逓信卿時代④
建国からおよそ65年。振り返ってみればリディアの歴史は、結局は森に潜むエルフに怯えるだけのものだった。
フリジア戦役で圧倒的な勝利を得て、大陸に名を轟かせたアナトリア軍であったが、人間相手には無敵を誇るその軍団も、ガッリア大陸の森に住むエルフ相手には無力であった。
エルフは森に潜み、人間を見つけたらその理不尽な魔力でもって容赦なく人を狩る。慈悲はなく、彼らに見つかったら最後、十字を切って身を委ねるか、背後を振り返って必死に逃げ出すしかない。だが、その結末はどちらも同じだ。
唯一、これに対抗しうるのが、聖遺物を持った魔法使いであるとされるが、現実にはその魔法使いであっても、エルフの魔法を凌ぐのがやっとで、倒すことはおろか生き延びることすら至難の業だった。
1000年前、北方セレスティア大陸から渡ってきたとされる人類は、このエルフとの戦いに勝利しエトルリア大陸を解放したとされるが、実際にそれを可能にしたのは、伝説の聖女リリィのお陰であろう。とても、大昔の人々が、あれに対抗できるとは思えなかった。
そのリリィはエトルリアの地に、聖遺物を産出するという世界樹を作ったあと、大陸中央部ティレニアの山々を通ってガッリア大陸に入り消息を絶ったらしい。このリリィなる人物が何者であったかは憶測の域を出ないが、但馬波瑠と同じく、かつてこの地球上にあった文明に由来する何者かであったことは、多分、間違いないだろう。
そしてエルフもまた、そうなのだ。
あれはかつて滅びた文明の残滓で、元々は人間であった生命の成れの果て。恐らく、もう人間らしい心も欲求もなく、ただの野生動物か、自然現象に近い生き物であるが……元々は人間であり、科学の力で生きているはずなのだ。
つまり、そこに弱みがある。
「……access」
メイドカフェで騒動があってから1週間後。但馬はエルフ討伐を目的とした作戦考案のために、自分の屋敷に信用のおける人間だけを集めた。
出席者は但馬、ブリジット、アナスタシア、エリオス、そしてリーゼロッテである。
屋敷の窓は堅く閉じられ、まだ昼間だと言うのにカーテンでピッチリ遮られた室内は薄暗かった。彼らは但馬の書斎に電気も点けずに集まると、エリオスだけが部屋の外へ出て、リオンさえも近づかないように、部屋の扉を歩哨のように固めた。
その物々しい空気に、詳しい話を聞いていなかったアナスタシアが不安に思い、一体何が始まるのだろうか? と困惑気味に見守る中、但馬は一人目を瞑って、見えないボールでも手に持っているかのように腕を突き出すと、簡素な単語の羅列を抑揚のない平板な口調で読み上げた。
「light small light, time 10000, temperature normal, start」
すると突然、彼の両手のひらの何もない空間に小さな光球が浮かび上がった。
「turn left, turn right, loop...」
但馬がまた別の単語をブツブツ呟くと、その光はクルクルと回りだし……10秒位経つと何事もなかったかのようにパッと消えた。
それを見ていた三人は、ポカーンと口を開けていた。手品か何かだろうか? 彼が何をやっているのかがいまいち分からなかったアナスタシアが、
「……これが?」
と尋ねると、彼は少し困ったような顔をしてから、
「これが魔法の正体だよ」
とケロリと言い放った。
「正確に言うと、Conductive Porphyrin NEMS……君たちの言うところの魔素を視覚化して動かしてみせたんだけどね。世のヒーラーの奇跡の力も、ブリジットのクラウソラスも、アーニャちゃんの抗生魔法も、リーゼロッテさんの身体強化も、根源を辿れば全部これと同じ仕組みで実現してる」
そこまで言って言葉を区切った但馬は、ぐるりと三人の顔を見回してから、
「つっても、分かんないよね?」
「分からない」「分かりません」「何を言ってるのかさっぱりでございますね」
さもありなん。但馬は頷いて続けた。
「かいつまんで説明すると、この世に満たされていると言われるマナは、大昔の人間が創りだして、大気中にばら撒いた物なんだ。何のためにそんなことをしたのかと言えば、魔法を使うためなんだけど。
マナって言う物は大雑把に言ってしまえば、電気の力を有した、目には見えない超微粒子のことで、特定の条件下でその電気の力を放出して仕事をする。電気の力だから、それ単体では光ったり、熱を持ったり、ビリビリしたりするくらいしか出来ない物なんだけど……これを上手く操ることが出来れば、冷蔵庫のように物を冷やしたり、石鹸を作ったりも出来るはずだ。
一番得意なのは、やっぱり電気機器を動かすことで、初めはそれを目的として開発がスタートした。そしてそれを実現させたのが、大昔の魔法使いたちで、まあ、白状すると俺もその一人なんだよ……」
正確には、その記憶を持ち、新たに生み出された人造人間……と言ったところか。但馬はしんと静まり返る室内で、パチンと指を鳴らした。
すると突然、部屋のあちこちにモヤのような光が浮かび上がり、それがまるで妖精でも踊っているかのように、クルクルと楽しげに回り始めた。
その異様な光景にその場にいた三人は度肝を抜かれ、身を竦めて固まった。但馬が平然としているところを見ると、これはただ光っているだけで、多分、触れても平気なものなのだろうが……これだけの物を無詠唱で同時に操り、なおかつ涼しい顔をしている目の前の男のことが信じられなかった。
アナスタシアは感嘆のため息を吐いた。
実際に、但馬が魔法を使うところを見たのは始めてだった。話には聞いてはいたが、しかし、ここまでの使い手だとは思わなかった。魔法使いという人種は見たことはある。ブリジットもリーゼロッテもその一人だった。だが、今となっては彼女らをそう言って良いのか分からなくなってしまった。目の前にいる男、これが本物の魔法使いというのなら、とても自分たちがそれを真似出来るとは思えなかった。
「大昔の魔法使いたちは、無重力状態の宇宙空間で自由自在に活動出来るように、マナを生み出して空間に満たし、そして自分たちの脳みそを弄ってそれを制御した。つまり、魔法ってのは生まれつき備わっているものではなくて、後天的なものなんだ。
だから当然、魔法を使うには訓練が必要で、そのために生み出されたのが詠唱法だった。
例えば、サイキックを使って物を動かそうと試みたとしても、ただ頭の中で動け動けと念じているより、声に出して動けって言った方が、実は取っ掛かりが良いんだ。みんなも経験あると思うんだけど、今まで出来なかったことが、一度出来てしまえばあとはすんなり……なんてことがあるでしょう。条件反射ってものがあって、初めの頃は何度試しても中々動かないんだけど、その内コツが掴めてくると、頭で考えなくても、ただ動けって言うだけで物を動かせるようになる。
そしたら今度は、動け動けと言いながら何度も動かし、脳みその第六感を鍛えたら、やがて今度は動けと言わなくても物を動かせるようになる。要は、脳みそがマナのコントロールの仕方を学習するために、詠唱を利用したと言うわけだ。
だから詠唱はなんでも良い。魔法を使う感覚は人によって違うのが普通だから、その訓練の仕方も自分のやりたいようにやるのが一番だ。俺は英単語をブツブツ念仏のように唱えているのが一番しっくり来たんだよ。それをこないだ死にかけた時に思い出した」
但馬がそう言うと、突然、今まで辺りを周回していた発光する球体が消えた。それから彼が小さく何かを呟くと、今度は机に置かれていたロウソクにポッと火がついて、かと思えば、急にその机の上に置かれていた鉄球がコロコロと転がりだし、それが徐々に勢いを増して、パチンッ……と、オハジキのように別の鉄球に当たった。その光景に釘付けになっていたら、最後に部屋の照明が触ってもないのに勝手に点いて、フッと息を吹きかけたようにロウソクの炎が揺らめいて消えた。
「俺たち……古代人は空のずっと高い高い場所、宇宙空間に居住スペースを作り出し、そこで生活するにまで至ったんだけど、その場所は狭いだけでなく、体を動かすのも不自由なところだった。生活するには不便で、場合によっては体を壊して死んでしまうこともある。で、環境に適応するのも限度があるから、そこで生活をする上での補助のために魔法が生み出されたんだ。
居住スペース……宇宙船や宇宙ステーション内にマナを満たして……こんな具合に遠隔で物を操作したり、機械を直接動かしたりして、人間は生活をしていたわけだ。
ところで、魔法を使って機械を動かせるならその逆もまた然り。やがて人間がマナを操作して直接手を下すよりも、もっと高度な制御を実現する機械が生み出されるようになった。簡単に言えば魔法制御装置だ。人間がやることはどうしても限界があるから、魔法も段々と機械に肩代わりしてもらうようになっていったんだよ。
俺が生きてた頃はここまで派手なものは無かったんだが……聖遺物ってのは、恐らくその魔法制御装置のことで、詠唱はそれを制御するためにあるんだろう。
エトルリアにある世界樹はその製造工場で、聖女リリィが何者だったかは分からないが、少なくともこういった施設を残したことから、俺と同等の存在……つまり古代人と考えて間違いないだろう」
ただ、古代と一口に言っても、同じ時代の人間とは限らないが……但馬が知る限りでも、その頃の人類の歴史は5千年近くもあり、先史時代を含めれば数百万年にも上る。そしてもちろん、但馬が死んだ後も何十年か、何百年かは続いたろうし、恐らくリリィはその時代の人間だと推測される。と言うのも理由があって……
「お待ち下さい」
意外にも、こう言うことにあまり興味がなさそうなリーゼロッテが、真っ先にそれに気づいたようだった。
「社長がおっしゃっていることが事実なら、魔法は後天的に備わる技術ということでございますよ? ですが私が知る限り、魔法というものは生まれついての才能で、素養がない人がいくら努力しても、使えるようには決してならない代物だったと思うのですが」
「そう。そうなんだよね」
但馬はあっさりと認めた。
「今のこの世界と、俺が生きていた時代とはそこが違うんだ。俺が生きてた頃は、魔法は手術で頭の中に制御チップを埋め込まなきゃ使うことが出来なかった……でも、今の世の中でそんなことしてる人なんて、見たことも聞いたこともない。
大体、俺が記憶してる限り、マナはそんな万能の力じゃなくて、ごく限られた狭い空間しかカバー出来ないものだった。質量の軽い物をちょっと動かしたり、機械のスイッチをオン・オフしたりとか、せいぜい生活する上での補助的なものでしか無くて、あれば便利って程度のものだった。マナが大気中に満遍なくばら撒かれてるなんてことは無かったし、ましてや、森を消失させちゃうくらいとてつもないエネルギーを放出したりなんて出来なかった。
となると考えられることは一つ……つまり、俺が死んだ後もマナを取り巻く技術は進化し続けて、よりパワーアップしたんだろう。そして、その進化の過程で、手術無しでもマナを制御できる特性を持った人間が生まれてくるようになったんじゃないか」
ガンダムで言うところのニュータイプとオールドタイプみたいに。
「そして、それと同じく新たに生まれたのがエルフという生き物だ。大昔、この地球はどうやら未曾有の危機に晒されて、生物が生きていくのさえ困難な時期があった。そんな時、一部の人間は生き残りのために自らの肉体を変化させ、その脳も体も何もかも全て取り替えてしまった。
お陰でエルフは魔法を駆使することで過酷な環境に適応することが出来、ロクに食べなくても生きてける上に、その寿命も千年以上、元の10倍以上にまで伸びた。しかし人間性は失われ、単独で行動してることから分かる通りコミュニケーション能力が無く、どうやら森の中でしか生きていけず、フラフラと彷徨っているだけの生き物というよりも、もうただの災害のようなものに成り果ててしまった。
一方、そうはならず、人間としての矜持を捨てずに、過酷な環境に立ち向かった者達も居たんだろう。それがセレスティアに辛うじて生き残っていた人々で、生きるだけで精一杯だった彼らは、過去の文明の知恵を失い、原始的な生活を送っていた。ところがそんな時、氷河期が来て海が凍り、食べ物を探して南下して来たところ、エトルリア大陸でエルフとぶつかってしまった」
それを聖女リリィが先導し、エルフを駆逐し、生きるのに必要な知恵と土地を与えて去っていった。こんな都合の良いヒーローが突然現れたことには、きな臭いものしか感じないが……今はそれを疑っていても始まらないので、
「話を戻すけど、これまで述べてきた通り、魔法の力ってのは大昔の人類が残した遺産だったわけだ。まるで神の奇跡のように見えるけど、実際はそんなもんじゃなく、種も仕掛けもある科学の力に過ぎないんだ。だからまあ、エルフの力も、聖遺物を使って得られる魔法の力も、実は同等のものなんだよね」
「じゃあ、どうして人間はエルフに勝てないの?」
黙って話を聞いていたアナスタシアがボソッと呟くように言った。
「良い質問だ。ぶっちゃけて言えば、それはあっちのほうが魔法を使うのが上手いからだよ。エルフはその存在自体が魔法を使うのに特化してるのに対し、人間はその力の正体も良くわからず使ってるだけなんだから、大人と子供が駆けっこするようなもので、まともにやったんじゃまず勝ち目がない。
じゃあ、この魔法の上手い下手ってのはどう決まるのかって話なんだけど……最初に見せた俺の魔法を思い出して欲しい。光をクルクル動かして見せたやつ。あれは大気中のマナを視覚化して制御して見せたわけだけど、人間が自分の力だけで行使できる魔法ってものは、せいぜいあの程度に過ぎないんだ。
でも、知っての通り、魔法ってのは色々種類があるでしょう? 傷を癒やすヒール魔法。ブリジットの剣気を飛ばす奴。リーゼロッテさんの肉体強化。俺の爆発魔法とか。あと、魔法を使うと緑色のオーラが立ち込めて、術者にバリアを張るけど、あれもそうだよね。
これらは、実は魔法使いが直接制御してるのではなくて、世界中のどこかにある機械に命令を送ることによって実現されてるの。要は電話みたいなもので、遠隔地にある魔法制御装置に電話をかけて、これこれこう言う魔法を使いたいってお願いすると、その結果だけを送ってくれるわけ。
つまり、魔法を使うってのは、そのシステムに命令を下す儀式なわけで、魔法の上手い下手ってのは、この時、どれだけの命令を送れるかに掛かってるわけだ。だけど知っての通り、人間ってのは聖遺物という補助装置がなければそれが出来ない。出来る人もいるけれど非常に稀なわけで……そして聖遺物はそれ自体が機械だから、結局は送れる情報が一律で決まってて、ワンパターンなんだよ。それじゃ柔軟に命令を変更し、あらゆることに即対応できるエルフ相手には敵いっこない」
リーゼロッテがものすごく渋い顔をして言った。
「それでは、やはりエルフを倒すことは不可能なのでは?」
「いや、そんなこともない。最初に言った通り、魔法ってのは元々手術をして後天的に体得するものだったから、訓練次第で上手になる余地はあるはずだ。ただ、それは第六感を磨いて、直接魔法制御装置にアクセスする技術を磨いた者に限られるだろう。そして残念ながら人間は聖遺物を使うことで、その可能性を自ら閉ざしている。俺が思うに、もしも人間がエルフに魔法で勝とうとするならば、聖遺物を捨てて新たに第六感を鍛えなおさなければならないと思うんだ」
「そんなことが可能なのですか?」
「って言うか、やってるんだけどね。聖遺物を扱うときにほんのちょっとだけど。結果的に聖遺物を使って楽を覚えてしまうから、それ以上成長しないってだけで。だから、聖遺物無しでも魔法は使えるってことを強く意識して反復練習を繰り返せば、いつかそれ無しでも使えるようになると思う」
リーゼロッテはムムムッと唸った。
「それは考えたこともありませんでした」
「仕方ないことなんだろうけど、みんな聖遺物があるから魔法が使えるんだって意識が強すぎるんだよ。実態はあくまで詠唱を補助するための道具にすぎないはずなんだけどね。っていうか、リーゼロッテさんは多分もうすでに何らかの力を得ては居ると思うんだけど……」
「……? と言いますと?」
「あんた、聖遺物に関して妙な直感が働くでしょう? これはどう言う武器だとか、どんな魔法が使えるだとか。それは他の人はない感覚だよ。要はそれを突き詰めていけば、魔法を使うための第六感ってものが身についてくるはずなんだけど」
彼女はチンプンカンプンだと言いたそうな顔で、
「抽象的すぎてさっぱりでございますね。もう少し、噛み砕いて説明は出来ないものなのでしょうか……」
「感覚の問題だからね。例えば甘いってのは、どう言う味覚なのか説明しろって言われても、砂糖を舐めろとしか言いようがないでしょう?」
自分で試して気づくしか無い……突き放しているわけではないが、結果的にそんな感じになってしまい、但馬は歯に物が挟まったような感じがしたが、しかし対するリーゼロッテの方は何かを掴んだように小刻みに首肯を続けていた。彼女は魔法使いである前に剣豪であるから、もしかしたら長嶋茂雄的な何かを感じ取ったのかも知れない。
そんな二人のやり取りを黙って聞いていたアナスタシアが尋ねた。
「それじゃ、エルフ対策って、その第六感? ……センスをみんなで磨こうってことなの? エルフに勝てるようになるまで」
話の流れでそう受け取ったアナスタシアは、かなり嫌そうな顔をして但馬を見ていた。ブリジットに誘われたから来たが、そんな面倒なことはやりたくないと言った感じだ。但馬は苦笑いし、もちろんそれを否定する。
「いやまさか。そんな悠長なことやってたら何年かかるか知れないよ。相手は1千年以上を生きる化物なんだし、経験値だけで言ったら、もしかしたら一生勝てないかも知れない。だからさ、俺は同じ土俵には立たないほうが良いと思うんだよね」
どういうことだろうか? アナスタシアは怪訝そうに首をかしげた。
「ところで自慢じゃないんだけど、俺ってエルフに勝てるんだよね。実際、二度ほど勝ったことあるし。でも、これまた自慢じゃないけど、ブリジットと喧嘩したら瞬殺だろう。絶対勝てる気がしない。さて、ここでクエスチョンだ。ブリジット……君はエルフと戦ったらどう? 勝てそう?」
ブリジットは静かに首を横に振った。
「いいえ、勝てません。先生と同じく、二度も彼らと対峙する機会はありましたが、私では相手の攻撃を受けるのが精一杯でした」
「これっておかしいだろ、ジャンケンじゃないんだから。俺の魔法の力はエルフをも凌駕するけど、ところが人間相手にはからきしで、ぶっちゃけ強くないんだよね。実際、何度か死にかけてるし、エリオスさんには毎日のようにもっと鍛えろだとか、脆弱すぎるだとか言われてるのに……なのにエルフには楽勝って、おかしいだろう?」
その場に居る3人が、これ以上無いほど力強くうんうんと頷いた。
「で、思い立ったんだけど、俺もエルフもその強さは魔法に集約するわけじゃないか。攻撃しようとしても魔法バリアで防いじゃって、逆に人間には到底抗しきれない圧倒的魔力で粉砕する。
でも、俺は年がら年中魔法を使ってるわけじゃないし、特に人間相手に使うことはない。ちょっと油断したら野生動物相手にだってコロリと殺られちゃう……
それってエルフも同じなんじゃないのか? あれは、見た目は明らかに人間とは別物になってしまってるけど、動物の範疇を逸脱してる感じではない。その皮膚が鋼鉄で出来てるわけでもないだろうし、マッハで空を飛んだり、木々をなぎ倒して森を駆け抜けたりもしない。
なんて言うか、見た感じ普通なんだよ。魔法さえ使わなければ」
言われてみれば確かに……しかし、リーゼロッテが反論した。
「社長のおっしゃることはわかりました。ですが、そうであるならば、今まで人類が一方的に蹂躙され続けてきた理由がありません。エトルリア皇国が興ってから一千年。それだけの期間があったならば、1度くらいは人類がエルフに勝利したというような逸話が残っていてもよろしいではございませんか」
「そうだね。でもそれには理由が2つほどある。1つは、そもそも人間が天敵であるエルフを避けて暮らしていたこと……そしてもう1つは、恐らく人間がエルフから先制攻撃を奪うことは不可能であるということ。あいつらは、人間相手に決して油断したりしないんだよ」
「どういう事です?」
リーゼロッテが首を傾げる。
「人間が近づくとエルフにはすぐに分かっちゃうってこと。ひっそりと近づこうとしても先に見つかっちゃうんじゃ、不意を突くなんて不可能だ」
「何故、そう言い切れるのでございましょうか」
当然、そんな疑問が返ってくる。断言するには情報が少なすぎるはずだが、但馬は自信満々にそう言い切るのだ。もちろん、それには理由があった。
「ぶっちゃけて言えば、俺がそうだから。俺は、普通に勝負したら敵いっこないけど、森の中みたいに隠れるとこがいっぱいある場所でなら、リーゼロッテさんの背後を取れる自信があるよ。そしてそれは、あんたの前のご主人、リリィ様も同じだろう……」
但馬がリリィの名前を出したことで、リーゼロッテとブリジットの二人はその理由を察したらしい。しかし、アナスタシアにはどうして彼女たちが納得したのかさっぱり分からなかった。
「どうして、ルルちゃん……リリィ様が関係あるの?」
彼女がそう尋ねると、但馬は言った。
「俺とリリィ様は同様の力を持ってるんだよ。なんつーか、魔法的な」
「同じ力?」
「うん。例えば、人間が動物や植物なんかの対象を認識するとき、視覚とか聴覚とか触覚とか、そういった五感を駆使してそれが何であるかを知ろうとするよね? 俺とリリィ様はその五感の他に、魔法を利用した第六感みたいなものを持ってるんだ。見たり聞いたり触ったりするんでなく、魔法の力でどこに何があるのかと言うことを知ることが出来る。俺はこれを鑑定魔法とレーダーマップって呼んでたんだけど……
恐らく、エルフはそれと同じ能力を持っているんじゃないか。だから、いくら人間がコソコソ隠れて近づこうとしても、不可能だった。エルフには魔法の力で筒抜けなんだ。
でも、今まで述べてきた通り、実はこの魔法の力ってのは、大昔の人たちが作り上げた仕組みであって、電磁気的な力で動いてるんだよね……だから決して万能の力ではなくて、どこかに弱点があるはずなんだ」
そして但馬はグルリと全員を見回してから、締めくくるように言った。
「で、思いついたんだ。相手は自分の魔法の力を過信してる。なら、その驕りを利用したらどうだろうか……魔法の力で周囲の生体反応を認識してるのであれば、それを擬態することで、相手の油断を誘うことが出来るんじゃないかと」
「そんなことが出来るんですか?」
「出来る……と、思う。少なくとも、俺のレーダーマップは偽装出来た。だから、エルフにも効くと思うんだけど……」
本当に但馬と彼らが同じ能力を持っているかは、まだ仮説に過ぎないので、絶対とは言い切れない。そこでエルフに対抗するための決死隊を募って、人類単独でのエルフ討伐が果たして可能であるかどうかの作戦を但馬は立案したのだ。






