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あなたが浮気できるのは私のおかげだと理解していますか?  作者: たくみ


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45/65

45.ユリアの事情

 2人がその声に顔を見合わせるのとほぼ同時に1人のこれといって特徴のない男性がするりと店に入ってくる。


「あら、何か緊急事態?」


「いえ、店の前に怪しいものがおりましたので捕まえたのですが、エリーゼ様と話したいと申しております。いかがなさいますか?」


 男は公爵家に雇われているエリーゼの護衛。日頃人前には姿を現さないように彼女を守っている。今は男爵夫人だが公爵家の血縁者ということでいつ人質にされたりするかわからない為いつでも彼女の側には複数人の護衛が隠れている。


「ムサイ男?」


「いえ、ウサギのように可愛らしい女性の方です」


「ふふ、それじゃあ通して大丈夫よ」


「承知いたしました」


 ペコリと頭を下げするりと去っていく。


 そしてすぐに再び開く扉。


「お連れしました」


 ペコリと頭を下げ護衛の男はまたするりと出ていく。


 あとに残ったのはふわふわのピンク色の髪の毛とくりくりのピンク色の瞳を持つ女性。護衛が言っていたようにウサギを連想させるような可愛らしい女性だ。


 落ち着かないのか俯きがちな視線をきょろきょろと彷徨わせ、自らの手に手を重ねぎゅっと強く握る姿からはとても緊張しているのが伝わってくる。


 別に取って食やしないのに。


「あ、あの…っ!も、ももも申し訳ございません!でも、あの、わ、わたわた、私……こ、この方法しか思いつかなくてぇぇぇぇぇ!」


 彼女はエリーゼの前に立つなり膝におでこがつきそうなほど身体を折り曲げながら叫んだ。


「気にしなくて大丈夫よ。可愛い子ちゃんは大歓迎。顔を上げて頂戴」


 エリーゼの言葉に恐る恐るゆっくりと身体を起こしていた彼女の身体が不自然に腰が折れたまま金縛りにでもあったかのように固まった。


 その視線はエリーゼの顔に向いている。


「あらぁ?あの子ちゃんと息してるわよね?エリーゼ様その美貌は本当に罪深いわね。いつか誰かの命を奪っちゃうんじゃないの~」


「えー……」


 苦い笑みを浮かべた後持っていた扇子で口元を隠す。エリーゼの顔の下半分が隠れると女性の口からはっと音が漏れる。


「も、申し訳ございません…………」


 顔を真っ赤にしてぷしゅぅーーーーーーと空気が抜けていくかのようなか細い声で謝罪の言葉を述べる様子がなんとも可愛らしい。


「ふふふ、あなたのような可愛い子に見惚れられるなんて光栄だわ。それで私に何か用?何やら助けを求めていたようだけれど」


 可愛い子……畏れ多い言葉にも驚くが恐らく同じような年なのに子ども扱い。確かに自分にはない落ち着きや心の余裕を持っているように見受けられる。


 自分が情けなくなってくる。でも落ち込んでいる場合ではない。せっかく時間を割いてくれているのだから早く話さなければ。


「あ、あ、ああああああああの!私!あ、あの!あ、ああああああ」


「ちょっとあなた大丈夫!?ほらこれでも飲みなさいよぉ!まだ口をつけてないから汚くないから」


 ジェラルドから渡されたカップを受け取り口をつけて、ほっと一息ついたかと思うと再び固まった。


 いや、カタカタと少し震えている。


「「本当に大丈夫?」」


 思わずハモったエリーゼとジェラルドの言葉にはっと正気を取り戻した彼女はカップを両手で大事に持ち直し、恐る恐る机に置いた。


「す、すすすすみません!高そうなカップで割っちゃったらどうしようかと思って」


「やだぁその時はその時よぉん。この店ははやってるからそんなカップくらいいくらでも買えるから大丈夫。それにエリーゼ様って超超超お金持ちなんだからそんなことで怒らないから安心してちょうだい!」


「は……はい」


 こ、これを何個も買えるとは――お金はあるところにはあるものなのだ。女性の目が何やら輝いたことにエリーゼは気づく。


 そもそもこんなところに直撃してくるくらいなので、行動力もあるし根は強い人なのだと思う。いざとなればなんやかんやいって自分で道を切り開いていけるタイプの人間に見受けられる。


 そんな彼女の手に負えない事態とは一体――?


 ニ……とエリーゼの口元に笑みが浮かんだ。


 それに気づかない女性はゴクリと唾を飲み込むと口を開いた。


「あの、私ユリアと申します」


 見た目も可愛ければ名前も可愛らしい。親はきっと先見の明がある賢い人だったに違いない。


「母は3年前に病気で亡くなり、その寂しさを埋めるように父はアルコールとギャンブルに走るようになりました」


 前言撤回。賢くなかった。


「父はそれなりに良い給料をもらっていましたし、ギャンブルも最初は勝っていたのでなんとか生活は成り立っていました」


 あー……なんとなく話が見えてきたかもしれない。


「自分はギャンブルで食っていくんだと仕事を辞めてしまいましたが、次第に勝つことができなくなって、負けを取り戻そうと更にのめり込むようになりました。そして今では借金地獄です」


 ま、ですよね。


 その辺の庶民がやるギャンブルとは最初は勝たせて甘い汁を吸わせ、どんどんのめり込ませ本性を表す。いかさま師の登場だ。裏で操作しているのだから勝てるわけがないのにやめられない沼にはまっていく。


 最後には借金、そして――


「そして毎日私を差し出せと借金取りが家まで押しかけてくるようになりました」


 やはりお決まりのパターン。


 では娼館行きをなんとかして欲しいといったところだろうか。


 手を差し伸べるべきか否か――。



 エリーゼはユリアをじっくりと観察した。





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