39.同じ
「……なぜご家族がジョーの言動を貴方がたに黙っているかおわかり?」
「「「「そんなのわかりませんよ……」」」」
エリーゼの顔も見ず適当な返事をする彼ら。どうでも良いと言わんばかりの態度の彼らに幼子に諭すように優しく語りかけるエリーゼ。
「貴方がたに友人がいないからだそうよ」
「「「「は?」」」」
いや、いるし。現に今ここにだっているではないか。
「ジョーの取り巻きになる前、あなた達は友人の一人もいなかったそうね?」
「「「「……………………」」」」
それは……ただ気の合うやつがいなかっただけで。
話が合うやつもいなかったし、気楽だったし……。
「最近のあなたたちは義理で参加する夜会やパーティ以外でも外出するようになり、明るくなったと皆さん喜んでいらっしゃるそうよ」
「「「「……………………」」」」
まさかそのようなことを思われていたとは思わず何も言葉が出てこない。
「ジョーから金銭をもらうことに良い顔はしていなかったけれど、また以前のようになるくらいなら自分たちが多少我慢すれば良いと思っているそうよ」
本人たちもいいと言っているなら尚更良いではないか……はは……。そう、本人たちだって納得しているのだから……。
そう思おうとするのに心にもやもやとしたものが湧いてくる。聞きたくなどなかった。
「俺の快楽のために我慢しろと強いる男たちとあなたたちに笑顔を失わせまいと自らに我慢を強いる女たち。世の無情さを感じるわね、ね?サイラス」
「あ、俺?」
置物と化していたサイラスは完全に油断していた。
「……まぁ誰しも金は大事だし別にジョーが自分から金銭を渡しているから君たちに罪はないけれど」
あ、なんか取り巻き君たちがうるうるした目で見てくるのはなぜだろうか。やめてほしい。決して味方をするつもりなど無いのだから。
「でも自分たちだって好みじゃない女性とか、不快感を感じる女性に擦り寄られたら嫌じゃないか?ましてご家族は女性だしジョーは身体がでかいし、声も大きくて…こう上からの言い方をするからかなり怖いと思う」
それは自分たちだって、嫌かもしれない。
だけどやっぱり……
「生活がかかっているわけでも、家のためでもないんだ。自分たちの欲を満たしたいなら周りに迷惑をかけないやり方でやるべきじゃないのかな?」
自分たちでやってるつもりだった。別に楽しくてヘコヘコしていたわけじゃないし、ただ感情任せの罵詈雑言など、聞いていたいものなどではない。自分たちだって我慢してジョーの側にいるのだ。
ジョーが家族にまで手を出そうとするなんて、そこまで調子に乗っているなんて思わなかったのだ。だって普通そんなふうに考えないものじゃないか。
でももう引き際かもしれない。ジョーの相手も疲れるし。
だが、どうしても金が頭から消えてくれない。
その甘い甘い蜜の味が頭から離れないのだ。
自分でも自分が情けない。
でも……人間なんてそんなもんじゃないのか?
欲深く愚かで――。
「ああ、まだ先だけれど私はジョーとは離婚するつもりだから彼は一文無しになるわよ。すぐに父に頼んで支援を止めることもできるけれど……ふふ、それはまあおいおいね」
「「「「!?」」」」
何を言っているのだ?いや、彼女への扱いを考えたら当たり前とも言える。でもなぜここにきて?
「彼ってお金がなくなったら逆にあなたたちにまとわりつきそうじゃない?」
ああ、その光景が頭に浮かぶよう。
取り巻きたちは冷や汗を流し始める。
「早く離れたほうがいいんじゃなくて?」
コテンと首を傾げるエリーゼに更に冷や汗が止まらない。
ヤバい、それは早く離れた方が……
そこで気づく。
「あの……」
うん?と見つめてくるエリーゼと目が合う。本当に天使のように綺麗な顔だ。こんな間近で見る機会はもう二度と来ないだろう。こんなときにそんなことを思いつつ、言葉を紡ぐ為にごくりと唾を飲み込む。
「わ、私たちをジョーから引き離したいなら最初からそれを言ってくだされば良かったのでは……?」
しんと静まり返る場。
それはそうだ。離縁すると決めたことさえ聞かせてくれれば今までのくだりは必要だったのだろうか。
あまり聞きたくないことばかり聞かされて、ショックが大きい。
「あら」
エリーゼがふわりと微笑む。彼女の周りに華やかな毒々しい花が咲き乱れているのは気のせいだろうか。
取り巻きたちの肌が粟立つ。
「あなたたち……危機感が足りないんだもの。私は穏便に離してあげようと思ったのよ?でもあなたたちお金の虜になっちゃってるんだもの。
それにしてもあなた達……現実と向き合わないのはジョーと同じよ?あんなふうになりたいの?」
あんなふうに………………?
ブンブンと首を横に振る取り巻きたち。
「自分を変えるには現在の状況をきちんと把握しなくてはだめよ。あそこまでなったらもう手遅れだけれど。ああ、お礼は結構よ。ご家族を大事にね?」
は、はい……そう言って去っていく元取り巻きたちは疲れた顔をしていた。




