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あなたが浮気できるのは私のおかげだと理解していますか?  作者: たくみ


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56.救出2

「ちょ、ちょちょちょ大丈夫ですか!?落とさないでくださいよ」


「うるさい小娘!背中にしっかり括り付けてあるから大丈夫だ!……たぶん」


「ひぃーーーーーっ!今たぶんって言ったでしょ!?」


 先に下に降りたユリアと影。


 ギャアギャアと騒がないでほしいと思いつつエリーゼをおんぶしながら一歩一歩梯子を慎重に降りるサイラス。


「「っっっはぁーーーーーーー」」


 サイラスが無事に地に足をつけるとユリアと影は盛大に息を吐いた。


「………いやいや、二人がそんなに緊張するところだったかい?」


「そりゃそうですよ!エリーゼ様が背中から落ちてきたら受け止めようと思ってたんですから!」


「小娘と同じく!エリーゼ様に傷でもついたら公爵様にどんなお叱りを受けるか!」


 そうか、あんなにぎゃあぎゃあ騒いでいたのに下で受け止める気でいたとは。なんとも器用な2人なようだ。


「さ、ではサイラス殿近くに馬車を待機しておりますのでそこまでお姫様抱っこでお願い致します」


 影がエリーゼとサイラスを結びつけていた紐をせっせと解きながら次の行動を指示する。


「え?あ……はあ」


 とりあえず指示通りエリーゼの背中と膝裏に手を回し抱え上げサイラスは2人と一緒に駆け出す。暫くすると馬車が見えてきたのでそれに乗り込む。


「あー……あの……影殿?」


「はい何でしょう?サイラス殿」


「これは……何かおかしくないかい」


「どこがおかしいのでしょう?なあ小娘」


「いえ、全く何もおかしくございません」


「…………………………そうかい?」


 いや、絶対おかしいだろう。


 ちらりと自分の膝の上に頭を乗せ横たわるエリーゼを見るサイラス。


「普通こういうのは女性がやるものでは……?」


 貴族の女性、しかも既婚の女性に触れるなどよろしくない。まして膝枕など――とても気まずい。


「「王子様がやるものでしょう?おかしくありません!」」


「…………………………」


 王子様て……自分はその辺の平民だ。


 いや、2人の王子様という意味がそういうことでないことはわかっている。


 こんなにも騒いでいるのに熟睡中のエリーゼの目にかかる前髪をそっと手でどかす。顔に手が当たったのに少しも動かないエリーゼ。


「エリーゼ様は昔から高熱が出るとひたすら寝るのです。まるでその様は気絶しているかのようで見ている方は恐怖を覚えるほどです」


「そうか…………影殿」


「はい」


「今回のエリーゼ救出作戦に俺は必要だったんだろうか?」


「何をおっしゃいますか!必要だったに決まっています」


 力強く肯定する姿に苦い笑みを浮かべるサイラス。


「影殿一人でも十分だっただろう?むしろ俺は足手まといだったはずだよ」


 きっと影であればエリーゼを抱えて2階からでも飛び降りられたはず。それだけしっかり鍛えているから。公爵邸で影を何人も見たことがあるが本当に同じ人かと思うほどの超人だった。


「言ったはずです。姫を助けるのは王子の役目だと。自分はただの影です。そっと影から助けることはしますが王子を押しのけることなど致しません」


「……公爵家の方は………………なぜ俺なんかとエリーゼをくっつけようとするんだい?」


「俺なんか?」


「爵位もないただの平民だし金もない、何かに秀でているところもない。それにエリーゼを傷つけているジョーの兄だ」


 傷つけているのはジョーであってサイラスではない。だが家族とは切り離せるものではなく、その人がどんな人であろうと縁続きになろうとするものは少ない。


 嫌悪感さえ表すものもいる。


「確かに俺は一時期エリーゼの婚約者だったこともある。結ばれるはずだった運命。父親によって奇跡のような縁が結ばれ母親によって奇跡などまやかしだと言わんばかりに断ち切られた縁」


 本来であれば関わることなどなかったはずの公爵家の姫君と名ばかりの男爵家の息子。


「俺にはエリーゼと結ばれる運命などないように思えるんだ」


 断ち切られた縁。


 無理矢理結ばれたそれは……弟のものとなった。


 まるでエリーゼとジョーこそが運命の相手だと言わんばかりに。結果今のこんな状況になっているわけでジョーがエリーゼの運命の相手であるはずがないのだが。


 だが天はそんな相手とくっつけてでも自分とエリーゼの縁をぶった切った。


「ジョーがエリーゼの相手としてあり得ないのはわかる。だがだからといってなぜ公爵家の方や縁のある方たちは俺をエリーゼとくっつけようとするんだい?彼女にはもっと相応しい男性がいくらでもいるはずだよ」


 サイラスをじっと見つめる影と視線が交わる。


 影はゆっくりと口を開いた。


「エリーゼ様にふさわしいとはどのような方でしょう?


 家柄で言えばどこかの王家でしょうか?


 美貌で言えばこの世で一番の美男でしょうか?


 財力で言えばライカネル公爵家の次に金持ちの家の息子でしょうか?


 性格で言えば変人、奇想天外、支離滅裂な方でしょうか?」


 いやなんか最後のはおかしくないか?


 だが、概ねそんなところだと思う。


 ちょっと頷きづらい部分もあるが、控えめに頷くサイラス。


「ほう。サイラス殿にはエリーゼ様の隣にそのような殿方がいるのが目に浮かびますか」


「…………………………ああ」


 そのような姿浮かべたくなどない。


 だがエリーゼの隣に自分の姿?


 無い無い尽くしの自分にそんなこと許されるわけない。


 そんな烏滸がましいことできるわけがないだろう。




 


 

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