間のガッリア大陸からの撤退を主張し、人間国家のリディアと亜人国家のメディアの戦いは60年もの長き渡り断続的に続けられた。


 転機が訪れたのは、前線となるヴィクトリア峰の麓で、突然山火事が起こったことによる。これは但馬が引き起こしたことであったが、あまりにも規模が大きかったために人の手によるものとは思われず、リディア軍はただ天恵に感謝して前線を押し進め、ヴィクトリア峰南部に橋頭堡を固めた。


 これにより、ゲリラ戦術を得意としていたメディア軍は川を挟んだ広い平地でリディア軍と対峙する羽目になり、戦線を維持することが叶わず後退を余儀なくされる。それを好機としてリディアは休戦を申し入れ、長いメディアとの戦いに終止符を打とうとした。


 しかしそれは、リディアという国が大きくなることを嫌った大陸勢力の手によって妨害された。


 この時期のリディアは但馬の登場によって新たな産業が次々と興り、イオニア海経済において主導権を握り始めていた。大陸勢力は、これを快く思わない商人国家コルフを唆して牽制し、更に亜人商人を利用してリディアを陥れようとした。どうやらこの時期、リディアに下手を打たせて武力による介入を行おうとしていたフシがある。


 この頃のリディアに海軍は存在せず、イオニア海の制海権は海賊によって牛耳られており、大陸国家はそれを支援してリディアを封じ込め、言うことを聞かせる腹づもりであったようだ。


 しかし、これまた但馬率いるS&H社の機転により空振りに終わり、コルフを武力制圧しようとしていた海賊までもが、逆にリディアの武力によって鎮圧される結果となった。


 海賊は大陸方面へと逃走し、それを見咎めたリディア海軍が追いかける。本来は大陸側が攻めるはずだったのが、逆に大義を得たリディアに攻められ、皇国はカンディアを奪われる結果となる。リディア軍の勢いはとどまるところを知らず、更に海峡を挟んで睨み合うこととなった。


 大陸南部を収めるアスタクス方伯はここで下手を打ち、海賊をフリジアへと入港させるという愚を犯す。これではコルフを攻めたり、リディアの商船を襲ったのは自分たちだと宣伝しているようなもので、激怒したリディア改めアナトリア帝国軍にフリジア侵攻を許すことになってしまった。


 フリジア子爵は街を追われ、アスタクス方伯の収めるビテュニアへ入る。跡継ぎを人質に取られ、降伏が出来ない彼にとっては苦渋の決断だったが、アナトリアにやられっぱなしであった方伯は、これを好機と捉えた。方伯はフリジア侵攻を非難すると共に、アナトリアを討つよう皇国中に激を飛ばした。アスタクス方伯傘下の諸国は勝ち馬に乗ろうとして兵を挙げ、皇国もそれを黙認した。これにより第一次フリジア戦役が勃発することになる。


 だが、この期に及んで方伯はアナトリアを過小評価しすぎていた。イオニア海を挟んで彼我の軍事力は、この時点で取り返しのつかないほどの開きがあった。方伯は間もなく、10倍の戦力差を覆され敗北するという現実を知ることとなる。


 第一次フリジア戦役を終え、アナトリア軍の強さを目の当たりにしたエトルリア南部諸侯は動揺する。下手を打った方伯のせいで、フリジアの次にやられるのは自分たちである。


 そして不安に陥った南部諸侯にアナトリアは接近し、従属ではなく独立を勧めた。南部諸侯はアスタクス方伯に臣従しているわけではなく、あくまでも皇国に従属する数多くの衛星国家の一つである。ならば、ここに独立を宣言し、方伯との距離を置くように指示したのである。


 実質、従属先を皇国から帝国に変えた格好だが、アナトリアが巧妙であったのは武威による制圧ではないことを強調し、本当にフリジアから軍隊を引き上げたことだった。代わりに南部連合に所属する沿岸都市国家は全てアナトリアに港を開き、有事の際にはアナトリアが駆けつけることを暗に示していた。


 そして武器まで供与され、経済、軍事の両面で協調路線を取ることを約束した南部諸侯連合は、イオニア海交易で大いに潤い、経済圏をエトルリアからアナトリア偏重へと切り替えていくこととなる。


 アスタクスはこれにより南部の穀倉地帯からの収穫とイオニア海の市場を失い、更にアナトリアとの賠償協議もあって国威を失墜していた。


 そんな最中、リディアの交易船がロンバルディアへと入った。


 世界で唯一外洋航行技術を持つアナトリア帝国は、その航海術を駆使してイオニア海から外洋への航路を開拓していた。そして、競争者の居ない外洋の海洋資源を収穫する傍ら、探検航海によって伝説の島ブリタニアを発見する。


 海外植民地を得たアナトリアの噂は大陸でも密かに噂されており、特に外洋に面した都市国家はかなりの羨望を持って注視していた。そんな中、アナトリアはロンバルディアに秋波を送り、外洋交易を開始したのである。


 エトルリア南部の西岸は、イオニア海から離れていたことで南部諸侯連合には加わらず静観していたが、アナトリア=ロンバルディア接近が知られるとにわかに動揺を始めた。


 アナトリアの好景気は既に様々な方面から聞き及んでおり、伝説の島ブリタニアの発見や、まだ見ぬ大陸への探検航海と、外洋開発はこれから益々盛んになると言えるだろう。今までは大陸の端に位置し、取るに足らない小国と思われていた外洋都市国家群にとって、これは魅力的に映った。


 また、ロンバルディアと南部諸侯連合の間に挟まれているという位置的にも、外洋都市国家群には独立の気運が立ちはじめ、まもなくアスタクスとの距離を置きだした。


 対するアスタクス方伯はこれを許さず、様々な手を使ってこれを阻止しようとする。


 方や南部諸侯連合は仲間に引き入れようと暗躍する。


 静観するロンバルディア、介入の糸口を探るカンディア公爵、様々な思惑が入り乱れ、大陸情勢はまた動き出しはじめる。


 フリジア戦役からまもなく1年。こうして、後に第二次フリジア戦役と呼ばれる戦いが勃発しようとしていた。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


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